著者
兼本 浩祐 馬屋原 健
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.230-236, 1993 (Released:2006-06-14)
参考文献数
20

本院にてんかんを主訴として来院し,単純部分発作を示した 563人の患者から失語発作を呈した 42人の患者を対象として選択した。その内訳は,言語理解障害が 24人,言語表出障害が 25人,喚語困難が 5人,錯語が 4人,読字困難が 2人であった。夢様状態(dreamy state)を訴えるてんかん患者群と比較して,失語発作を呈した症例群は,(1) 脳波上前頭部焦点を示す率が高い,(2) 複雑部分発作の合併率が低い, (3) 部分運動発作の随伴率が高く, (4) 複合視覚発作,不安発作の随伴率が低いことが統計的に確認された。この結果から,両群とも脳波上側頭部焦点を示すことが多いが,夢様状態は大脳辺縁系が深く係わっているのに対して,失語発作は新皮質との関わりが深いことを論じた。
著者
兼本 浩祐 川崎 淳 河合 逸雄
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.9-14, 1995-02-28 (Released:2011-01-25)
参考文献数
19

てんかんを疑われて来院した進行性ミオクローヌスてんかんの症例 (以下PME群) を, 若年性ミオクローヌスてんかんの症例 (以下JME群) と比較し, 問診と初診時の脳波所見について, 両群で有意差を示す項目を見いだすことを試みた。その結果, (1) 基礎律動の徐波化, (2) 棘徐波の出現の頻繁さ (最初に棘徐波が出現した時点から30秒以内に棘徐波の群発が3回以上) が, PMEに, (3) 覚醒後数時間にほぼ限定された大発作がJMEに, 有意に多い特徴として取り出された。初期の段階におけるPMEは, JMEと様々の点で誤診される危険のある病態であることを強調し, JMEの診断の際に留意すべきであることを指摘した。
著者
兼本 浩祐 田所 ゆかり 大島 智弘
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1091-1093, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

Almost every kind of psychiatric problems are associated with epilepsy such as psychotic states, manic as well as depressive states and anxiety attacks. Overall, the prevalence of psychiatric comorbidities in patients with epilepsy amounts to as high as 20-30% of all cases. Acute and chronic interictal psychoses, as well as postictal psychosis (or more precisely periictal psychosis), comprise 95% of psychosis in patients with epilepsy. Prevalence of depressive states in patients with yet active epilepsy ranges from 20-55%. Prevalence in patients with controlled epilepsy ranges from 3-9%. Depressive states comprise 50-80% of psychiatric co-morbidities in patients with epilepsy. Several studies reported that PNES amounted to as high as 30% among patients considered as candidates for epilepsy surgery due to intractable epilepsy. It is of clinical use that PNES is divided into 3 groups: The first group belongs to PNES without either intellectual disability nor epilepsy; The second group suffers from intellectual disability in addition to PNES; The third group shows both epileptic seizure and PNES. These groups need to be differently treated. After temporal lobectomy for controlling pharmacoresistant TLE, severe but transient depression possibly leading to suicide can appear, especially within the first few months after surgery.
著者
兼本 浩祐 川崎 淳 武内 重二 河合 逸雄
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.202-210, 1995-10-31 (Released:2011-01-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 4

難治側頭葉てんかんのため本院で手術を受け1年以上経過した22例の患者について術後の精神症状を検討した。その結果, (1) 術前に精神病状態を体験したことのない患者で術後新規に精神病状態を体験した患者が3例あり, いずれも右切除例であった, (2) 際立った精神症状をきたした患者では, 実体的意識性, 夢様状態を前兆とするものが比較的多かった, (3) うつ状態は術後3カ月以内には出現し, 時には自殺企図を伴うほど重症になった, (4) 術前に敵意・攻撃性が目立った患者は, 術後には改善がみられた, (5) 精神症状の大部分は1年以内には消失したが, 軽症化したものの2年以上遷延した例が2例みられた。以上の結果を文献例と比較し, 術後精神病を心因論だけからは説明することが難しいことを指摘するとともに, 側頭葉てんかんに対する外科手術後に, 神経学的, 神経心理学的評価だけでなく, 精神科的評価が不可欠であることを考察で論じた。
著者
兼本 浩祐
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.255-257, 2014-03-15

