著者
波多野 和夫 広瀬 秀一 中西 雅夫 濱中 淑彦
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.140-145, 1994 (Released:2006-06-06)
参考文献数
13
被引用文献数
5 2

反復性発話あるいは常同性発話の概念を整理し,さまざまな特徴を取り上げて,それによる分類を試みた。本稿では,この概念は可能な限り広く設定されており,反復言語,滞続言語のみならず,反響言語,再帰性発話などをも包含している。このような現象論としての症状学に立って,吃音症状,CV再帰性発話,部分型反響言語,音節性反復言語,語間代を含む音節レベルの反復性発話をまとめて検討した。特に,このうちの語間代 (Logoklonie) の問題に焦点を当て,自験症例の報告を通じて,その成立に関与する要因を検討することにより,発現機制に関する考察を試みた。
著者
波多野 和夫 大塚 俊男 濱中 淑彦
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.69-72, 1996-01-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
11

著しい語間代(Logoklonie)の言語症状を呈した初老期発症のAlzheimer病の1例の症例報告を行った. 語間代はKraepelin(1910)の教科書に記載された有名な現象であるが, これまでほとんど取り上げられることなく, 議論の対象としては等閑視されて来たといってよい. 我々は, 自験例との臨床的経験を通じて, この語間代という言語症状の輪郭を明らかにし, その現象と発生に関わる要因として, (1)音節レベルの水平性反復, (2)脳器質性言語障害, (3)発話発動性の保存, (4)精神運動性解体としての固執性症状, (5)前頭葉損傷との関係, (6)経過の問題という特徴を取り上げ, その意味を考察した. 併わせて類似の病的言語現象として, (a)吃音, (b)子音・母音再帰性発話, (c)部分型反響言語を挙げ, これらとの鑑別診断についても考察した
著者
仲秋 秀太郎 吉田 伸一 古川 壽亮 中西 雅夫 濱中 淑彦 中村 光
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.293-303, 1998 (Released:2006-04-26)
参考文献数
25
被引用文献数
1

軽度の Alzheimer型痴呆 (DAT) 9名と中等度の DAT 9名を対象に遠隔記憶の検査成績を検討した。自伝的記憶の検査 (autobiographical incidents memory, personal semantic memory) は Kopelman ら (1989) の検査課題を一部修正して用いた。また,社会的な出来事の検査として Kapur ら (1989) の考案した Dead/Alive test を本邦でも使用可能となるように修正し用いた。その結果,自伝的記憶の検査および Dead/Alive test の検査の双方とも,近い過去に比較して遠い過去に関する記憶の検査成績が良好であるような時間的な勾配が DAT の2群に認められた。一方,自伝的な記憶の検査においては軽度と中等度の DAT の検査成績に乖離が認められたが,Dead/Alive test においては DAT の2群の成績に乖離を認めなかった。この結果には,自伝的記憶と Dead/Alive test の解答方法の相違 (再生と再認) が関与しているだけではなく,複雑な階層構造を持つ自伝的記憶が軽度のDATに比較して中等度の DAT においてより障害されやすいことも関連すると考えられた。
著者
兼本 浩祐 名取 琢自 松田 芳恵 濱中 淑彦
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.196-204, 1998 (Released:2006-04-26)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

作話の質問紙表と三宅式記銘力検査の有関連対を用いて,記銘力検査で出現した誤反応の種類と質問のカテゴリーの関連を検討した。その結果は以下のようであった。すなわち, (1) 記銘力検査の成績は作話の質問紙表の正解率とは相関するが作話発生率とは相関しなかった。 (2) 遠隔記憶に対する質問において生ずる作話は,三宅式記銘力検査のリスト外由来で刺激語と意味的に無関連な誤反応 (semantically unrelated : SUR) の保続と有意に相関した。 (3) SURおよびその保続は,記号素性錯語型の誤反応と有意に相関した。(4) 因子分析において,近時記憶,被暗示性の亢進,周囲の状況の把握力の保持という特徴を持つ因子が抽出され,この因子は痴呆を伴わない健忘症候群を呈する症例群において有意に得点が高かった。以上の結果および文献的考察より,作話には局所性解体としての健忘症候群と親和性を示し,近時記憶を中心として出現する当惑作話型の作話と,痴呆を含む均一性解体と親和性を示し,遠隔記憶に対しても出現する作話があり,後者は意味的枠組みの解体と密接な関連を有することが示唆された。