著者
夏原 由博 中西 康介 藤岡 康弘 山本 充孝 金尾 滋史 天野 一葉 李 美花 片山 直樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.231, 2020 (Released:2020-12-24)
参考文献数
47

本研究ではサギ類を水田の生物多様性の指標と位置づけ、環境保全型稲作によるサギ類の個体数増加の効果を検証することを目的とした。滋賀県野洲市、高島市、愛知県豊田市のそれぞれで、慣行農法による稲作水田と特別栽培または有機栽培の水田を選び、2014年から2016年まで昼行性サギ類(アオサギ、ダイサギ、チュウサギ、コサギ)の個体数とその主要な餌となる魚類、オタマジャクシの個体数をトラップおよびすくい取りによって調査した。また、滋賀県で取り組まれている堰上式魚道の効果を検証するために、2016年に野洲で魚道水田と魚道の設置されていない水田の比較を行った。サギ類個体数と魚類個体数は慣行水田と比較して有機水田で多く、オタマジャクシ個体数は農法による差が認められなかった。有機水田は慣行水田で行われている輪作をしないことや農薬不使用のため魚類(主にドジョウ類)の個体数が多いことがサギ類を増加させたと考えられた。魚道の設置は魚類個体数を増加させ、ダイサギとチュウサギの個体数を有意に増加させたがアオサギは差が認められなかった。アオサギは稚魚より大きな餌を好むためと考えられた。また、オタマジャクシ個体数は魚道水田で少なかったが、カエルが魚類のいる水田を避けて産卵するか、卵やオタマジャクシが魚に捕食されたと考えられた。
著者
澤邊 久美子 夏原 由博
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.31-38, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
24

カヤネズミMicromys minutus (Pallas, 1771)は、イネ科の高茎草地を生息地とする草地性生物の一種であり、7月から10月ごろの繁殖期にイネ科またはカヤツリグサ科の草本など多様な単子葉草本の茎葉を利用し、地上部約1 m前後の高さに球状の巣を作る。一方、本種は冬季には地上付近に巣を作ると言われているが、冬季の生態についてはまだ明らかになっていない。本研究では本種の冬季の営巣環境において、冬季植生の存在の影響と営巣の位置について明らかにした。2014年-2015年の2年間の繁殖期に継続して生息が確認されていた11地点と生息が確認できていなかった9地点の計20地点で、2016年冬季に越冬巣の調査を行った。巣ごとに巣高、営巣植物種、営巣植物高、群落高を記録し、より広域の環境要因として草地ごとに、冬季の全面刈取りの有無、カヤネズミの移動を想定した隣接する森林・水田の有無、冬季全植被率、冬季茎葉層植被率(10 cm以上)、ススキとチガヤの植被率合計を記録した。越冬巣は9地点(12巣)で確認され、越冬巣の巣高は群落高に関わらず平均28.92 cm(SD=13.12)であった。これは繁殖期の巣高より低く、越冬巣は草高にかかわらず一定の高さであった。草地における越冬巣の有無は過去2年間の繁殖期の営巣の有無とほぼ対応していた。冬季の茎葉層植被率、全植被率またはススキとチガヤの植被率が高いと越冬巣が有意に多く、冬期の全面刈取りがあると越冬巣が有意に少なかった。カヤネズミの移動を想定した森林・水田の隣接については関連が見られなかった。本研究で対象とした小規模な半自然草地における本種の冬季の営巣環境としては、特に越冬巣が多く見られた30 cm程度の位置に植物体が存在することが重要であり、全面刈り取りを避けることが重要であると示唆された。
著者
河瀬 直幹 夏原 由博
出版者
日本環境動物昆虫学会
雑誌
環動昆 (ISSN:09154698)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.123-131, 2007-09-07
被引用文献数
1

