著者
岩崎 ちひろ 渋谷 正人 石橋 聡 高橋 正義
出版者
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 森林圏ステーション
雑誌
北海道大学演習林研究報告 (ISSN:13470981)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.21-30, 2015-03

カラマツ人工林の長伐期施業に必要な条件を検討するため、北海道十勝地方の54~80 年生のカラマ ツ人工林20 林分で林相の特徴を把握した。また、長伐期化する林分に重要な風害抵抗性に着目し、耐風 性の指標としてよく用いられる形状比と樹冠長率を検討した。その結果、密度や蓄積、収量比数が小さく、疎仕立て状の林分が多かった。平均形状比は68~90、平均樹冠長率は.42~ 0.62 であった。既存研究で風害抵抗性が高いカラマツ人工林は、平均形状比が70 未満、平均樹冠長率が0.45 以上とされているが、本研究の結果では、樹冠長率は既往の値と一致した が、形状比は一致しなかった。このことから、樹冠長率は風害抵抗性を指標する樹形要素として汎用性が高い可能性があると考えられ、その場合平均樹冠長率が0.45 以上であることが カラマツの長伐期林に必要な条件と仮定された。そこで、この仮定に基づいて平均樹冠長率0.45 以上を維持する密度管理方法を検討した。その結果、Ⅰ等地では、収量比数を25 年生 時に0.8 以下、30 年生以上では0.6 未満で管理する必要があり、また林齢にともなって、さらに収量比数を小さく疎な状態に維持しなければならないことが明らかとなった。
著者
小向 愛 斎藤 秀之 渋谷 正人 小池 孝良
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

広葉樹の花成は花成ホルモンをコードする遺伝子(<i>FT</i>)が葉で発現することで誘導される。しかし開花年の不規則な広葉樹における<i>FT</i></i>遺伝子発現の年変動については、その発現制御が日長等の即時的な環境シグナルでは説明できず、過去の環境刺激がゲノムに記録され、遺伝子に対してエピジェネティックに発現制御していると考えられた。本報告では、ブナの<i>FT</i>遺伝子の塩基配列の特徴を調べ、DNAメチル化の潜在的な可能性を検討した。またDNAメチル化率を調べ、<i>FT</i>遺伝子のDNAメチル化を介したエピジェネティック制御の可能性を検討した。ブナの<i>FT</i>遺伝子のTATA配列はシトシン塩基を含まず、RNAポリメラーゼ結合におけるDNAメチル化の制御はないと考えられた。日長誘導型の転写因子(CO)の結合が推定されるcis配列は、連年開花型のポプラ、オレンジ、リンゴ、ブドウ、ユーカリに比べてブナでは数多くのシトシンを含んだ。よってブナの<i>FT</i>遺伝子は連年開花型の樹種に比べてDNAメチル化による発現制御の可能性が潜在的に大きいと考えられ、ブナの花成周期の不規性と関連が示唆された。発表ではDNAメチル化率についても報告する予定である。
著者
山口 信一 矢島 崇 渋谷 正人 高橋 邦秀
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.94-100, 1997
参考文献数
20
被引用文献数
4

高密度に生息するエゾシカの菜食と踏圧によりほぼ無植被となった林床の潜在的な植生の回復力を検討するために,北海道洞爺湖の中島において,当年生実生の消失過程とその要因,および散布種子と埋土種子の量と種構成を調査した。当年生実生は,調査開始から20日経過時点でおよそ70〜90%が消失し,50日経過時点ではすべての調査区でほぼ90%の実生が消失した。消失要因は80%以上がシカの採食によるものであった。散布種子数は調査区によってばらつき,1995年には238〜5,820粒/m^2,1996年は21〜394粒/m^2であり,種数は1995年で11〜22種,'96年で7〜19種であった。また,活性埋土種子数も調査区によって幅があり,50〜2,700粒/m^2が抽出されて,種数は8〜20種であった。散布種子,埋土種子ともに,木本種が多くを占めていた。埋土種子数と種数および活性種子率は調査地により異なっていたが,シカの影響を排除した囲い区と放置区の比較では明らかな差は認められず,シカによる踏圧や林地の撹乱などは埋土種子の生残には大きく影響していないと考えられた。実生の消失過程および散布・埋土種子量からみて,高い採食圧のもとで植生の回復は困難ではあるが,潜在的な回復の可能性は維持されているものと考えられた。