著者
澤田 和輝 野村 理朗
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第18回大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)

大自然や偉大な人物などの,既存の認知的枠組みの更新を必要とする広大な刺激に対し生じる感情反応を畏敬の念と呼ぶ.先行研究より,畏敬の念は認知的制約からの解放を促し,拡散的創造性を高めることが示されているが,その詳細な心理学的機序については不明な点が多い.とりわけ,いくつかの快感情が拡散的思考を促進することを考慮すると,未検討である他の快感情との比較検討を行う必要がある.したがって,本研究では,学生21名を対象に,VR動画による感情導入(畏敬/楽しさ/中性)と,日用品の創造的な用途を生成する代替用途課題を用いて,先行研究であるChirico et al. (2017)の概念的追試を行い,畏敬の念が拡散的思考に及ぼす影響について検討した.その結果,畏敬条件において,統制条件よりも,創造性得点(e.g., 流暢性)が高かった.この結果は,先行研究の結果を再現するだけでなく,他の快感情に見られない畏敬特有の効果を示唆している.Awe is an emotional response to a vast stimulus that requires an update to the current schema, such as beauty of nature and people of power. Although previous study has suggested that awe promotes liberation from the cognitive restriction and enhances divergent creativity, its psychological mechanism remains unclear. Especially, given that several positive emotions enhance divergent thinking, the upcoming research should examine the comparison between effects of awe and other positive emotions. Therefore, we conducted the conceptual replication of Chirico and colleague (2017) and investigated the influence of awe on divergent thinking, by using 360°VR clips (awe/amusement/neutral) and the Alternative Uses Test that requires participants to report original uses of presented household items (N = 21). The results revealed that induction of awe enhances scores on creativity (e.g., fluency) than that of control. These results reproduce the results of the previous study and may indicate the awe specific effect.
著者
澤田 和輝 野村 理朗
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第21回大会
巻号頁・発行日
pp.9, 2023 (Released:2023-10-18)

大自然の絶景等の広大かつ既存のスキーマを超越する刺激に対して生じる「畏敬の念」と呼ばれる感情反応がある.畏敬の念−好奇心−創造性の関連において,これまでの研究は各心理特性の個人間変化に着目するあまり個人内変化については未検討であった.本研究では,20代を対象に2時点4ヶ月間隔で畏敬の念,好奇心,創造的自己を測定し,潜在変化モデルを用いることで各変数の個人内の変化量の関連を検討した(N = 257; 平均年齢26.10±3.17歳,女性183名).潜在変化モデルにより推定された各変数の変化量に対して,ブートストラップ法を用いて媒介分析を実施した結果,畏敬の念を感じる頻度が増加した個人ほど知的好奇心が増加し,転じて自己を創造的に感じる程度が増加することが明らかになった(間接効果b = 0.18, 95%CI [0.09, 0.29]).本研究の結果は,個人内変化の観点から畏敬の念が知的好奇心の向上を介して創造性を促進することを新たに示唆する.
著者
高野 了太 澤田 和輝 野村 理朗
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-054, 2021 (Released:2022-03-30)

畏敬は,現在の認知的な枠組みが更新するような広大な刺激に対する感情反応である。従来,雄大な自然等の刺激から生じる畏敬が自己主体感を低下させ,目の前の超越的な出来事を説明するための新たな意味体系(神等)を見出すよう動機づけること等が指摘されている。これらの知見は,畏敬が「人は行いにふさわしい成果をこの世界で与えられる」という公正世界信念(Belief in a just world,以下BJWとする)と関わる可能性を示唆する。BJWは対象を自己としたBJW-自己と,他者としたBJW-他者の2種からなり,例えば,BJW-自己は,自分の運命をコントロールする点から自己主体感と正に関わる一方,BJW-他者は,世界に意味体系をもたらす点から宗教的信仰心と正に関わることが示されている。ゆえに本研究では,日常的に畏敬を経験する傾向(気質畏敬)とBJW-自己・他者の関連を検討した。結果,他のポジティブ感情の効果を統制した際,気質畏敬は,BJW-自己を負に,BJW-他者を正に特異的に予測した。これらの結果は,畏敬が,自他の対象によって異なる形で,世界を理解するための枠組みとしての信念と関わることを示唆する。