著者
中尾 彰太 渡部 広明 松岡 哲也
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.365-371, 2010-07-15 (Released:2010-09-20)
参考文献数
14

高マグネシウム(Mg)血症は,その多くが医原性とされ,Mg製剤投与で起こる比較的稀な病態である。我々は,便秘症に対して処方された酸化マグネシウム(MgO)の長期内服により,重症高Mg血症を来した3例を経験したので報告する。3例とも当院来院時には血清Mg濃度が15mg/dlを超えており,血圧低下や意識障害を来していた。全例グルコン酸カルシウムを投与するとともに,1例は持続的血液透析(continuous hemodialysis; CHD)を,1例は血液透析(hemodialysis; HD)を施行して治療したが,最終的に1例は救命できなかった。従来,MgOのように1回投与当りのMg含有量が少ないMg製剤による重症高Mg血症のリスクは高くないとされてきたが,本症例のような長期投与は,重症高Mg血症の危険因子となり得るため注意が必要である。また高Mg血症の症状は非特異的であるため,積極的に疑わなければ早期診断が困難であり,しかも診断と治療が遅れれば致死的となり得る。このため,便秘症に対してMg製剤を長期間処方する際には,高Mg血症発症の可能性を想定し,必要に応じて血清Mg濃度の測定を施行することも含めた経過観察を行うべきである。
著者
比良 英司 渡部 広明
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.39-46, 2022-06-03 (Released:2022-06-03)
参考文献数
32

超急性期の大量出血を伴う重症体幹部外傷患者の予後を規定するのは迅速で的確な止血である. Damage control surgery (DCS) における超緊急止血術は手術が主体であった時代から, より低侵襲なinterventional radiology (IVR) を併用する時代へと変化した. そして手術とIVRは “best partner” として同等に扱われる時代が到来するとともに, damage control interventional radiology (DCIR) という概念も出現し, さらにこれを安全に実施できるhybrid emergency room (hybrid ER) も登場した. これからの治療戦略は, 手術とIVRのいずれかに治療が偏ることなく, 24時間, 365日, 適切にDCSとDCIRが実施できることが求められる. この両止血戦略は一体的な提供が必要でありdamage control hemostasis (DCH) といえる戦略に包括できる. これを実施できる施設が「外傷蘇生センター」と考えられ, こうした施設を全国に適正に配置することがわが国の外傷死減少に貢献すると考える.
著者
山本 博崇 高橋 善明 渡部 広明 松岡 哲也
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.661-665, 2013-03-31 (Released:2013-06-07)
参考文献数
11

症例は60歳代,男性。塩酸を内服し,救急搬送となった。精査にて腐食性食道・胃・十二指腸炎,重症急性膵炎,溶血性貧血と診断し,ICUにて集中治療を行った。膵炎と溶血性貧血は大量輸液,ハプトグロビン,膵酵素阻害剤,抗潰瘍薬の投与を行い改善したが,食道と幽門の瘢痕狭窄が徐々に進行した。第149病日には幽門の完全閉鎖を認めたが,経過中に重度の肺線維症を併発したため根治術を断念し,胃空腸吻合術を施行した。しかし,その後も瘢痕狭窄は進行し,第302病日には食道の完全閉鎖を認めた。塩酸内服後の消化管瘢痕狭窄に対する手術や内視鏡治療は6ヵ月後以降に行うべきとされているが,本症例のように10ヵ月まで狭窄が進行する症例も存在するため,瘢痕狭窄に対する治療も10ヵ月以降まで延期すべきである。また,手術術式は消化管障害の範囲と程度,および全身状態に左右されるため,初期の全身管理も重要である。
著者
工藤 大介 渡部 広明 大須賀 章倫 松岡 哲也
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.12, pp.1101-1106, 2008-12-15
参考文献数
12
被引用文献数
5 2

非閉塞性腸管虚血症(nonocclusive mesenteric ischemia; NOMI)は,低灌流に引き続いて発生する腸管の動脈攣縮によるもので,虚血が不可逆的になると腸管壊死を引き起こす。門脈ガス血症(hepatic portal venous gas; HPVG)や腸管嚢腫様気腫像,高乳酸血症などの腸管壊死を示唆するとされる所見を伴っていながら,結果的に全層性の腸管壊死がみられなかった例を対照的な壊死症例と合わせて 2 例報告する。症例はいずれもショック状態で当センターへ搬送となった。HPVG,腸管嚢腫様気腫像,高乳酸血症などを認め,臨床上腸管壊死を強く疑い緊急開腹手術を施行した。 1 例は小腸の全層壊死を伴っており腸管切除術を施行し, 2 例目は壊死が粘膜に限局していたことから,second look手術を施行し腸管切除を回避することが可能であった。NOMIの症例において腸管壊死を示唆する門脈ガス血症,腸管嚢腫様気腫像等を認めた場合は,腸管壊死を疑い一般的に開腹術が妥当な治療と考えられる。しかしながら,本症例によりこれらの所見を伴う症例において必ずしも腸管壊死を伴わない場合があることが示された。ただし,現時点では腸管壊死の有無を確実に術前診断するすべはなく,開腹術はやむなしと思われる。