著者
荻野 雅宏 中山 晴雄 重森 裕 溝渕 佳史 荒木 尚 McCrory Paul 永廣 信治
出版者
一般社団法人 日本脳神経外傷学会
雑誌
神経外傷 (ISSN:24343900)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-34, 2019-08-20 (Released:2019-08-20)
参考文献数
58

【解説】「スポーツにおける脳振盪に関する国際会議」は2001年にウィーンで第1回会議が開かれたのち,近年は夏季オリンピックの年の秋に開催されており,第2回 (プラハ, 2004年),第3回 (チューリッヒ, 2008年),第4回 (チューリッヒ, 2012年) を経て,2016年にベルリンにて 「第5回国際スポーツ脳振盪会議」 が開催された。この国際会議の目的は選手の安全を確保することと,選手のコンディションを改善することであり,プロフェッショナル,アマチュアを問わず,スポーツで脳振盪を負った選手の状態を正しく評価し,安全にスポーツに復帰させることを目指すものである。さまざまな分野のエキスパートが討論を重ね,最終的に以下の共同声明 (consensus statement) を公開するとともに,声明の根拠となった系統的なレビュー12編24,25,i–x)を発表した。脳振盪を負った選手を評価する標準的ツールSport Concussion Assessment Tool (SCAT),5歳から12歳までの小児に用いるchild SCAT,非医療従事者が脳振盪を疑う際に用いるConcussion Recognition Tool (CRT) はそれぞれ,SCAT5,child SCAT5,CRT5へと改訂された。この共同声明 (McCrory P, Meeuwisse W, Dvoraket J, et al. Consensus statement on concussion in sport —the 5th inter­national conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. Br J Sports Med 51: 838–847, 2017) や上記のツールはすべてWeb上で自由に閲覧でき,ダウンロードも可能である。関係者は原文にあたり,その内容に精通していることが求められるが,一部から公式な日本語訳を強く望む声があり,本学会のスポーツ脳神経外傷検討委員会の有志が,前版xi)の訳者らとともにこれにあたった。次回の改訂は2020年の秋以降に予定されているので,本稿が来る東京オリンピックならびにパラリンピックにおけるこの領域の基本的な指針となる。しかし本文中にもある通り,この共同声明は臨床的なガイドラインを目指すものでも,法的に正しい対処を示すものでもない。現時点における総論的な指針と考えるべきであって,個々のケースへの対応には,現場の裁量が認められていることを強調したい。
著者
中山 晴雄 荻野 雅宏 平元 侑 岩渕 聡
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.354-360, 2020 (Released:2020-05-25)
参考文献数
20

スポーツ脳損傷において, 近年特に注目を集めているのがスポーツ関連脳振盪 (sports-related concussion : SRC) である. SRCの対応における大きな問題点は, その診断方法が確立されていないことである. このようなSRCに正確に対応するためには, SRCに対する認識や考え方を共有することが肝要である. 本稿では, SRCを中心としたスポーツ脳損傷の対応として, ①シーズン前教育, ②スポーツ脳損傷の認識, ③現場での医学的評価, ④専門的医学的評価, ⑤SRCの管理, ⑥多角的なSRCへの対応, ⑦スポーツ活動への復帰について概説する. 今後, 脳神経外科医におけるSRCに対する評価や対応の標準化が期待される.
著者
荻野 雅宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1032-1039, 2021-09-10

Point・脳振盪はあくまで症状から診断され,背景にある病態生理は単一ではなく,簡便な診断方法も見出されていない.・段階的に復帰すべきことは広く認識されつつあるが,効果的な治療法やリハビリテーションも今後の課題である.・反復受傷の結果とされる慢性外傷性脳症(CTE)の病理学的所見は解明されつつあるが,臨床診断や検査法の確立にはさらなる研究が必要である.
著者
荻野 雅宏 川本 俊樹 金 彪
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.96-103, 2004-02-20
被引用文献数
7

本邦はスポーツに関連する神経外傷の統計に乏しく,発生頻度や種目別好発病型についての解析は困難であるが,報告されている重症頭部外傷は多くが急性硬膜下血腫で,アメリカンフットボール,ラグビー,柔道などに多い.米国からはアイスホッケー,アメリカンフットボール,サッカーに脳震盪が好発するとの報告がある.脊椎脊髄損傷は年間約数百例と推察される.種目としては水泳,スキー,ラグビー(アメリカンフットボール,サッカーを含む)に多い.軽症神経外傷(いわゆる脳震盪)の診断と受傷後の復帰の判断は. American Academy of NeurologyやConcussion in Sports Group などにより提唱された基準のもとに行うべきである.
著者
荻野 雅宏 中山 晴雄 山田 睦雄
出版者
特定非営利活動法人 日本脳神経外科救急学会 Neurosurgical Emergency
雑誌
NEUROSURGICAL EMERGENCY (ISSN:13426214)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.10-16, 2021 (Released:2021-03-24)
参考文献数
17

