- 著者
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玉山 和夫
- 出版者
- 札幌学院大学総合研究所
- 雑誌
- 札幌学院大学経営論集 = Sapporo Gakuin University Review of Business Administration (ISSN:18841589)
- 巻号頁・発行日
- no.9, pp.1-14, 2016-02-15
本稿では,日本の企業の低収益性に改めて焦点をあてて,その原因をマクロ的・社会心理学的=行動経済学的に指摘する。そもそも投資家は,自身への分け前の原資たる純資産(一株当純資産:BPS)の増大をもって株主への最大の見返りと判断するはずである。もう一歩踏み込めば,配当で支払われた分も含めたもともとの純資産(配当内部留保BPS)の増大が望ましい。日本のBPS は1955年を1とすると2013年には14.49にしかなっていない。配当内部留保BPS でも40.59である。この間名目GDP は1から57.37に増大していたのに,である。アメリカではこれらは,26.41,79.06,39.10であった。アメリカでは名目GDP の伸びよりも,配当内部留保BPS の伸びが大きいのである。一方,株式リターンは日米ともに配当内部留保BPS の増加と整合的である。昨今日本でも話題になっている株主還元とは,煎じ詰めれば株式リターンの向上である。であるからには戦術的な手段を議論する以前に,総合的な純資産である配当内部留保BPS の増大を図ることが,株主への正しい報い方ということである。実際株主還元に言及する論者たちも,配当の増加や自社株買いといった狭義の株主還元に解を求めることには批判的である。かといって株主に報いるためには何が必要であるかということについては,「しっかり儲けましょう」と言う以外具体的な話はあまり聞かない。本稿では日本のBPS および配当内部留保BPS が,経済の全般的な成果に比しても極めて貧弱であることの要因を,日本の低い資本分配率,高すぎる設備投資,それに伴う資本市場から過剰調達に求める。経営の安定の名のもとに,リスクを取った経営よりは既存事業の存続のために過大な投資を続け,そのつけを資本市場に負わせてきたのである。また,日本の投資家もリスクを取ることを嫌い,こうした「安定経営」に資金をつぎ込んできたのである。しかもこの状況は日本の社会心理学的構造に由来していると思われる以上,その転換は難しいが,結局はグローバルな株主から信頼される企業と,そうでない企業の二極化が進むことになるだろう。