著者
山本 伸一郎 清水 俊一 森 泰生
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.3, pp.122-126, 2009 (Released:2009-09-14)
参考文献数
15
被引用文献数
2 6

Transient receptor potential channel(TRPチャネル)のmelastatin(M)ファミリーに属するTRPM2はカルシウムイオン(Ca2+)透過性のカチオンチャネルであり,単球/マクロファージや好中球など免疫系細胞において最も豊富に発現が認められている.また,TRPM2は過酸化水素などによる酸化的ストレスによって活性化される特徴を有しているが,詳細な機構には不明な点が多い.筆者らは,当初培養細胞を用いた実験で過酸化水素刺激によるTRPM2を介したCa2+流入が細胞死を引き起こすことを初めて明らかにした.しかし,TRPM2に対する特異的な阻害薬やknock out(KO)マウスがこれまで存在しなかったことから,生体内においてTRPM2がどのような生理的役割を担っているかについては明らかにされていなかった.最近,筆者らは単球/マクロファージにおいて過酸化水素刺激によるケモカイン産生誘導にTRPM2を介したCa2+流入が重要な役割を果たしていることを明らかにした.さらに,in vivoにおけるTRPM2の生理的役割を明らかにするためにTRPM2 KOマウスを作製し,炎症性疾患の発症や進展におけるTRPM2の役割を検証した.その結果,デキストラン硫酸ナトリウムを用いた炎症モデルマウスにおいて,TRPM2依存的な単球/マクロファージからのケモカイン産生が炎症部位への好中球の浸潤を惹起し,炎症の増悪を引き起こしていることを明らかにした.本稿では,我々が明らかにした単球/マクロファージにおけるケモカイン産生誘導および炎症におけるTRPM2の関与の詳細を述べ,炎症性疾患における新規創薬ターゲット分子としての可能性を有するTRPM2の重要性について議論し,筆者らが得ている新しい知見を加えて詳細が不明である酸化的ストレスによるTRPM2の活性化について再考する.
著者
清水 俊一 石井 正和 根来 孝治 根来 孝治
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

Transient receptor potential melastatin 2(TRPM2)は、酸化ストレスにより活性化される非選択的陽イオンチャネルであり、好中球や心筋細胞に発現が認められている。本研究は、酸化ストレスや炎症反応が関わっている心臓の虚血再灌流障害にTRPM2が関与しているかどうか検討した。野生型(WT)およびTRPM2欠損(KO)マウスの左冠動脈を結紮・開放することにより心臓の虚血再灌流モデルを作製した。その結果、虚血再灌流による心筋壊死はWTマウスと比較してKOマウスでは抑制されていた。一方、虚血のみによる心筋壊死はWTマウスとKOマウスで差が認められなかった。また、虚血再潅流による心機能低下もKOマウスで抑制された。さらに、再灌流領域における好中球の浸潤が、KOマウスで抑制されていた。次に、摘出心臓の虚血再灌流障害モデルを作製し、多形核白血球(PMNs)の導入を行ったところ、KOマウス由来のPMNsを導入しても心筋壊死は軽度であったが、WTマウス由来のPMNsを導入すると著しい心筋壊死の促進が認められた。そこで、WTマウス由来のPMNsにH_2O_2とleukotriene B_4(LTB_4)を添加したところ、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が認められ、この上昇は好中球の血管内皮細胞への粘着に関わっていた。以上の結果から、TRPM2は心臓の虚血再灌流障害の進展に関与していることが明らかとなった。この機構には、再灌流時に好中球のTRPM2が活性化され、その結果、好中球の血管内皮細胞への粘着亢進による心臓への遊走が関与していると思われる。
著者
内藤 結花 石井 正和 川名 慶治 坂入 由貴 清水 俊一 木内 祐二
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.129, no.6, pp.735-740, 2009-06-01 (Released:2009-06-01)
参考文献数
9
被引用文献数
5 8

Pharmacists in a community pharmacy may recommend an over-the-counter (OTC) drug to patients with headache. However, it is not clear how pharmacists should distinguish the symptoms of patients and facilitate appropriate self-medication. Here, we investigated the role of pharmacists in a community pharmacy in recommending OTC drugs for self-medication by patients with headache and elucidated their future needs using a questionnaire intended for doctors and pharmacists. More than half of the pharmacists surveyed did not have any experience with recommending OTC drugs for patients with headache. To distinguish between patients for whom pharmacists should “recommend OTC drugs” and patients who should be encouraged “to consult a hospital or clinic,” doctors thought that pharmacists should use an “assistance tool to diagnosis headache, such as a screener for migraine” and “guidelines for chronic headache.” However, few pharmacists used these tools. About 68% of doctors indicated that it would be “meaningful” for pharmacists to distinguish patients with headache. Moreover, both doctors and pharmacists thought that pharmacists should provide patients not only with “instruction on the use of drugs” but also suggest “when to consult a hospital or clinic.” However, 32% of doctors indicated that it is “meaningless” for pharmacists to attempt to distinguish patients with headache and expressed concern about the increase of patients who overuse headache medication. These findings provide useful information to guide pharmacists in community pharmacy when recommending OTC drugs for self-medication by patients with headache.
著者
根来 孝治 中野 泰子 清水 俊一
出版者
帝京平成大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015

申請者らは、これまでに制御性T細胞(Tregs)の主制御遺伝子であるFOXP3のsplicing variants発現量が喘息患者で対照に比べ変化していることを報告した。一方、T細胞受容体刺激によるTregsのカルシウム不応答性を利用し、Tregsの機能解析も行ってきた。喘息患者では、Tregsの機能異常を認め、そのため炎症の慢性化をきたしていることが推測されたため、FOXP3 variants発現量の変化がその機能異常と相関するかどうかを検討した。各variantsのHalo-tag constructsを作製し、細胞に最適なトランスフェクション条件を選定した。さらに、特徴的なターゲット遺伝子群の発現量をreal-time PCRにより解析し、カルシウム応答性についても検討した。抑制機能の一端を担うと考えられているcAMPの産生量を測定したところ、全長FOXP3(FL)とexson2欠損体(delta2)では、delta2の方が高産生量を示していた。Tregsの機能と相関があるカルシウム応答性に関しては、FLとdelta2との間に差異は認められなかった。Exson2が欠損していてもFOXP3の機能に問題は生じていないと考えられたが、Th17細胞の主制御遺伝子であるRORgtの発現量が亢進していた。喘息患者(成人)においてdelta2/FL比が高くなることより、TregsからTh17へのシフトがvariantsの発現量によりコントロールされているかもしれないことが示唆された。