著者
玉山 和夫
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経営論集 (ISSN:18841589)
巻号頁・発行日
no.7, pp.1-41, 2015-02

正規分布ではほとんど発生しないと考えられている激変を,かつてはあり得ないこととして「ブラック・スワン=黒い白鳥」と呼んでいた。しかし今や,株価や為替レートの分布が正規分布よりはるかに裾の広いものであることは,周知の事実と言ってよい。つまりブラック・スワンは,市場のどこにでもいる。本稿では為替市場でのブラック・スワンの動きが,市場の趨勢を左右していることを見る。高安2001はこれをHigh Frequency Dataいわゆるティック・データで解析した。この高安2001を含めて,経済物理学によるティック・データの解析では,相場の動きを精密に観測してその特徴を際立たせることに成功している。一方で,相場の動きの背後になにがしかの経済学的意味づけが可能であるかどうかについては,多くを論じない。たしかに秒刻みの激しい動きは,正規分布の仮定を覆すに十分な観測結果を提供してくれるが,本稿はこれを日次データでも確かめた。そして本稿の特色は,この日次データの動きの経済学的意味付けを考察したことである。結果,日次データ42年分の時系列をたどることで,単位労働コスト購買力平価(ULC PPP)と為替市場の関係を改めて見ることが出来た。すなわち,日次変化率が2標準偏差(σ)以上の変動が為替相場の趨勢を決め,その動きはULC PPPと相関しているのである。踏み込んで言えば,2σ以上の動きはULC PPPをトレースするように動き,それが全体の趨勢を決めているのである。また,EURO導入以前にはドイツ・マルクが域内基軸通貨として域内外の信認を得ていたらしきことが推察される。しかし,EUROはドイツ・マルクほど信任されておらず,そのことが通貨の不安定要因であろう。論文Article
著者
玉山 和夫
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経営論集 = Sapporo Gakuin University Review of Business Administration (ISSN:18841589)
巻号頁・発行日
no.5, pp.9-18, 2013-03

本稿は平成バブル期から今日までの家計と企業の資産構成を振り返ることにより,いわゆる土地神話は本当に終焉したのかを検証するものである。結論から言えば,地価上昇を疑いなく信じるという意味での土地神話は崩れたといえる。しかし,不動産の評価価値を基準に家計・企業の資産構成が決定されるという構造で,土地神話は生き続けている。現にバブル崩壊後,家計は金融資産を増加させることで企業は負債を減少させることで土地資産の減少をカバーしようとしている。この健気な行動がデフレ・スパイラルを生み,政府の財政赤字を補ってなお余りある貯蓄過剰をもたらしている。また,土地神話に踊らされたとされる株式市場での土地含み益と株価の関係も改めて見る。結局バブル崩壊後も株価は地価によってその上値が抑えられている。この限りにおいても株式市場での土地神話も終わってはいない。ただし,6大都市の一部に地価反転の兆しはみられる。下げ過ぎた反動だけでも意外に大きいかもしれない。
著者
玉山 和夫
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学経営論集 = Sapporo Gakuin University Review of Business Administration (ISSN:18841589)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-12, 2019-01-15

1997年6月23日橋本龍太郎総理(当時)の,「米国債を売却する誘惑にかられたことが何度かある」との発言が,米国債市場および株式市場を混乱に陥れたことは,いまだに語り草となっている。はたして日本はそれほどの影響力をアメリカの市場に対してもっているのであろうか。本稿では,日米の長期国債利回りとそれぞれの対外純資産または資産・負債それぞれの名目GDP比の間の関係を調べることで,日本の影響力を論じる。 結論から言えば,アメリカの長期国債利回りは日本の対外純資産/名目GDP比が増加(減少)する時に低下(上昇)する。より詳しく見れば,日本の対外資産/名目GDP比の増加(減少)および同対外負債/名目GDP比の減少(増加)に対応して,米国長期債利回りは低下(上昇)する。つまり,日本のISバランスが貯蓄超過に向かう時,その余剰資金は日本からアメリカの国債購入に向かうのである。アメリカの長期国債利回りは,世界の金利の基準である。その世界金利を左右するのが,日本の貯蓄超過であるという事実は,日本の高齢化がもたらすであろう貯蓄超過の解消を想定する時,世界にとって聊か不都合である。論文Articles
著者
玉山 和夫
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経営論集 = Sapporo Gakuin University Review of Business Administration (ISSN:18841589)
巻号頁・発行日
no.9, pp.1-14, 2016-02-15