スポーツ現場で生じる頭部外傷では軽症例が問題となりがちで,「軽症」であればあるほど速やかに現場に戻り,くり返し受傷する可能性も生まれる.これらに対処するうえでの現在の国際的なコンセンサスは,夏季オリンピック・パラリンピック終了後の秋に開かれる「国際スポーツ脳振盪会議」が提供する.現時点での最新版は2017年に発表された「ベルリン声明」で,Tokyo 2020もこの方針に準拠する.具体的な対応法としては,CRT(Concussion Recognition Tool; 非医療従事者が脳振盪に対応するためのツール)ならびにSCAT(Sports Concussion Assessment Tool; 医療従事者が用いるツール)がともにウェブ上に公開されており,承認を受けた日本語版もダウンロードが可能である.脳振盪と診断された場合は速やかに競技から離脱し,日をおいて段階的に復帰することが原則だが,諸般の事情がこれを許さぬ場合もある.これらの国際的指針は全ての状況をカバーするわけではなく,絶対的遵守を求めるものではない.個々の受傷例にあわせた対応が必要で,とりわけ現場においては受傷後の神経機能の評価にも長けた本学会のエキスパートらは適任と思われる.スポーツ現場におけるファースト・エイドは多分野にまたがるため,相応の研鑽は必要だが,多くの会員各位がこの問題に関与してくださることを期待したい.
著者
中山 晴雄 荻野 雅宏 永廣 信治 岩渕 聡
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.4-8, 2018 (Released:2018-01-25)
参考文献数
20
被引用文献数
2

近年, スポーツに関わる頭部外傷, 中でも脳振盪への社会的注目が高まっている. スポーツ頭部外傷の問題点は従来から指摘されているように, 急性硬膜下血腫に代表される重症頭部外傷と繰り返し受傷する脳振盪である. 本稿では, 脳神経外科医が知っておくべきスポーツ頭部外傷の検査と対応として, ①スポーツ頭部外傷に関する共通の認識, ②小児を含むスポーツ頭部外傷の現場での対応, ③繰り返すスポーツ頭部外傷の危険性, ④競技者および関係者への指導方法について概説する. 今後, 競技復帰への適切な判断や指導における脳神経外科医の役割が期待される.
著者
溝渕 佳史 永廣 信治 荻野 雅宏 McCrory Paul スポーツ頭部外傷検討委員会(日本脳神経外傷学会)
出版者
一般社団法人 日本脳神経外傷学会
雑誌
神経外傷 (ISSN:03895610)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-26, 2016

<p>【 解 説 】 「スポーツにおける脳振盪に関する国際会議」 はおよそ4年に一度開催される。2001年にウィーンで第1回会議が開かれ,第2回 (プラハ,2004年),第3回 (チューリッヒ,2008年) を経て,2012年には再びチューリッヒにて 「第4回国際スポーツ脳振盪会議」 が開催された。この4回にわたる国際会議の目的は,選手の安全確保と健康改善であり,プロフェッショナル,アマチュアを問わず,スポーツで脳振盪を負った選手の状態を正しく評価し,安全にスポーツに復帰させることを目指すものである。さまざまな分野のエキスパートが討論を重ねて 「共同声明 (consensus statement)」 を発表する一方,脳振盪を負った選手の臨床所見を競技場内外で明らかにする評価ツール 「Sport Concussion Assessment Tool (SCAT)」 が作成された。</p><p>SCAT2からSCAT3への改訂にあたって変更されたのは,重症な状態を早期に評価できるようにしたことである。はじめに救急対応を取るべき状態 (Glasgow Coma Scaleが15点未満,精神状態の悪化,脊髄損傷の可能性,症状の進行 ・ 悪化あるいは新たな神経症状の出現) が記載された。そのため,SCAT2では3番目の評価項目であったGlasgow Coma Scaleが1番目に変更され,意識状態の評価を早期に行うことを重視している。さらに5項目目に頚部の評価が加えられ,脊髄損傷などの重症外傷を評価できるよう改訂された。バランステストの項目では,SCAT2ではModified Balance Error Scoring System (BESS) を用いて評価していたが,SCAT3ではBESSとつぎ足歩行の両方か,もしくはどちらか一方を選択できるようになっている。またSCAT2は10歳以上を対象にしていたため,SCAT3では13歳未満の選手用にChild SCAT3が追加された。</p><p>以下は,</p><p>McCrory P. Consensus Statement on Concussion in Sport: The 4th international Conference on Concussion in Sport, Zurich, November 2012. BJSM 47(5): 250-258, 2013.の翻訳である。</p>
著者
荻野 雅宏 中山 晴雄 重森 裕 溝渕 佳史 荒木 尚 McCrory Paul 永廣 信治
出版者
一般社団法人 日本脳神経外傷学会
雑誌
神経外傷
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-34, 2019

