著者
深澤 遊
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.311-325, 2013-11-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
114
被引用文献数
6

菌類は枯死木の分解において中心的な役割を果たしている。枯死木の細胞壁を構成する有機物であるリグニンとホロセルロースに対する菌類の分解力に基づき、大きく分けて3つの「腐朽型(decay type)」が知られている。白色腐朽では、リグニンが分解されるため材は白色化し、繊維状に崩壊する。褐色腐朽では、リグニンが変性するだけで分解されずに残るため材は褐色化し、ブロック状に崩壊する。軟腐朽は含水率の高い条件で起こり、主に材の表面が泥状になる。異なる腐朽型の材では、物理化学性が異なるため、枯死木を住み場所や餌資源として利用する様々な生物群集に影響を与えることが予想される。本稿では、細菌、菌類、植物、無脊椎動物、および脊椎動物の群集に対する材の腐朽型の影響について実証的な研究をレビューする。細菌については、褐色腐朽材に比べ白色腐朽材で窒素固定細菌の活性が高いことが知られている。腐朽型が菌類に与える影響に関しては研究例が非常に少ないが、腐朽菌や菌根菌が材の腐朽型の影響を受けることが示唆されている。植物についても研究例が非常に少ないが、種により実生定着に適した腐朽型が異なるようだ。無脊椎動物については、特に鞘翅目およびゴキブリ目の昆虫に関する研究例が多く、種により好む腐朽型が異なることが知られている。脊椎動物についてはほとんど研究例がなかったが、腐朽菌の種類によってキツツキの営巣に影響があることが示唆されている。腐朽型が生物群集に影響する理由としては、材の有機物組成や生長阻害物質、pHが腐朽型によって異なることが挙げられている。このように菌類には、ハビタットとしての枯死木の物理化学性を変化させることで他の広範な分類群の生物群集に強い影響を与える生態系エンジニアとしての働きがあると考えられる。ただし、その一般性については今後さらに多くの分類群の生物に対する菌類およびその腐朽型の影響を検証していく必要がある。
著者
深澤 遊
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.311-325, 2013
被引用文献数
4

菌類は枯死木の分解において中心的な役割を果たしている。枯死木の細胞壁を構成する有機物であるリグニンとホロセルロースに対する菌類の分解力に基づき、大きく分けて3つの「腐朽型(decay type)」が知られている。白色腐朽では、リグニンが分解されるため材は白色化し、繊維状に崩壊する。褐色腐朽では、リグニンが変性するだけで分解されずに残るため材は褐色化し、ブロック状に崩壊する。軟腐朽は含水率の高い条件で起こり、主に材の表面が泥状になる。異なる腐朽型の材では、物理化学性が異なるため、枯死木を住み場所や餌資源として利用する様々な生物群集に影響を与えることが予想される。本稿では、細菌、菌類、植物、無脊椎動物、および脊椎動物の群集に対する材の腐朽型の影響について実証的な研究をレビューする。細菌については、褐色腐朽材に比べ白色腐朽材で窒素固定細菌の活性が高いことが知られている。腐朽型が菌類に与える影響に関しては研究例が非常に少ないが、腐朽菌や菌根菌が材の腐朽型の影響を受けることが示唆されている。植物についても研究例が非常に少ないが、種により実生定着に適した腐朽型が異なるようだ。無脊椎動物については、特に鞘翅目およびゴキブリ目の昆虫に関する研究例が多く、種により好む腐朽型が異なることが知られている。脊椎動物についてはほとんど研究例がなかったが、腐朽菌の種類によってキツツキの営巣に影響があることが示唆されている。腐朽型が生物群集に影響する理由としては、材の有機物組成や生長阻害物質、pHが腐朽型によって異なることが挙げられている。このように菌類には、ハビタットとしての枯死木の物理化学性を変化させることで他の広範な分類群の生物群集に強い影響を与える生態系エンジニアとしての働きがあると考えられる。ただし、その一般性については今後さらに多くの分類群の生物に対する菌類およびその腐朽型の影響を検証していく必要がある。
著者
杉浦 真治 深澤 遊 山崎 一夫
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.143-144, 2002-12-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
6

Platurocypta punctum (Stannius) (Diptera: Mycetophilidae) was firstly recorded from Japan based on the adult specimens emerged from a fruiting body of Fuligo septica (L.) (Myxomycetes: Physarales: Physaraceae). We observed the larvae feeding on spores within the fruiting body at Kamigamo Experimental Forest in Kyoto, central Japan. P. punctum may be closely associated with slime molds.
著者
深澤 遊 九石 太樹 清和 研二
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.239-249, 2013
参考文献数
63
被引用文献数
1 3

