著者
金子 雅明 岡崎 倫江 上條 史子 上田 泰久 柿崎 藤泰 桜庭 景植
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.27-31, 2011 (Released:2011-03-31)
参考文献数
28
被引用文献数
2

〔目的〕足部・足関節アライメントに着目しACL損傷の危険肢位とされる膝関節軽度屈曲・外反および着地直前および直後の下肢筋群筋活動との関係を明確にし,予防や再建術後プログラムの指導に役立つ指標を示すことを目的とした。〔対象〕健常成人男性27名を対象とした。〔方法〕左片脚着地後の最大膝関節屈曲角と外反角,着地直前直後の筋活動,下肢アライメント評価として,脛骨捻転角,thigh foot angle,leg-heel angle,navicular drop testを計測した。〔結果〕navicular drop testの値が小さい場合,左片脚着地後の最大膝関節外反角が大きくなるとともに着地直前直後の半腱様筋の筋活動が大きくなった。〔結語〕navicular drop testの値が小さいことは,ACL損傷の危険肢位である膝関節外反を生じる可能性が高い選手を把握する指標になることが示唆された。
著者
関野 良祐 釜野 洋二郎 石井 真理子 中崎 慶子 中俣 修 上田 泰久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2222, 2011

【目的】側腹筋は外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋に分けられ、それらの腱膜は1つの機能単位を構成して体幹の運動に関与している。特にインナーユニットの一つである腹横筋は体幹の安定性に重要といわれている。腹横筋の収縮を促すために,Abdminal Drawing-in(腹部引き込み運動)やPelvic tilt(骨盤後傾運動)などの運動療法が実施されることが多い。しかし,これら運動療法で収縮を促すことが難しい症例に対して,仰臥位での股関節内転運動を実施すると体幹の安定性が向上した。股関節の内転運動に関する先行研究では,股関節の運動(内転・外転・外旋)が骨盤底筋の収縮を活発にするという報告(小林ら2008) がある。また解剖学的な連結として,大内転筋が坐骨結節や内閉鎖筋を介して骨盤底筋と連結される(Thomas W. Myers 2009)。骨盤底筋と腹横筋はインナーユニットを形成する筋であり,内転筋群の収縮を促通することにより骨盤底筋を介して腹横筋の活動も高まると考えられる。本研究の目的は,股関節の内外転運動と側腹筋との関連性を検討することである。<BR><BR>【方法】対象は,健常成人20名(年齢20.9±1.3歳、身長165.8±7.2cm、体重56.9±7.7kg)とした。計測機器は,側腹筋の筋厚の測定として超音波診断装置My Lab25(日立メディコ社製)を使用した。測定肢位は,上肢を体側へ伸ばし,下肢が股関節内外旋中間位(第2中足骨が床へ垂直) になる背臥位とした。運動課題は背臥位での等尺性の股関節内外転運動とした。筋力の測定はhand-held dynamometer(以下、HHD)を用い,股関節内外転運動の最大等尺性収縮時の発揮筋力を調べ,負荷量は各々20%と60%の2種類とした。測定部位は軸足側の中腋窩線上で,肋骨下縁と腸骨稜の中間点とし,安静時・20%内転・60%内転・20%外転・60%外転の5条件における腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋の筋厚を測定した。測定はランダムに行い,十分に休憩をはさみ5条件を各3回実施して,その平均値を求めた。統計処理は一元配置分散分析後、多重比較(Bonferroni)を用いて行った。有意水準は5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】本研究の内容を書面にて十分説明し,同意書に署名を得た。