大阪府堺市周辺の約80km^2において,アオヤンマの生息状況について調査した.空中写真を利用し,生息場所となるヨシ等の高茎抽水植物帯がある池沼を把握した後,野外調査による成虫の確認調査を実施した.その結果,19ヵ所の潜在生息場所が把握され,そのうち10ヵ所で成虫を確認したが,繁殖場所と推定できる場所は3ヵ所に限定された.また,3ヵ所の繁殖場所ではヨシ群落が最優占し,ヨシ以外の抽水植物群落も存在した.さらに,3ヵ所の繁殖場所から7ヵ所の確認場所に移動したと考えると,成虫は平均2,260±841mを移動すると推察できた.ただし,有効分散は3ヵ所の繁殖場所問の移動に限られるため,調査範囲内のアオヤンマの個体群ネットワークは非常に厳しい状況にあると思われた.アオヤンマを地域的に保全するには,繁殖場所問の距離が2,260±841mの範囲内でネットワークされた保全計画が重要と考えられた.
著者
堀内 康生 木寺 克彦 志野 和子 尾崎 元 舟木 仁一 上野 成子 吉村 彰友 菅原 猛行 藤谷 宏子 玄 俊孝 更家 充 中島 理 一色 玄 夏原 由博
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF PEDIATRIC ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.15-21, 1990-08-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
14
被引用文献数
3 2

7施設に通院ないし入防中のダニに高い抗体価を有する喘息児47例を対象に防ダニ布団カバーを使用し臨床症状の経過およびダニ数の計測を行った. ダニ数の計測に際し, 防ダニカバーを使用しない群を対象群とした. 防ダニカバー使用群では使用1カ月後にダニ数は著明な減少を認めた. 発作点数も減少し咳漱・夜間睡眠などの臨床症状も改善した. しかし, 夏季にはダニ数が増加し, 臨床症状も悪化した. 室内のダニ繁殖による侵人が考えられ, この時期には除湿や部屋の掃除を徹底することが必要かと考えられた.
著者
夏原 由博
出版者
(社)大阪生活衛生協会
雑誌
生活衛生 (ISSN:05824176)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.13-21, 1996-01-30 (Released:2010-03-11)
参考文献数
46
被引用文献数
1
著者
夏原 由博 堀内 康生 木寺 克彦 志野 和子 尾崎 元 舟本 仁一 上野 成子 吉村 彰友 菅原 猛行 藤谷 宏子 玄 俊孝 更家 充 中島 理 一色 玄
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.305-309, 1991
被引用文献数
2 2

高密度織物を寝具カバーとして使用した場合にダニ汚染を防ぐ効果の試験を行った。試験は22人の喘息患児の寝具を対象とした。寝具を2群にわけ, 一群の敷布団, 掛け布団, 枕を高密度織物製のカバーでおおい着用群とし, もう一群はカバーでおおわず非着用群とした。寝具はさらに供試カバーの上から木綿のシーツでおおい, 同じシーツをコントロールにも使用した。ほこりはカバー着用前と着用4週間後に木綿シーツの上面2m^2から採取した。検出されたダニは主にヒョウヒダニ属であった。カバー使用の結果, ダニ個体数は生死体とも有意に減少した。着用4週間後に多数のダニに汚染されていた敷布団(ダニ生体10個体以上/2m^2)はカバー着用群(0/8)で非着用群(2/14)より少なかった。多数のダニ死体による汚染も着用群は非着用群よりより少なかった(1/8および9/14)。
著者
澤邊 久美子 夏原 由博
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.69-78, 2015-12-28 (Released:2016-02-01)
参考文献数
41
被引用文献数
1 3

