著者
谷岡 大輔 清水 克悦 水谷 徹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.104-109, 2019 (Released:2019-08-10)
参考文献数
30

原発性アルドステロン症は,良性な高血圧症と認識されていたが,最近の研究から生命に危機を及ぼす危険な高血圧症であることがわかってきた.今回,われわれは血圧コントロールが良好であったにも関わらず,原発性アルドステロン症が一つの要因と考えられた脳被殻出血の一例を経験した.症例報告により原発性アルドステロン症を加療することの重要性について報告する.63歳女性が失語症,ミギ片麻痺を呈して来院した.既往歴として高血圧症を指摘され,良好にコントロールされていたが脳出血を発症した.脳出血の加療後にヒダリ副腎病変による原発性アルドステロン症と診断された.副腎鏡視下切除術により降圧剤が不要となった.単に血圧を正常化させることが,原発性アルドステロン症を有する患者を治療する唯一の目標ではなく,高血圧,低カリウム血症および心血管イベント・脳血管イベントによる罹患率および死亡率を減少させることに主眼をおくべきである.原発性アルドステロン症に対する診断的アプローチは単純であり,治療により脳血管疾患,心血管疾患を予防することは重要と考えられた.
著者
河瀬 斌 山口 則之 清水 克悦 三谷 慎二 堀口 崇 荻野 雅宏
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

【目的】低温による脳保護作用のメカニズムを検討し、脳のみの局所低体温法を確立する。【方法】(1)スナネズミ一過性前脳虚血モデルを用い海馬における遅発性神経細胞死を算出する一方で、オートラジオグラフィー法により蛋白合成能を、また免疫組織化学により各種蛋白の生成を、常体温と低体温とでそれぞれ比較した。(2)ラット一過性前脳虚血モデルを用い、線条体におけるdopamine・ adenosineとその代謝産物の生成を、虚血中低体温と虚血後低体温とで比較した。(3)成猫に低温人工髄液を脳室脳槽灌流し、脳冷却の程度と脳内温度較差を測定した。また、臨床使用目的にて脳温測定用センサーを組み込んだ脳室脳槽灌流用ドレナージチューブを作成した。【結果】(1)低体温により海馬CA1領域の遅発性神経細胞死は抑制されるが、これに先立ち(i)同部の蛋白合成能の回復が促進される。(ii)ストレス蛋白発現が抑制される一方で、即初期遺伝子c-Junが正常より強く発現する。c-Fosの発現は変化しない。以上より、低体温は虚血ストレスそれ自体を減弱する一方で、蛋白代謝を早期に回復させ、細胞の生存に影響を及ぼす即初期遺伝子の発現を促す。(2)(i)虚血中低体温はdopamineの放出を抑制する一方、adenosineの放出には影響しないが再灌流時のadenosineの減少は抑制する。(ii)虚血後低体温はadenosineの代謝を抑制して細胞外液中の濃度を高く保つが、dopamine代謝には影響しない。(3)低温人工髄液灌流により成猫において脳深部に2〜3℃の冷却効果が見られたが、皮質ではその冷却効果は少ない。脳血流量は一過性に減少するがその後回復し、血圧や血液ガスには影響はない。脳温測定用センサーを組み込み、かつ従来のものと材質・外径に差がない脳室脳槽灌流用ドレナージチューブが完成した。【総括】以上より(3)の脳虚血に対する局所低体温療法は(1)(2)の補助治療法を組み合わせることで臨床応用が更に期待できる。