著者
青池 蕗子 玉井 裕 宮本 敏澄 矢島 崇
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.177, 2006 (Released:2007-06-05)

食用として栽培されているきのこを中心とする担子菌類のセンチュウに対する捕捉能力を調査した。シャーレ内の2.0%素寒天平板上にPDAを用いて培養した菌を接種し、インキュベートし、菌糸伸張を確認した後、センチュウを接種し、センチュウと菌糸の挙動を顕微鏡下で継続的に観察した。センチュウはシイタケほだ木からベールマン漏斗装置を用いて採取し培養したものを用いた。供試菌のヒラタケ(Pleurotus ostreatus)4菌株は全てセンチュウを捕捉したが、菌株による捕食能の差は顕著ではなかった。同じくPleurotus属であるウスヒラタケ(Pleurotus pulmonarius)1菌株もセンチュウ捕捉能を示した。この2種5菌株にセンチュウを接種した際には、24時間以内にほとんど全てのセンチュウが動かなくなり、その後、2_から_3日のうちにセンチュウの体内に菌糸が伸長し、内容物が消失した。菌糸は体内の一部ではなく全体に伸長した。センチュウが動かなくなる時点での特別な捕捉器官は確認できなかっ た。シイタケ(Lentinula edodes)6菌株、サケツバタケ(Stropharia rugosoannulata)3菌株はいずれもセンチュウ捕捉能を示さなかった。ハタケシメジ (Lyophyllum decastes)2菌株に関してはセンチュウ捕捉能が認められた。ハタケシメジの菌糸が伸長した寒天培地に接種したセンチュウはおよそ7日後にはほとんどのものが動かなくなった。センチュウ体内への菌糸の伸長が確認できるまでに7日以上の日数を要した。菌糸のセンチュウ体内への伸長の様子はPleurotus属と同様、全体へ伸長していた。ハタケシメジにおいても特別な捕捉器官の確認はできなかった。
著者
小長谷 啓介 宮本 敏澄 玉井 裕 矢島 崇
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.81-90, 2020-11-01 (Released:2020-12-18)
参考文献数
61

2000年に噴火した有珠山の噴出物堆積地において,2004年に調査した既報告の大型菌類の発生調査を2006年まで継続して行い,噴火から間もない遷移初期の立地で繁殖する大型菌類相の経年変化を明らかにした.菌種数は,2004年の9種から緩やかに増加し,2006年には23種が確認された.外生菌根菌は2005年秋に初めて4種が確認された.2006年も新たに4種が発生し,計8種が確認された.その他の腐生菌は,2004年に確認されていたナヨタケ科,モエギタケ科,キシメジ科の菌類が継続して発生しており,種数は年経過とともに緩やかに増加した.次年度に消失した菌種は,2004-2005年では2種,2005-2006年では1種と少なかったのに対して,新たに確認された菌種は2004-2005年では9種,2005-2006年では8種と多かった.噴出物堆積地では,埋没した植物遺体や更新稚樹を資源として利用する菌類が繁殖しており,その菌類相は年経過とともに新たな種が加わる形で推移していた.
著者
山口 信一 矢島 崇 渋谷 正人 高橋 邦秀
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.94-100, 1997
参考文献数
20
被引用文献数
4

高密度に生息するエゾシカの菜食と踏圧によりほぼ無植被となった林床の潜在的な植生の回復力を検討するために,北海道洞爺湖の中島において,当年生実生の消失過程とその要因,および散布種子と埋土種子の量と種構成を調査した。当年生実生は,調査開始から20日経過時点でおよそ70〜90%が消失し,50日経過時点ではすべての調査区でほぼ90%の実生が消失した。消失要因は80%以上がシカの採食によるものであった。散布種子数は調査区によってばらつき,1995年には238〜5,820粒/m^2,1996年は21〜394粒/m^2であり,種数は1995年で11〜22種,'96年で7〜19種であった。また,活性埋土種子数も調査区によって幅があり,50〜2,700粒/m^2が抽出されて,種数は8〜20種であった。散布種子,埋土種子ともに,木本種が多くを占めていた。埋土種子数と種数および活性種子率は調査地により異なっていたが,シカの影響を排除した囲い区と放置区の比較では明らかな差は認められず,シカによる踏圧や林地の撹乱などは埋土種子の生残には大きく影響していないと考えられた。実生の消失過程および散布・埋土種子量からみて,高い採食圧のもとで植生の回復は困難ではあるが,潜在的な回復の可能性は維持されているものと考えられた。