著者
畠 佐代子 新野 聡 富樫 悦夫 上野山 雅子 澤邊 久美子
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.53-62, 2018-10-24 (Released:2018-10-24)
参考文献数
20

宮城県仙台市若林区内において,カヤネズミMicromys minutusの新産地を3ヶ所発見した.新産地のうち,広瀬川左岸河川敷で発見された生息地は,国内における本種の分布の北限として知られる坪沼よりも北に位置しており,新たな北限となる.新産地の周辺は圃場整備や護岸工事が進み, それぞれの生息地が孤立した状態であると推察されることから,生息環境の早急な保全が求められる.
著者
澤邊 久美子 夏原 由博
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.31-38, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
24

カヤネズミMicromys minutus (Pallas, 1771)は、イネ科の高茎草地を生息地とする草地性生物の一種であり、7月から10月ごろの繁殖期にイネ科またはカヤツリグサ科の草本など多様な単子葉草本の茎葉を利用し、地上部約1 m前後の高さに球状の巣を作る。一方、本種は冬季には地上付近に巣を作ると言われているが、冬季の生態についてはまだ明らかになっていない。本研究では本種の冬季の営巣環境において、冬季植生の存在の影響と営巣の位置について明らかにした。2014年-2015年の2年間の繁殖期に継続して生息が確認されていた11地点と生息が確認できていなかった9地点の計20地点で、2016年冬季に越冬巣の調査を行った。巣ごとに巣高、営巣植物種、営巣植物高、群落高を記録し、より広域の環境要因として草地ごとに、冬季の全面刈取りの有無、カヤネズミの移動を想定した隣接する森林・水田の有無、冬季全植被率、冬季茎葉層植被率(10 cm以上)、ススキとチガヤの植被率合計を記録した。越冬巣は9地点(12巣)で確認され、越冬巣の巣高は群落高に関わらず平均28.92 cm(SD=13.12)であった。これは繁殖期の巣高より低く、越冬巣は草高にかかわらず一定の高さであった。草地における越冬巣の有無は過去2年間の繁殖期の営巣の有無とほぼ対応していた。冬季の茎葉層植被率、全植被率またはススキとチガヤの植被率が高いと越冬巣が有意に多く、冬期の全面刈取りがあると越冬巣が有意に少なかった。カヤネズミの移動を想定した森林・水田の隣接については関連が見られなかった。本研究で対象とした小規模な半自然草地における本種の冬季の営巣環境としては、特に越冬巣が多く見られた30 cm程度の位置に植物体が存在することが重要であり、全面刈り取りを避けることが重要であると示唆された。
著者
澤邊 久美子 夏原 由博
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.69-78, 2015-12-28 (Released:2016-02-01)
参考文献数
41
被引用文献数
1 3

大阪府堺市において,丘陵地から平野部を含む 47 地点の調査地点を設け,本種の営巣調査を行った.草地のパッチスケールの要素(植物高,パッチ面積,草地タイプ,営巣植物被度)と,景観スケールの要素として半径 20,50,100,200,500 m のバッファ内における 5つ(樹林地,空地,水田,畑,草地)の土地利用の面積比率を説明変数とした.本種の生息に影響する要因とそのスケールを明らかにするため,巣の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析により,5 つのバッファごとに本種の生息確率を示すモデル選択を総当たり法で行った.営巣調査の結果,47 地点のうち 14 地点で巣を確認した.このうち攪乱が少ない草地タイプと,営巣植物の平均被度が高い草地で巣の確認地点数が有意に多かった.ロジスティック回帰分析の結果,総当たり法により最小 AIC との差が 2 未満のモデルについて検討した.その結果,本種の生息に影響を及ぼす空間スケールは,半径 500 m あるいはそれ以上であること,さらにそこに占める草地と水田の面積が生息に正の影響を及ぼす要素であることが明らかとなった.以上から,本種の生息適地は,行動圏よりも広い半径 500 m 以上のスケールで,草地と水田が多く存在する景観であり,その草地は営巣植物となるイネ科草本が優占する植生を維持するため最小限の攪乱を加え維持管理する必要がある.これらの条件で,小規模な半自然草地において本種の生息適地を把握し保全策を講じることが求められる.