<BR><BR>【結果】腹横筋の筋厚は、安静時2.79±0.69mm・20%内転3.10±0.66 mm・60%内転3.48±0.83 mm・20%外転2.91±0.86mm・60%外転3.05±0.89mmであった。安静時と比較して,20%内転・60%内転では筋厚が有意に増大した(p<0.01)。また20%内転よりも60%内転で有意に増大した(p<0.05)。さらに、20%外転よりも60%内転で有意に増加した(p<0.01)。<BR>内腹斜筋の筋厚は、安静時8.59±1.66 mm ・20%内転8.90±1.65 mm・60%内転9.39±2.04 mm・20%外転8.87±1.99 mm・60%外転9.04±2.05mmであった。安静時と比較して20%内転(p<0.05)と60%内転(p<0.01)で筋厚が有意に増大した。さらに、20%外転よりも60%内転で有意に増加した(p<0.05)。<BR>外腹斜筋の筋厚は、安静6.37±1.24 mm ・20%内転6.38±1.39 mm・60%内転6.53±1.55 mm・20%外転6.25±1.39mm・60%外転6.32±1.38mmであり,有意差は認められなかった。<BR><BR><BR>【考察】腹横筋では安静時に比べ20%・60%内転時に有意な筋厚の増加がみられた。これは骨盤底筋群との筋膜を介した連結を大内転筋がもつために生じたと考えられる(Thomas W. Myers 2009)。大内転筋の収縮は閉鎖筋膜・肛門挙筋腱弓に伝わり、骨盤底筋を収縮させたと考えられる。その結果、骨盤底筋の収縮により腹腔内圧は上昇し、インナーユニットが活性化され腹横筋が収縮したと考えられる。内腹斜筋では、安静時に比べ20%・60%内転時に有意な筋厚の増加がみられた。これに対し、外腹斜筋の変化については、すべての課題動作に対して筋厚の増加がみられなかった。これは、胸腰筋膜を介し内腹斜筋には腹横筋との連結があるが、外腹斜筋では連結がなかったために変化が起こらなかったと考える。胸腰筋膜は、内腹斜筋と腹横筋の収縮を繋いだ水圧ポンプ作用があり、これが腰椎の安定性に寄与しインナーユニットの収縮を促す(Diane Lee 2001)。これらのことから、股関節内転筋運動により骨盤底筋を介した、インナーユニットである腹横筋と腰椎安定に関わる内腹斜筋の、筋膜連結による活性化が可能であることが分かった。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今回の実験で、股関節内転筋収縮により腹横筋の収縮を促すことが可能であることが解った。腹横筋エクササイズは体幹のみだけでなく、股関節内転筋からの介入によりインナーユニットの活性化も可能であることを理解し、これらを併用した運動療法の有効性が示唆された。
著者
上條 史子 千代丸 正志 大川 孝浩 上田 泰久 西村 沙紀子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.567-572, 2021 (Released:2021-08-20)
参考文献数
29

〔目的〕健常高齢者における素早い立ち上がり後のふらつきの要因について検討すること.〔対象と方法〕対象は男性健常高齢者15名とした.三次元動作解析システムを使用し,素早い立ち上がりとその後の立位姿勢を計測した.立ち上がり後の立位不安定の指標には,重心の進行方向位置から実効値を算出し使用した.実効値と立ち上がり動作における下肢運動学的項目と運動力学的項目の相関について検討した.〔結果〕実効値と左股関節伸展モーメント最大値の発生タイミング間には負の相関を,左膝関節モーメントの最大値とは正の相関を示した.〔結語〕立ち上がり後の立位を不安定にさせる要因には,離殿後の股関節の遠心性制御能力が考えられ,それに関連して膝関節の伸展筋力も関与すると示唆された.
