著者
深井 小久子
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.49-61, 1998-07-10 (Released:2009-10-29)
参考文献数
32
被引用文献数
3 3

1.視能矯正ニーズの変遷視能矯正は小児の弱視と斜視が主要対象であったが,早期発見と予防・治療の進歩で,重篤な弱視や斜視の感覚運動異常は減少した.1993年には,視能訓練士法に検査業務が明確化され,視能検査が拡充した.21世紀を間近にして視能矯正の社会的ニーズは,乳幼児の健診,成人病検診,リハビリテーション(眼球運動障害),ハビリテーション(Low Vision),高次脳機能(学習障害,重複障害等)の領野に発展がある。本報では高齢社会でニーズが高まっている「後天性眼球運動障害の視能訓練」を報告する.2.どんな後天性眼球運動障害が増加したか23年間の後天性眼球運動障害の視能訓練数は296例であった。その発症原因は,外傷(頭部・眼)が第一位,次いで,炎症や脳血管障害があげられる。これは39歳以下と40歳以上でその頻度は異なる。前者は外傷(頭部・眼)によるものが第一位であり,後者では炎症,脳血管障害による眼球運動障害が増加している。3.教科書どおりの患者はいない後天性眼球運動障害は眼窩機械的,筋性,眼運動神経,核間などの障害で発症し,部位や程度により訓練の適応や効果が異なる。しかし,視能訓練をすすめる前提として「原因は何か」「どんな症状があるか」「何が不自由か」を分析し患者の実際的ニーズを知る。4.効果的な訓練法はなにか相反神経支配の異常と融像異常の状態から視能訓練プログラムを作成した。垂直偏位が水平より大きい場合は眼球運動訓練から輻湊,そして融像訓練にすすむと良好な結果が得られる。5.訓練により“治った”評価296例の結果は,治癒度Iは45%,治癒度IIは約44%であった。訓練の最終目標は,日常生活と社会復帰が“できる”満足度である.従って訓練により“治った”という基準には,日常生活での体験的な評価を含めたものが望ましい.融像の向上と日常生活の不自由度(満足度)の関係は必ずしも一致しなかった。6.視能訓練の社会的意義視能訓練は専門性が高い機能回復訓練であり,これにより社会復帰が可能なものは約88%ある。後天性眼球運動障害は外眼筋自己受容器系の障害であり,融像機能で視覚性と筋性の眼球位置覚を統合させ再建させることができる。この効果を具体的に示し,社会ニーズに応えていくことは,これからの視能矯正の発展につながる.
著者
岡 真由美 深井 小久子 木村 久 向野 和雄
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.139-144, 1999-07-25 (Released:2009-10-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

Intensive orthopticsにより良好な結果を得た陳旧性の後天性眼球運動障害例の治療経過と視能矯正管理の方法について報告した。症例は33歳の男性で、主訴は複視と動揺視である。第4脳室周囲上衣腫の摘出後に眼球運動障害、複視、眼振が出現した。約2年後、当科に入院し40日間視能訓練を施行した。退院後、北里大学病院眼科で眼振に対する治療を開始した。視能訓練の効果は、斜視角の改善率、融像能率、日常生活上の不自由度で判定した。治療前は融像衰弱(融像能率0%)であった。眼位は9Δ内斜位と右眼2Δ上斜位斜視で輻湊不全と眼振を伴っており、核上、核間、核下性眼球運動障害を示した。視能訓練は、Visual orientation trainingとConvergence trainingを行った。訓練8日目には輻湊近点の改善が認められ、融像能率は66%、改善率は82%になった(第I期)。訓練9日目よりFusion lock trainingを行い、訓練40日目に融像能率は78%になった(第II期)。退院後はSG fusion trainingと眼振治療を行った。訓練1年目に動揺視は軽減し、融像能率が100%、改善率が92%になった(第III期)。不自由度は訓練前100点から訓練後22点に回復した。本例において視能訓練が奏効したポイントは、斜視角が小さいこと、融像衰弱であったこと、患者の訓練意欲にあると考えた。
著者
吉田 仁美 深井 小久子
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.255-262, 1999-07-25 (Released:2009-10-29)
参考文献数
22