本稿では,日本の企業の低収益性に改めて焦点をあてて,その原因をマクロ的・社会心理学的=行動経済学的に指摘する。そもそも投資家は,自身への分け前の原資たる純資産(一株当純資産:BPS)の増大をもって株主への最大の見返りと判断するはずである。もう一歩踏み込めば,配当で支払われた分も含めたもともとの純資産(配当内部留保BPS)の増大が望ましい。日本のBPS は1955年を1とすると2013年には14.49にしかなっていない。配当内部留保BPS でも40.59である。この間名目GDP は1から57.37に増大していたのに,である。アメリカではこれらは,26.41,79.06,39.10であった。アメリカでは名目GDP の伸びよりも,配当内部留保BPS の伸びが大きいのである。一方,株式リターンは日米ともに配当内部留保BPS の増加と整合的である。昨今日本でも話題になっている株主還元とは,煎じ詰めれば株式リターンの向上である。であるからには戦術的な手段を議論する以前に,総合的な純資産である配当内部留保BPS の増大を図ることが,株主への正しい報い方ということである。実際株主還元に言及する論者たちも,配当の増加や自社株買いといった狭義の株主還元に解を求めることには批判的である。かといって株主に報いるためには何が必要であるかということについては,「しっかり儲けましょう」と言う以外具体的な話はあまり聞かない。本稿では日本のBPS および配当内部留保BPS が,経済の全般的な成果に比しても極めて貧弱であることの要因を,日本の低い資本分配率,高すぎる設備投資,それに伴う資本市場から過剰調達に求める。経営の安定の名のもとに,リスクを取った経営よりは既存事業の存続のために過大な投資を続け,そのつけを資本市場に負わせてきたのである。また,日本の投資家もリスクを取ることを嫌い,こうした「安定経営」に資金をつぎ込んできたのである。しかもこの状況は日本の社会心理学的構造に由来していると思われる以上,その転換は難しいが,結局はグローバルな株主から信頼される企業と,そうでない企業の二極化が進むことになるだろう。
著者
玉山 和夫
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経営論集 = Sapporo Gakuin University Review of Business Administration (ISSN:18841589)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-24, 2015-08-31

本稿は次の仮説を検証するものである。仮説とは,より通貨に近いものの価格変化は2σ以上の大変動が趨勢を決定し,それ以外の場合には大変動は趨勢との連動性は薄い,というものである。玉山2015.2に示されるように,日次データで見た為替市場では2σ以上の大変動が為替レートの大勢を左右している。しかし同じく日次データで見た株式市場では,逆に1σ未満の小変動が株価の趨勢に沿っており,2σ以上の大変動は趨勢とは反対の動きをしている。株価ばかりではなく,日次データで見た長期国債利回りや資源・エネルギー価格においても,為替市場とは違い小変動が趨勢を左右し2σ以上の大変動は趨勢に反している。一方,満期1年以下の短期国債の日次変化は為替市場と同様に,2σ以上の大変動が趨勢と同じ変化を示し,小変動と趨勢は必ずしも連動しない。満期1年以下の短期国債は,ほとんど通貨そのものと言って良い。つまり短期国債の価格(利回り)とは,通貨で通貨を買った価格とみることができる。為替レートも通貨で通貨を買った価格である。これは,金価格についても言える。金が2重価格となった1968年から1992年5月まで(金が貨幣と認識されていたであろう期間,詳細は後述)の金価格(ドル/オンス)は,2σ以上の動きと趨勢が平行し,小変動と趨勢には連動性が薄い。それが1992年6月以降となると,逆に2σ以上は趨勢と反対の動きとなる。論文Article
著者
大山 信義 林 美枝子 森 雅人 玉山 和夫 飯田 俊郎 西脇 裕之
出版者
札幌国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.〈持続可能な環境〉及び〈コミュニティの創発性〉の条件を探るため平成11年度に引き続き北海道釧路湿原(標茶町・鶴居村・浜中町)、山形県朝日町、宮崎県椎葉村の3地域の調査を実施し、環境保全における地域住民の活動、NPO活動、住民の自然信仰が重要な条件となっていることが明らかになった。2.アイヌ民族の居住地であった釧路湿原では、カムイ伝説や開拓農民のアニミズム信仰が自然環境を保全するうえで重要な意義をもつ。また、自然感性に基づくNPO組織と農民の自主的な活動による保護運動が湿原の生態系を保護する役割を果たしている。3.朝日町ではエコミュージアム建設運動によって地域の歴史的・文化的資源、自然資源の保護するまちづくりを行っている。この運動はナチュラリストの活動と並んでコミュニティが自己組織力を高めながらコミュニティの創発性効果を生み出している。4.椎葉村では過疎化による連帯基盤の弱体化が進んでいるが、山村社会における神木信仰、生活者の土地・環境に対する強いコミットメント(かかわり)が自然環境を守る上で重要な要素となっている。5.地域の環境負荷効果については主観的評価法が有効であり、釧路湿原塘路地区での事例では環境に対する高い価値評価をしている。地元の生活者と観光客とも自然に対する強い共感が価値評価につながっていることが分かった。6.地方のコミュニティは持続的環境を生み出すため生態系保護の要請に応えようとしており、その行動は社会学でいう〈創発的反省〉の精神に立脚しているといえる。