<p><b>【解説】</b></p><p>「スポーツにおける脳振盪に関する国際会議」は2001年にウィーンで第1回会議が開かれたのち,近年は夏季オリンピックの年の秋に開催されており,第2回 (プラハ, 2004年),第3回 (チューリッヒ, 2008年),第4回 (チューリッヒ, 2012年) を経て,2016年にベルリンにて 「第5回国際スポーツ脳振盪会議」 が開催された。この国際会議の目的は選手の安全を確保することと,選手のコンディションを改善することであり,プロフェッショナル,アマチュアを問わず,スポーツで脳振盪を負った選手の状態を正しく評価し,安全にスポーツに復帰させることを目指すものである。さまざまな分野のエキスパートが討論を重ね,最終的に以下の共同声明 (consensus statement) を公開するとともに,声明の根拠となった系統的なレビュー12編<sup>24,25,i–x)</sup>を発表した。</p><p>脳振盪を負った選手を評価する標準的ツールSport Concussion Assessment Tool (SCAT),5歳から12歳までの小児に用いるchild SCAT,非医療従事者が脳振盪を疑う際に用いるConcussion Recognition Tool (CRT) はそれぞれ,SCAT5,child SCAT5,CRT5へと改訂された。</p><p>この共同声明 (McCrory P, Meeuwisse W, Dvoraket J, et al. Consensus statement on concussion in sport —the 5th inter­national conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. Br J Sports Med 51: 838–847, 2017) や上記のツールはすべてWeb上で自由に閲覧でき,ダウンロードも可能である。関係者は原文にあたり,その内容に精通していることが求められるが,一部から公式な日本語訳を強く望む声があり,本学会のスポーツ脳神経外傷検討委員会の有志が,前版<sup>xi)</sup>の訳者らとともにこれにあたった。</p><p>次回の改訂は2020年の秋以降に予定されているので,本稿が来る東京オリンピックならびにパラリンピックにおけるこの領域の基本的な指針となる。しかし本文中にもある通り,この共同声明は臨床的なガイドラインを目指すものでも,法的に正しい対処を示すものでもない。現時点における総論的な指針と考えるべきであって,個々のケースへの対応には,現場の裁量が認められていることを強調したい。</p>
著者
河瀬 斌 山口 則之 清水 克悦 三谷 慎二 堀口 崇 荻野 雅宏
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

【目的】低温による脳保護作用のメカニズムを検討し、脳のみの局所低体温法を確立する。【方法】(1)スナネズミ一過性前脳虚血モデルを用い海馬における遅発性神経細胞死を算出する一方で、オートラジオグラフィー法により蛋白合成能を、また免疫組織化学により各種蛋白の生成を、常体温と低体温とでそれぞれ比較した。(2)ラット一過性前脳虚血モデルを用い、線条体におけるdopamine・ adenosineとその代謝産物の生成を、虚血中低体温と虚血後低体温とで比較した。(3)成猫に低温人工髄液を脳室脳槽灌流し、脳冷却の程度と脳内温度較差を測定した。また、臨床使用目的にて脳温測定用センサーを組み込んだ脳室脳槽灌流用ドレナージチューブを作成した。【結果】(1)低体温により海馬CA1領域の遅発性神経細胞死は抑制されるが、これに先立ち(i)同部の蛋白合成能の回復が促進される。(ii)ストレス蛋白発現が抑制される一方で、即初期遺伝子c-Junが正常より強く発現する。c-Fosの発現は変化しない。以上より、低体温は虚血ストレスそれ自体を減弱する一方で、蛋白代謝を早期に回復させ、細胞の生存に影響を及ぼす即初期遺伝子の発現を促す。(2)(i)虚血中低体温はdopamineの放出を抑制する一方、adenosineの放出には影響しないが再灌流時のadenosineの減少は抑制する。(ii)虚血後低体温はadenosineの代謝を抑制して細胞外液中の濃度を高く保つが、dopamine代謝には影響しない。(3)低温人工髄液灌流により成猫において脳深部に2〜3℃の冷却効果が見られたが、皮質ではその冷却効果は少ない。脳血流量は一過性に減少するがその後回復し、血圧や血液ガスには影響はない。脳温測定用センサーを組み込み、かつ従来のものと材質・外径に差がない脳室脳槽灌流用ドレナージチューブが完成した。【総括】以上より(3)の脳虚血に対する局所低体温療法は(1)(2)の補助治療法を組み合わせることで臨床応用が更に期待できる。