著者
伊藤 美加 長井 誠 早川 裕二 小前 博文 村上 成人 四ッ谷 正一 浅倉 真吾 迫田 義博 喜田 宏
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.899-906, 2008-09-25
参考文献数
39

2007年8月,石川県金沢競馬場において馬インフルエンザが発生した.感染馬の症状は主に発熱(38.2-41.0℃)および鼻汁漏出で,呼吸器症状を示した馬はわずかであった.全ての競走馬は不活化ワクチンを接種しており,ワクチンにはH3N8馬インフルエンザウイルス,アメリカ系統のA/equine/La Plata/93株,同じくヨーロッパ系統のA/equine/Avesta/93株,およびH7N7馬インフルエンザのA/equine/Newmarket/1/77株が含まれていた.鼻腔スワブ材料からH3N8馬インフルエンザが分離され,A/equine/Kanazawa/1/2007と命名した.系統樹解析では,A/equine/Kanazawa/1/2007株はアメリカ系統のフロリダ亜系統に属した.さらに,HA1サブユニットのアミノ酸解析を行ったところ,同じアメリカ系統のワクチン株であるA/equine/La Plata/93株と比較して,BおよびEの抗原決定部位に4アミノ酸の置換が認められた.また,回復期の馬16頭から採材した血清を用いて赤血球凝集抑制反応を実施したところ,A/equine/Kanazawa/1/2007株とワクチン株間に1〜3管の差が認められた.これらの結果から,流行株とワクチン株に抗原性状の差が示唆されたが,わが国の現行市販ワクチンは罹患率の低下や発症期間の短縮に貢献したと思われた.