著者
澤辺 智雄
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.333-342, 2010 (Released:2010-08-27)
参考文献数
59
被引用文献数
4 4

ビブリオは,コレラ菌,腸炎ビブリオ及びビブリオ・バルニフィカスというヒト病原性種を含むことから,病原微生物学から環境微生物学までにおける幅広い学術分野でモデル微生物として活発に研究されている細菌群である。コレラ菌の発見から156年を経過した今でも,新種のビブリオが発見され続けており,自然界におけるビブリオの種多様性は驚くほど高い。1965年にM. Véonによって作られたビブリオ科(Vibrionaceae)は,6属,103種が包含される巨大な分類群となっている。ビブリオで新種が記載され続ける背景には,株の遺伝的多様性を精密に検出する指紋鑑定法や個体識別法が取り入れられたことにある。また,個体識別の過程で得られる多座位の遺伝子配列を解析することにより,ビブリオの進化の系譜や種分化機構の推定も試みられるようになってきた。さらに,ビブリオをモデルとしたゲノム情報に基づく分類規範の構築も始まっている。本稿ではビブリオの分類の歴史を紐解きながら,ビブリオの多様性と進化に関する最新の成果をまとめて紹介する。
著者
澤辺 智雄
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本年度に得られた成果は以下の通りである。I.ウニ・アワビ消化管由来アルギン酸分解菌の種構成と分解特異性エゾバフンウニ消化管から分離したアルギン酸分解菌はその一般性状からVibrio属と同定されたものが大半を占めていたが、代表株についてDNA-DNA相同性を測定した結果、少なくとも2菌種以上が混在していることが明らかとなった。一方、エゾアワビ消化管から分離したアルギン酸分解菌は非運動性のVibrio属類似細菌が主体をなしていた。これらの菌群は16SrDNA塩基配列による分子系統解析およびアルギン酸分解性Vibrio属標準株とのDNA-DNA相同性を測定した結果、Vivrio属の新種であることが明らかとなった。また、ウニ消化管由来アルギン酸分解菌のアルギン酸分解特異性はアルギン酸を構成するpolyMおよびpolyGいずれのホモポリマーとも分解する菌株が30%以上を占めているのに対し、アワビ分離株ではpolyGブロックに対する分解性の強い菌株が30-70%占めていた。ウニ自体はアルギン酸分解酵素を分泌しないことから、消化管内細菌がアルギン酸分解の大部分を担っていると考えられた。一方、アワビはpolyM特異的な分解酵素を分泌することから、アワビ消化酵素で分解されにくい部分を分解する消化管内細菌が定住していることが示唆された。II.アルギン酸分解酵素の特性ウニ由来アルギン酸分解菌代表株Ud10株は基質特異性を示さないNaCl要求性の強い酵素を誘導的に産生していた。一方、アワビ由来アルギン酸分解菌A431株はpolyG特異的分解酵素以外にも、基質特異性の異なる6種類以上の酵素を産生しており、その中でpolyMに強い特異性を示す分解活性画分およびpolyGに強い特異性を示す分解活性画分の部分精製物について酵素化学的性状を調べた。それぞれの画分の至適反応温度は40℃および30℃と異なっていたが、至適反応温度(pH7.5)および塩類の要求性(100mM NaCl)は同様の性質を示した。
著者
青井 良平 清水 茂雅 山崎 浩司 澤辺 智雄 川合 祐史
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.483-489, 2011-10-15

ECO636プローブは <I>E.coli</I> と <I>Shigella</I> 属に対して特異性を示した.汚染指標として <I>E. coli</I> を検出するためのFISHFC法におけるマイクロコロニー形成のための培養時間はSEL液体培地で7時間が最適であった.<BR> <I>E. coli</I> 新鮮培養菌を用いた FISHFC 法と平板塗抹法での生菌数には有意差は認められず(<I>p</I> >0.05),さらに,<I>E. coli</I> を接種した食品サンプル(8種類)からの検出でも,FISHFC 法と平板塗抹法での生菌数値に有意差は認められなかった.<BR> したがって,本研究で設計した ECO636 プローブを用いた FISHFC 法による <I>E. coli</I> の定量検出法は,培養時間7時間およびFISH操作2時間の合計9時間で,<I>E. coli</I> を平板塗抹法と同等の精度かつ迅速に検出·定量できる方法であり,汚染指標としての <I>E. coli</I> 定量検出に有用な方法であることが明らかとなった.
著者
吉水 守 田島 研一 西澤 豊彦 澤辺 智雄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

牡蠣の汚染による衛生上の問題に関しては、腸チフス等18世紀から報告があり、我が国でも1924年熊本県不知火での規模な腸チフスの発生が知られている。1950年に『食品衛生検査指針』により貝類の衛生基準が定められた。牡蠣は1日当たり2トンもの海水を吸入し、餌料生物を接種し、同時に細菌やウイルスを濃縮する。しかし清浄海水で飼育すると蓄積した細菌やウイルスを放出する。いかにして、清浄海水を確保するかに関しては、坂井(1953,1954)、河端(1953)の研究により、現在の浄化法の基礎が築かれ、広島・宮城県から全国に普及していった。平成9年5月31日付けの食品衛生法の一部改正により、食中毒原因物質として新たに小型球形ウイルスとその他のウイルスが追加された。小型球形ウイルス(SRSV;現在、ノロウイルス)は電子顕微鏡像での形態が類似する直径27〜38nの球形ウイルスの総称であり、1972年に米国オハイオ州で起きた非細菌性集団胃腸炎の患者糞便より発見されたNorwalkウイルスがその原型である。ノロウイルスは培養細胞や実験動物を使用して増殖させることが困難であり、現在行われている紫外線やオゾンを用いた循環型浄化装置では、ウイルスが不活化されていてもRT-PCR法では陽性となり、製品の出荷ができない。本研究は、牡蛎のノロウイルス浄化法を培養可能なネコカリシウイルスを代替えウイルスとして検討したものであり、得られた成果は以下のとおりである。1.電解海水を用いることにより牡蠣の大腸菌浄化が可能であることを示した。2.ネコカリシウイルス(FCV)を用いた場合、FCVは紫外線に抵抗性を示したが、海水電解水に高い感受性を示した。3.FCVは高水温下で不安定であったが、低水温下では安定であった。3.FCVは半数以上の牡蠣の消化管内容物で不活化された。4.FCVは牡蠣の脱殻条件、40℃・800気圧で90%以上不活化された。これらを組み合わせることによりカキのノロウイルス浄化は可能となると考えられる。今後はノロウイルスの感染性を評価する系を作る必要性があると改めて認識された。