著者
大饗 和憲 井口 浩一 森井 北斗 上田 泰久 八幡 直志 高橋 翼 松田 浩美 笠原 知樹 田沼 悠太
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
pp.36.3_03, (Released:2022-03-04)
参考文献数
7

高齢者の非骨傷性頸髄損傷に対する積極的早期手術療法の治療成績について報告する. 対象と方法 : 70歳以上の非骨傷性頸髄損傷患者に可及的早期に除圧術を施行し, その術後成績を検討した. 結果 : 治療を行ったのは59例でそのうち手術を行ったのは57例であった. 男性48例, 女性9例, 平均年齢78.2歳, ASIA分類でAIS A13例, B8例, C36例であった. 受傷から手術までの時間は中央値9時間, 在院日数は46日, 入院中の死亡は5例 (8.8%) であった. 入院中にAISで1段階以上改善した症例は40例 (70.2%) で, そのうち7例 (全体の12.3%) では2段階以上の改善がみられた. 考察 : 高齢者の脊髄損傷は神経学的予後が悪く, 合併症により死亡率も高いと報告されている. しかし, 高齢者であっても積極的に早期に除圧を行うことで死亡率を下げることができ, 機能予後も改善できると考える.
著者
上田 泰久 福井 勉 小林 邦彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P1164, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】座位姿勢において上半身質量中心位置(Th7-9)を前方へ移動すると頭部を水平に保つために下位頚椎は伸展して上位頚椎は屈曲し、後方へ移動すると下位頚椎は屈曲して上位頚椎は伸展することが観察できる。座圧中心は上半身質量中心位置を投影している重要な力学的な指標である。我々は第64回日本体力医学会大会(2009年)において「座圧中心と頚椎の回旋可動域の関連性」について報告し、左右の移動では座圧中心を頚椎の回旋側とは逆側へ移動すると回旋可動域が有意に向上したが、前後の移動では回旋可動域に有意差はない結果を得た。しかし、座圧中心の前後の移動では頚椎回旋の運動パターンが異なることが観察されたため、頭部肢位の変化により後頭下筋群の働きに違いがあるのではないかと考えた。今回、頭部肢位の違いと後頭下筋群の関係について肉眼解剖を行い観察することができたため報告する。【方法】名古屋大学大学院医学系研究科の主催する第29回人体解剖トレーニングセミナーに参加して肉眼解剖を行った。86歳男性のご遺体1体を対象とした。仰臥位で後頚部の剥皮後、左側の僧帽筋上部線維,頭板状筋,頭半棘筋を剥離し、左側の後頭下筋群(大後頭直筋,小後頭直筋,上頭斜筋,下頭斜筋)を剖出した。剖出した後頭下筋群を観察した後、他動的に頭部肢位を屈曲位および伸展位に変化させた後頭下筋群の状態を観察した。さらに、頭部肢位を変化させた状態から他動的に頚椎を左回旋させ、後頭下筋群の状態を観察した。後頭下筋群の状態はデジタルカメラを用いて撮影した。他動的な頭部肢位の変化と左回旋の誘導は1名で行い、デジタルカメラ撮影は別の検者が行った。【説明と同意】学会発表に関しては名古屋大学人体解剖トレーニングセミナー実行委員会の許可を得た。【結果】頭部肢位を屈曲位にすると上位頚椎も屈曲位となり、左大後頭直筋,左小後頭直筋,左上頭斜筋,左下頭斜筋は起始と停止が離れて緊張した状態になった。