- 著者
-
海野 聡子
- 出版者
- 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
- 雑誌
- 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.3, pp.260-266, 2017-09-30 (Released:2018-10-01)
- 参考文献数
- 29
1953 年, 長年てんかん発作に苦しんでいた27 歳の男性に, 両側の側頭葉内側部を切除する実験的な手術が行われた。手術は成功し, 発作は軽減したが, 重篤な記憶障害となった。1957 年, この症例が発表された当時, 記憶は脳に局在を持つとは考えられていなかった。この結果は, 記憶が脳の機能の 1 つであり, 側頭葉内側部が記憶に重要であることを示した。本症例の今日的意味は, たった 1 人の患者が, 当時の常識を覆し, 記憶システムの解明をもたらしただけでなく, さらなる探求の端緒となったことである。症例H. M. として, この男性は神経心理学史に永遠にその名を刻まれることとなる。