大阪府堺市において,丘陵地から平野部を含む 47 地点の調査地点を設け,本種の営巣調査を行った.草地のパッチスケールの要素(植物高,パッチ面積,草地タイプ,営巣植物被度)と,景観スケールの要素として半径 20,50,100,200,500 m のバッファ内における 5つ(樹林地,空地,水田,畑,草地)の土地利用の面積比率を説明変数とした.本種の生息に影響する要因とそのスケールを明らかにするため,巣の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析により,5 つのバッファごとに本種の生息確率を示すモデル選択を総当たり法で行った.営巣調査の結果,47 地点のうち 14 地点で巣を確認した.このうち攪乱が少ない草地タイプと,営巣植物の平均被度が高い草地で巣の確認地点数が有意に多かった.ロジスティック回帰分析の結果,総当たり法により最小 AIC との差が 2 未満のモデルについて検討した.その結果,本種の生息に影響を及ぼす空間スケールは,半径 500 m あるいはそれ以上であること,さらにそこに占める草地と水田の面積が生息に正の影響を及ぼす要素であることが明らかとなった.以上から,本種の生息適地は,行動圏よりも広い半径 500 m 以上のスケールで,草地と水田が多く存在する景観であり,その草地は営巣植物となるイネ科草本が優占する植生を維持するため最小限の攪乱を加え維持管理する必要がある.これらの条件で,小規模な半自然草地において本種の生息適地を把握し保全策を講じることが求められる.
著者
夏原 由博 村上 真樹 青木 大輔 中山 祐一郎 前中 久行
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.565-568, 2008-03-31 (Released:2009-05-08)
参考文献数
31

Identifying conservation units in a species and prioritizing their conservation were attempted in order to efficient conservation practice. We defined a conservation unit as a distinct populations between which individuals cannot be exchanged because of unique genetic and ecological characteristics. Conservation priority was given to conservation units that were restricted in distribution or those where habitats were not protected, because habitat loss is one of the most important factors leading to species extinction. We identified a gap between species distribution and conservation status using the land use master plan. We considered nature conservation areas, natural park areas, and protected forest areas as protected land, urbanization promotion areas as not protected, and agricultural promotion areas and private forest areas as at intermediate risk. The Japanese clouded salamander Hynobius nebulosus was used as a model species. An assessment was carried out after defining the conservation units of this species based on reported geographic variation in allozyme, mt-DNA, or morphology. The presence/absence of the species and land use regulation were recorded on a 1-km grid. The greatest numbers of records of species occurrence were in agriculture promotion areas (17.4%) and private forest areas (39.5%) with 791 records. Of the ten conservation units, the Tottori population was given at highest priority for conservation.
著者
三好 文 夏原 由博
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.617-620, 2003-03-31
参考文献数
17
被引用文献数
2 7

The clouded salamander, Hynobius neblosus is widely distributed around west Japan, but it is endangered to extinction in Osaka and Kyoto Prefectures. We evaluated environment on habitat of this salamander in Osaka and Shiga Prefectures, because H. neblosus is endangered to extinction in Osaka Prefecture but more abundant in Shiga Prefecture than Osaka, Using field census data and Geographic Information Systems, we estimated habitat suitability and made maps of the potential habitat of H. neblosus of 250 m grid by using dataset of average elevation, average slope, percentage of land use and valley(presence or not). We found that incidence of spawn in local habitat is lower in smaller habitats than larger ones, and average habitat area is smaller in Osaka than Shiga. So that we think this is one of reasons why density of H. nebulosus is lower in Osaka Prefecture.
著者
夏原 由博 三好 文 森本 幸裕
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.523-526, 2002-03-30
被引用文献数
4 7

開発や保護がカスミサンショウウオの絶滅確率におよぼす影響について,メタ個体群存続可能性分析によるシナリオ分析を行った。調査地は滋賀県南部の面積約200haの孤立した丘陵で,かつては全ての谷が水田であったが,現在では大部分が耕作されていない。1歳到達仔数および上陸後の生存率と移動率を変化させ,土地利用のシナリオを変えてシミュレーションをおこなった。その結果,全面開発された場合,小規模な保護区を設けても絶滅リスクは緩和できないこと,部分開発でも絶滅リスクは増加することが示唆された。また,現状維持でも孤立したパッチには個体群が回復しないこと,耕作放棄の影響は部分開発よりも大きいという結果が得られた。
著者
夏原 由博 神原 恵
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.617-620, 2001-03-30
被引用文献数
9 16