一方、伸展位にすると左大後頭直筋,左小後頭直筋,左上頭斜筋,左下頭斜筋は起始と停止が近づき弛緩した状態になった。頭部肢位を屈曲位から左回旋させると、左大後頭直筋,左下頭斜筋は緊張した状態から軽度弛緩した状態へと変化した。一方、伸展位から左回旋させると、左大後頭直筋,左下頭斜筋はより一層弛緩した状態へと変化した。左小後頭直筋,左上頭斜筋は頭部肢位に関係なく他動的な左回旋では著明な変化は観察できなかった。【考察】大後頭直筋は両側が働くと環椎後頭関節,環軸関節を伸展させ、片側が働くと同側に側屈,回旋させる。小後頭直筋は両側が働くと環椎後頭関節を伸展させ、片側が働くと同側に側屈させる。上頭斜筋は両側が働くと環椎後頭関節を伸展させ、片側が働くと同側に側屈して逆側に回旋させる。下頭斜筋は両側が働くと環軸関節を伸展させ、片側が働くと同側に側屈,回旋させる(河上ら,1998)。自動的に左回旋をする場合、左側(同側)の大後頭直筋,下頭斜筋は上位頚椎の回旋運動に大きく関与し、左側(同側)の上頭斜筋,小後頭直筋は回旋運動に対して拮抗する固定的な要素が強いと考えられている(五百蔵,1988)。後頭下筋群は筋紡錘の密度が高く非常に小さい筋群である(Kulkarni et al. ,2001)。そのため、頭部肢位の変化に伴い起始と停止の位置関係が大きく変わることは筋長に決定的な影響を与え、収縮のしやすさが変化すると考える。つまり、頭部肢位が屈曲位にある場合、後頭下筋群は緊張した状態であり収縮しやすい条件であると考えられる。一方で伸展位にある場合、後頭下筋群は弛緩した状態であり収縮しにくい条件であると考えられる。以上より、頭部肢位を屈曲位の条件では後頭下筋群が働きやすく、上位頚椎の回旋が誘導されやすい運動パターンになるのではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】頭部前方変位の姿勢を呈する症例では、胸椎が後彎して下位頚椎は屈曲位で上位頚椎は伸展位になり、後頭下筋群が短縮して伸張性が低下していることがある。このような症例では、後頭下筋群の伸張性を徒手的に改善させるだけでなく、姿勢と関連させて後頭下筋群が働きやすい状態にすることが望ましいと考える。本研究は、肉眼解剖により実際に後頭下筋群を観察して確認した研究である。後頭下筋群は姿勢制御においても大変重要な役割があるといわれており、ご遺体1体の観察ではあるが姿勢と後頭下筋群を関連させた理学療法学研究として意義のあるものと考えている。
著者
上田 泰久 上條 史子 大竹 祐子 大川 孝浩 千代丸 正志 望月 久
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-5, 2019 (Released:2019-02-26)
参考文献数
16

〔目的〕高齢者における立位姿勢の安定性と頭頸部肢位・足趾筋力の関係について検討することである.〔対象と方法〕対象は健常高齢男性30名とした.立位姿勢の安定性は姿勢安定度評価指数(IPS)で評価した.重心動揺計を使用して開眼・開脚10 cmの立位で,頭頸部肢位(中間位・屈曲位・伸展位・側屈位・回旋位)でIPSを測定した.また足指筋力測定器を使用して端座位で左右の足趾筋力を測定した.〔結果〕IPSは屈曲位と側屈位間でのみ有意な差が認められた.全ての条件におけるIPSと足趾筋力はそれぞれ有意な正の相関が認められた.〔結語〕立位姿勢の安定性は屈曲位より側屈位で低下した.またIPSが高いと足趾筋力も大きい傾向であった.
