著者
浜名 真以 針生 悦子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.46-55, 2015 (Released:2017-03-20)
参考文献数
26

子どもは本来より広いもしくは狭い範囲でその語の意味を捉えていることがあり,徐々に大人に近づくと言われている。本研究では幼児期における感情語の意味範囲の発達的変化を検討した。2~5歳児クラスの幼児118名を対象として,ストーリーを聞かせて主人公のキャラクターの感情を尋ねるストーリー課題と,表情写真からモデルの感情を尋ねる表情写真課題を行った。正答誤答に依らず課題を通して使用した感情語の数は2歳児クラスが3,4,5歳児クラスより少なかったものの,3~5歳児クラスの間では差が見られなかった。ストーリー課題では2歳児クラスの子どもは呼び分けが曖昧で,3,4歳児クラスになると快不快の呼び分けがなされるようになり,5歳になると不快感情内についても呼び分けができるようになることがわかった。表情写真課題では2歳児クラスの時点で喜び,驚き刺激を呼び分けており,2歳児クラスで他の不快刺激と呼び分けていた怒り刺激を3歳児クラスになると他のネガティブ感情刺激といったん一括りに捉え,4歳児クラスになると怒り刺激と嫌悪刺激が,また,恐怖刺激と悲しみ刺激が同じ語で呼ばれるようになり,5歳になると各刺激がばらばらに呼び分けられ始めることが示された。このことから,感情語においても新しい語が使えるようになった後もレキシコンの再編成が続き,語の意味範囲が変化していくことが示された。
著者
浜名 真以 分寺 杏介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.51-61, 2023-03-30 (Released:2023-03-25)
参考文献数
31

感情語を獲得することは子どもの社会化や感情経験の発達に重要な役割を持つ。本研究の目的は,幼児および小学校3年生までの児童を対象とする短縮版感情語彙尺度を開発することである。研究1では,年少児から小学3年生までの子どもを持つ母親からデータを収集し,項目反応理論を用いて幼児用および小学校低学年用の感情語彙尺度を開発し,情動コンピテンスとの関連を調べた。研究2では,幼児用感情語彙尺度で測定される感情語彙能力と一般的な言語能力や社会的コンピテンスとの関連,研究3では,低学年用感情語彙尺度で測定される感情語彙能力と一般的な言語能力との関連を検討した。感情語彙能力と子どもの一般的な言語能力や社会情動的コンピテンスの関連から,本尺度の妥当性の証拠が確認された。
著者
浜名 真以
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

「嬉しい」「悲しい」といった感情語は,コミュニケーションや感情の制御,理解を促すものである。感情語の使用や理解を精緻に捉えるために,本研究プロジェクトでは,1)子どもを対象とした研究,2)母子を対象とした研究を実施してきた。本年度は研究の実施を進めるとともに,国内外の学会や学術誌においてこれまで得られた知見の発表を行った。本年度新たに得られた知見として,1)に関しては,幼児期における自己のネガティブ感情と他者のネガティブ感情の推論についての研究を行った。1つ目の研究では,感情を経験する場面として,友達に自分の制作物を壊されるという被害場面を設定し,幼児を対象にその状況の解釈や感情推論に関する質問を行った。その結果,幼児は被害者が他者である場合に比べ被害者が自己である場合の方が,加害者の敵意をより低く,被害者の修復能力をより高く評価するといったように状況を楽観的に解釈し,そこで経験するネガティブ感情の強度をより低く評価することが明らかになった。2つ目の研究では,幼児を対象に経験主体が自己である場合と他者である場合のポジティブ状況とネガティブ状況への遭遇頻度の見積もりついて尋ねた。その結果,幼児は,他者に比べて自己はネガティブ状況に遭遇しにくいと考えていることが明らかとなった。2)に関しては,幼児期の子どもの母親が感情言及を強く方向づけるイラストを見せながら子どもに状況を説明する際の感情語の発話と,その子どもの感情語彙数,感情理解,社会的行動との関連についての縦断調査を行った。1時点目の結果として,ポーティブな感情制御発話をする母親の子どもほど問題行動が少ないこと,多くの種類の感情語を話す母親の子どもほど感情語彙数が多いことが示された。これらの結果から,母親の感情についての語りは子どもの社会情緒的コンピテンスに寄与することが示された。縦断調査は現在も継続中である。