大阪府南部の国土地理情報2次メッシュ「冨田林」「岩湧山」の範囲で,250m方形区単位でのニホンアカガエルの生育環境適合性を卵塊の有無を指標として推定した。現地調査は2000年2月から4月に175方形区で行った。このうち,本種の卵塊が分布していたのは15個であった。地理情報システムによって,方形区ごとの平均標高,平均傾斜角度,土地利用面積率,谷の有無を取得し,これらを2カテゴリー化した値を説明変数として,数量化2類(ダミー変数による判別分析)によって本種卵塊の有無を判別するモデルを推定した。その結果,地形要素が判別に高く寄与し,標高は160m以下,傾斜は10度以下,樹林面積率20%以上で谷の存在する方形区に卵塊が分布すると予測された。対象地2874個のうち,208個で本種が生育可能であると推定された。これらのうち,連続した生育適地の面積が広いほど実際の卵塊出現率が高く,孤立化が局所絶滅からの回復を阻害しているものと考えられた。ロジスティック回帰により方形区5個(3125ha)以上が連続している場合に,期待出現率1が得られた。
著者
夏原 由博
出版者
環境アセスメント学会
雑誌
環境アセスメント学会誌 (ISSN:13481819)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.21-26, 2009-03-15

Uncertainty in the assessment and management of biodiversity and ecosystem is derived from (1) uncertainty of our understanding about impact on biodiversity, (2) insufficiency in scoping, and (3) uncertainty that inherent in ecosystem. To cope with the uncertainty, effective scoping with appropriate indicators and quantification of impact is important, as well as adoption of adaptive management with precautionary principle that has been used in ecosystem management. Further challenges are discussed concerning uncertainty in the biodiversity assessment.
著者
中村 太士 森本 幸裕 夏原 由博 鎌田 磨人 小林 達明 柴田 昌三 遊磨 正秀 庄子 康 森本 淳子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

森林、河川、農地生態系について、物理環境を基盤とした生息場評価手法を確立した。また、それぞれの生態系において、生息場の連結性や歴史的変化、倒木などの生物的遺産を考慮する新たな復元手法を開発し、実験的に成果を得た。また、魚類、昆虫、植物、両生類、鳥類、貝類、哺乳類など様々な指標生物を設定し、モニタリングや実験結果によりその成否を評価する手法を確立した。環境経済学や社会学的立場から、再生事業や利用調整地区の導入に対する地域住民、利用者の考え方を解析し、将来に対する課題を整理した。
著者
夏原 由博
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.333-336, 1989
被引用文献数
1 6

Furumizo (1973)を改良したふるい水洗法の検出率を検討した。新しい方法は以下の点でFurumizo法と異なっている。1)試料の乾燥重量の測定。2)試料と50%エタノール80mlを振とうするための100mlの広口びんには金網を入れない。3)広口びんの内容物は目の大きさが0.42mmと0.075mmのふるいに通し, そのたびに30秒間水洗する。4) 0.075mmのふるいを1%のメチレンブルーに数秒間漬けて試料を染める。5)染色した試料をブフナーろうと内のろ紙の上に置いた円筒に流し込む。家庭で採取したほこり22試料をそれぞれ5回ずつふるい処理し, 5回で得られた合計に対する各回の抽出率を検討したところ, 3回のふるい処理で生体は平均98.4% (89.4∿100%), 死体では98.7% (90.8∿100%)の検出率が得られた。ローダミンBで染色したコナヒョウヒダニDermatophagoides farinaeの生体と死体それぞれ100個体ずつを500mgのほこり4試料に混入し, ダニの分離を試みたところ生体で84∿95%, 死体で91∿98%の検出率を得た。さらに5軒の家から500mgのほこりを2組ずつ取って新検出法とDarling液遠心懸濁法の検出数を比較したところ, 新検出法によるほうが多くのダニを得られた。