土壌中の菌根菌群集は地上部の植生に重要な影響を与える。森林を構成する各種植物の多くは外生菌根(ECM)菌かアーバスキュラー菌根(AM)菌と菌根を形成するが、これら2つの菌根タイプはおのおの宿主範囲が異なる。このため、樹種の異なる森林の境界あるいは森林と他の植生との境界では、土壌中の菌根菌群集も異なり、これが両植生間での実生更新の違いをもたらすことが予想される。本稿では、代表的な森林の境界として、森林と草地の境界、森林と森林の境界、森林と皆伐地の境界の3つを取り上げ、森林の境界で起こっている植生動態、特に樹木実生の更新において、地下の菌根菌群集が与える影響について、実証的な報告をレビューする。森林と草地の境界では、草本の大部分がAM性であるため、隣接する森林の樹種がECM性かAM性かによって、森林由来の樹木実生の定着に及ぼす菌根菌の影響は異なっていた。ECM性の樹種の場合、実生への菌根菌の定着率や多様性は森林に近いほど高く、実生の生存・生長も良かった。一方AM性の樹種の場合、森林から離れても実生の菌根菌定着率は低くならないが、菌根菌の種組成は変化し、それが実生の生長に与える影響は樹種により異なっていた。森林と森林の境界では、ECM性の樹種とAM性の樹種がそれぞれ優占する森林同士が隣接している場合、実生と異なる菌根タイプを持つ樹種が優占する森林で更新しにくいことが示唆された。森林と皆伐地の境界では、森林から離れても実生の菌根菌定着率は変わらず種組成が変化するが、皆伐地に適応した菌種が定着するため実生の生長はむしろ森林内よりも良いことが、主にECM性の樹種による研究から明らかになっている。全体的な傾向として、境界から10m前後離れると地下の菌根菌群集が急激に変化していた。これは樹木の根圏に樹種特異的な菌根タイプが保持され、実生への重要な感染源となることを示唆している。ただし、詳細な調査がなされた樹種は少なく、今後さらに多くの樹種で一般性を検証していく必要がある。特に、AM性の樹種で研究例が少ない。マツ科のECM性樹種を主要な造林樹種としている欧米と異なりAM性のスギ・ヒノキが主要な造林樹種である我が国の人工林の適切な管理のためには、AM性の樹種を対象とした更なる研究の進展が望まれる。
著者
深澤 遊 九石 太樹 清和 研二
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.239-249, 2013-07-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
63
被引用文献数
2

土壌中の菌根菌群集は地上部の植生に重要な影響を与える。森林を構成する各種植物の多くは外生菌根(ECM)菌かアーバスキュラー菌根(AM)菌と菌根を形成するが、これら2つの菌根タイプはおのおの宿主範囲が異なる。このため、樹種の異なる森林の境界あるいは森林と他の植生との境界では、土壌中の菌根菌群集も異なり、これが両植生間での実生更新の違いをもたらすことが予想される。本稿では、代表的な森林の境界として、森林と草地の境界、森林と森林の境界、森林と皆伐地の境界の3つを取り上げ、森林の境界で起こっている植生動態、特に樹木実生の更新において、地下の菌根菌群集が与える影響について、実証的な報告をレビューする。森林と草地の境界では、草本の大部分がAM性であるため、隣接する森林の樹種がECM性かAM性かによって、森林由来の樹木実生の定着に及ぼす菌根菌の影響は異なっていた。ECM性の樹種の場合、実生への菌根菌の定着率や多様性は森林に近いほど高く、実生の生存・生長も良かった。一方AM性の樹種の場合、森林から離れても実生の菌根菌定着率は低くならないが、菌根菌の種組成は変化し、それが実生の生長に与える影響は樹種により異なっていた。森林と森林の境界では、ECM性の樹種とAM性の樹種がそれぞれ優占する森林同士が隣接している場合、実生と異なる菌根タイプを持つ樹種が優占する森林で更新しにくいことが示唆された。森林と皆伐地の境界では、森林から離れても実生の菌根菌定着率は変わらず種組成が変化するが、皆伐地に適応した菌種が定着するため実生の生長はむしろ森林内よりも良いことが、主にECM性の樹種による研究から明らかになっている。全体的な傾向として、境界から10m前後離れると地下の菌根菌群集が急激に変化していた。これは樹木の根圏に樹種特異的な菌根タイプが保持され、実生への重要な感染源となることを示唆している。ただし、詳細な調査がなされた樹種は少なく、今後さらに多くの樹種で一般性を検証していく必要がある。特に、AM性の樹種で研究例が少ない。マツ科のECM性樹種を主要な造林樹種としている欧米と異なりAM性のスギ・ヒノキが主要な造林樹種である我が国の人工林の適切な管理のためには、AM性の樹種を対象とした更なる研究の進展が望まれる。
著者
杉浦 真治 深澤 遊 山崎 一夫
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.143-144, 2002
参考文献数
6

Platurocypta punctum (Stannius) (Diptera: Mycetophilidae) was firstly recorded from Japan based on the adult specimens emerged from a fruiting body of Fuligo septica (L.) (Myxomycetes: Physarales: Physaraceae). We observed the larvae feeding on spores within the fruiting body at Kamigamo Experimental Forest in Kyoto, central Japan. P. punctum may be closely associated with slime molds.