「癲」の歴史―たおれ病から精神病,精神病から再びてんかんへ2) てんかんと精神病が言葉として混同されるようになったのは実は歴史的にはそれほど古いことではない。「癲」がてんかんを意味する医学用語として初めて登場したのは,紀元前200年の秦の始皇帝の時代に宮廷医によって編纂された中国最古の医学書である『黄帝内経太素』によるとされる。「癲」という文字はもともと転ぶことを意味する「顚」にやまいだれを付けたものであり,転ぶ病,つまりは“falling sickness”という意味が原義であったとされる。もともと日本ではてんかんは,いびきを意味する「くつち(鼾)」,「くつちふす(鼾臥す)」,「くつちかき」などと呼ばれていたが,中国医学の「癲」の伝来によって日本でもてんかんは「癲」と呼ばれることになった。7世紀初めの隋の煬帝の時代,『病源侯論』という書物に初めて「癇」という言葉が使われ,10歳以下の小児てんかんを「癇」,10歳以上の成人のてんかんを「癲」と呼ぶ現代でも通用しそうな合理的な命名法が生まれ,これを受けてわが国でも奈良時代以降,「癇」という言葉が導入されたといわれている。「癲」と「癇」が合わさって「癲癇」として用いられるようになったのは9世紀の唐で編纂された『千金方』以降とされ,室町時代以降には庶民の間でも「癲癇」という言葉が使われるようになった。 中国では明代の16世紀前半以降,日本でもその影響をいち早く受け,安土桃山時代の16世紀後半から,「癲」と「狂」との同一視が始まったが,少なくとも日本での「癲」と「狂」の混同は,明代の代表的な医学書『医学正伝』の影響が大きかったとされる。江戸文政2年(1819年)に書かれた本邦で最初の精神医学書であるといわれる漢方医,土田獻の手になる『癲癇狂経験編』では,「癲」はその大部分が精神疾患を表しており,ごく一部にてんかんかと思われる記載が含まれるのみである5)。興味深いのは17世紀末,江戸の漢方医の間で巻き起こった論争で,当時名医として知られていた香川修庵が「癲癇」と「狂」が同じ原因で起こり病態の現れ方に違いがあるだけで両症が互いに並存すると主張し大方の漢方医がこれに賛同していたのに対して,岡本一抱は『黄帝内経太素』に遡り,「癲」を狂と同一視し,「癇」を日本古来の「くつち」と考えたのは後世の誤りで,「癲」と「癇」は同一の疾患でありこれは「くつち」であって,「癲」を狂と考えるのは後世の誤謬であると主張している。癲と狂とのこの同一視に由来する癲狂という言葉が使われなくなるのは,大正時代を待たねばならなかった。
著者
兼本 浩祐 名取 琢自 松田 芳恵 濱中 淑彦
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.196-204, 1998 (Released:2006-04-26)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

作話の質問紙表と三宅式記銘力検査の有関連対を用いて,記銘力検査で出現した誤反応の種類と質問のカテゴリーの関連を検討した。その結果は以下のようであった。すなわち, (1) 記銘力検査の成績は作話の質問紙表の正解率とは相関するが作話発生率とは相関しなかった。 (2) 遠隔記憶に対する質問において生ずる作話は,三宅式記銘力検査のリスト外由来で刺激語と意味的に無関連な誤反応 (semantically unrelated : SUR) の保続と有意に相関した。 (3) SURおよびその保続は,記号素性錯語型の誤反応と有意に相関した。(4) 因子分析において,近時記憶,被暗示性の亢進,周囲の状況の把握力の保持という特徴を持つ因子が抽出され,この因子は痴呆を伴わない健忘症候群を呈する症例群において有意に得点が高かった。以上の結果および文献的考察より,作話には局所性解体としての健忘症候群と親和性を示し,近時記憶を中心として出現する当惑作話型の作話と,痴呆を含む均一性解体と親和性を示し,遠隔記憶に対しても出現する作話があり,後者は意味的枠組みの解体と密接な関連を有することが示唆された。
著者
多羅尾 陽子 兼本 浩祐
出版者
愛知医科大学
雑誌
愛知医科大学医学会雑誌 (ISSN:03010902)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-6, 2007-03-15

In this retrospective study, we examined clinical settings and associated symptoms in patients with episodes of deliberate self-harm in order to investigate pertinent therapeutic approaches for subtypes of self-mutilators. A total of 55 patients with such episodes were randomly selected as a study sample from case records of outpatients treated directly by the authors from 2003 to 2005. The average observation period and age at examination were 2.1±3.1 and 24.9±11.3 years, respectively. Eighty nine percent of the study subjects were female, and more than 40% had experienced eating disorders, suicidal attempts by drug abuse, and doctor shopping. Fewer than 60% of the subjects were diagnosed with a DSM axis I mental disorder, of which 20% were mood disorders, while greater than 60% were categorized with personality disorders, including borderline personality disorders in 55%. Surprisingly, 38% of the subjects had an axis II diagnosis alone and not axis I. The average age of onset of self-mutilation was 22.7±11.0 years old and 65% of the subjects injured themselves without a definite precipitating event. Approximately one-third felt no pain during the self-mutilation, while amnesia to the episode and ecstasy accompanied self-injury in 13% and 29%, respectively. Factor analysis revealed late onset, marriage, and mood disorder as closely associated (first factor), which suggested the existence of a treatable subgroup of patients with mood disorders among the self-mutilators studied. In addition, analysis showed that high frequencies of self-injurious episodes, episodes of transient ecstatic feelings along with no pain following self-injury, and suicidal attempts associated with drug abuse were associated (second factor), which we speculated to be clinical hallmarks of addiction to self-mutilation. Based on our findings, we recommend that trials of medical treatment for treatable self-mutilators with hallmarks of the first factor be conducted and psychological support for patients with addiction to self-mutilation who demonstrate the second factor clinical constellation.