正常者の固視点を画像診断的に分析するために、内田式視標付無散瞳眼底カメラを用いて固視点を撮影した。また、固視点と視機能特性を検討した。対象は正常者120名240眼である。正常者の選択基準は、視力1.0以上、両眼視機能60arc sec.以上を有し斜視のないものとした。固視点の観察は、内田式視標付無散瞳眼底カメラ(ウチダ&トプコン)で撮影した。視標は、固視部分視角1°、全体の内径10.62°の同心円視標と無交叉視標を使用した。固視のずれは、固視視標と中心窩反射の位置で判定した。ずれの計測法は、ずれが認められた画像をCRT画面上に入力して固視視標の中心から中心窩反射の中心までの距離を測定し、視角で算出した。その結果、固視点は中心固視が209眼(87%)、固視のずれが31眼(13%)であった。固視のずれの方向と平均距離(視角)は、鼻側方向が29眼0.6°、耳側方向が2眼0.7°、上側方向が24眼0.5°、下側方向が3眼0.5°であり、上鼻側方向の合併が31眼中23眼に認められた。また、視角1°以内のずれは31眼中29眼であった。固視のずれが認められた眼の視機能には特性は認められなかった。正常視力にもかかわらず固視のずれが認められた原因として、解剖学的に網膜中心窩の斜台の傾斜が不均等なために、中心窩反射と解剖学的中心窩が一致しないこと、また網膜の発達過程において錐体細胞密度に偏りが生じたことが推察された。
著者
岡 真由美 新井 紀子 深井 小久子 木村 久
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.113-117, 1995-08-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
14

基礎型間歇性外斜視に対してボツリヌス毒素療法を施行し,過矯正眼位が出現した後,良好な治療経過を認めた症例と過矯正眼位が出現せず斜視の再発を認めた症例を比較し,経過良好例よりボツリヌス毒素療法の視能矯正について検討した。良好例の治療前眼位は,30ΔX(T)',25ΔXTであった。ボツリヌスを右眼外直筋へ2回注入し,斜視角は減少したが残余角を認めた。第3回目は両眼外直筋に注入し,70ΔET',68ΔETとなったが5か月後4ΔE',4ΔEに改善し,約2年間良好な眼位を保持した。不良例の治療前眼位は,30ΔX(T)',35ΔXTであった。ボツリヌスの注入は,注入量を漸増しながら右眼外直筋に計4回行った。眼位は,6ΔX',6ΔXに改善したが外斜視の再発を認めた。ボツリヌスの両眼外直筋への注入により,両眼内直筋のトーヌスが一時的に増強し輻湊が賦活されたため良好な眼位保持が,可能であったと考えられた。
著者
深井 小久子 早川 友恵 難波 哲子 逸見 裕子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.37-40, 1981

In the recent examination method of stereopsis, a target with random dots having a real depth, such as the Frisby test, has been developed. As an objective method of binocularity test, the binocular effect of VECP was examined comparatively on several kinds of real solid target. Visual stimulation was given by the binocular liquid crystal electric shutter which triggered an average computer to induce a steady state VECP.<br>Target with less uneven surface such as flat checkerboard pattern, white plaster bust, panel of the Frisby test and projected doll's slide on screen induced a binocular excitation of VECP up to &radic;2 times.<br>Target with rich uneven surface such as a French doll with tucked skirt and building of black and white wooden blocks induced a remarkable increase of binocular excitation up to &radic;4 times. Consequently, for the objective test of binocularity by VECP, building of wooden blocks was found to be the best stimulating target since the building could indicate an amount of disparity from the Vieth-M&uuml;ller circle.