著者
杉山 健治 上田 泰久 鈴木 泰之 逸見 旬 浅見 優 木暮 一哉 田村 岳久 齋藤 智幸 鈴木 明恵 平塚 尚哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1250, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 上位頚椎と下位頚椎は解剖学的構造や機能に異なった特徴を持っており,さらに頚椎と肩関節複合体との解剖学的連結も強いことが数多く報告されている。臨床においても肩関節可動域制限を有している症例に対して頭頚部からの介入により肩関節可動域が変化することを経験する。しかし,頭頚部のアライメントと肩関節可動域の関係性を示した報告は少ない。そこで,本研究では,頭頚部のアライメント変化と肩関節の可動域との関係を検討することを目的とした。【方法】 対象は肩関節・頚部・顎関節に整形外科疾患の既往のない健常成人男性12名(年齢24.8±2.8歳)とした。被験者の利き手はすべて右利きとした。測定肢位は,頚部を正中位にした背臥位(以下,頚部正中位)・頭部を右側屈位にした背臥位(以下,頭部右側屈)・頭部を左側屈位にした背臥位(以下,頭部左側屈)・頚部を右側屈位にした背臥位(以下,頚部右側屈)・頚部を左側屈位にした背臥位(以下,頚部左側屈)の5肢位とした。頭部の左右側屈位は,下顎下端中央と剣状突起・左右ASISの中点の3点を結ぶ線(基本軸)と左右外眼角の中点と下顎下端中央を結ぶ線(移動軸)のなす角度が10度になる肢位とした。頚部の左右側屈位は,頚切痕と剣状突起・左右のASISの中点の3点を結ぶ線(基本軸)と左右外眼角の中点と頚切痕を結ぶ線(移動軸)のなす角度が10度になる肢位とした。測定内容は,肩関節の水平内転・2nd positionでの内旋・2nd positionでの外旋の自動運動時の関節可動域とした。関節可動域は,日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が制定する「関節可動域表示ならびに測定法」に準じて被検者の右上肢で測定した。なお,頭頚部の左右側屈位のアライメント設定および関節可動域の測定は同一検者が行い,代償動作の確認を他検者と2名で行った。測定肢位と測定運動はランダムに実施し,頭頚部の5肢位における肩関節可動域の変化を調べた。統計処理はSPSSを用い,一元配置分散分析後に多重比較(Bonferroni)を行い,有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究の内容を書面と口頭にて十分説明し,同意書に署名を得た上で行った。【結果】 水平内転では,頚部正中位53.8±7.7度,頭部右側屈60.4±7.2度,頭部左側屈48.0±6.6度,頚部右側屈52.1±6.9度,頚部左側屈52.1±8.9度であった。頭部右側屈は他4肢位と比較して有意に可動域が増大した(p<0.05)。また,頭部左側屈は頚部正中位より有意に可動域が減少した(p<0.05)。 2nd positionでの内旋では,頚部正中位102.5±9.7度,頭部右側屈107.9±10.5度,頭部左側屈93.3±10.1度,頚部右側屈98.8±13.3度,頚部左側屈100.8±11.6度であった。頭部右側屈は頭部左側屈・頚部右側屈・頚部左側屈の3肢位と比較して有意に可動域が増大した(p<0.05)。 2nd positionでの外旋では,頚部正中位101.7±10.1度,頭部右側屈106.3±9.6度,頭部左側屈95.4±11.8度,頚部右側屈97.9±10.3度,頚部左側屈94.6±11.0度であった。頭部右側屈は頭部左側屈・頚部右側屈・頚部左側屈の3肢位と比較して有意に可動域が増大した(p<0.05)。 頚部左側屈と頚部右側屈では,各測定運動において可動域に有意差は認められなかった。【考察】 頭部側屈位は,頚部側屈位と比較して肩関節可動域に大きく関与していることが示唆された。頭部側屈位は環椎後頭関節や環軸椎関節の上位頚椎の運動が主であり,頚部側屈位は下位頚椎の運動が主である。頚椎の側屈には回旋が伴なう複合運動(coupling motion)があることが報告されており,頚椎の複合運動により上位頚椎および下位頚椎に付着する筋の作用が異なるものと考えられる。上位頚椎および下位頚椎に付着する筋には僧帽筋上部線維や肩甲挙筋などがあり,これらは肩甲帯へ付着する。そのため,側屈の運動様式が変わることが肩関節複合体に影響を与えたものと考えられる。以上より,上位頚椎の機能障害や位置異常が肩関節機能を最大限に発揮することを制限する一因になると考える。今後,筋硬度等も含めて引き続き検証をしていこうと考えている。【理学療法学研究としての意義】 上位頚椎および下位頚椎の動きが肩関節に関係していることが認められた。肩関節に可動域制限を有する症例に対して,頚部の評価・治療を考慮した理学療法展開が必要であると考えられる。