著者
田中 孝平 片山 翔 大倉 和貴 岡村 正嗣 縄田 佳志 中西 信人 篠原 史都
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.273-280, 2021-12-15 (Released:2022-01-15)
参考文献数
52
被引用文献数
1 1

重症患者において骨格筋は身体機能に重要な役割を果たし,骨格筋の評価は重要である.骨格筋の評価にはComputed Tomography(CT),超音波検査,生体電気インピーダンス法(BIA法:Bioelectrical Impedance Analysis),バイオマーカーなどが用いられる.CTは正確な骨格筋量の評価が可能であり,第3腰椎レベルでの骨格筋量評価がゴールドスタンダードである.CTでの評価は放射線被曝の影響やCT室への移動を伴い,後方視的に骨格筋量の評価が行われることが多い.一方,超音波や体組成計は非侵襲的で,ベッドサイドで骨格筋量の経時的な測定が可能であるが,正確な測定には知識や技術を要する.重症患者は水分バランスの変動が大きく体組成計での測定では浮腫に注意する必要がある.さらに近年では骨格筋量評価のためのさまざまなバイオマーカーも報告されている.適切な骨格筋評価を本邦でも普及させることで,重症患者の社会復帰につながる栄養やリハビリテーションへの介入が期待される.
著者
田中 孝平
出版者
京都大学高等教育研究開発推進センター
雑誌
京都大学高等教育研究 (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
no.25, pp.37-45, 2019

わが国の大学教育において、学士課程教育の後半に卒業論文・卒業研究などの研究活動が設定されることが多い。しかし、学士課程教育の後半になって、学生がいきなり研究活動を行うことは難しい。そのため、学士課程教育全体を通して、研究の要素を取り入れた学習を体系的に実施することが求められる。そこで本稿では、研究の要素を取り入れた学習の1つとして探究学習を取り上げ、その特色や諸類型を検討し、学士課程教育プログラムにおける探究学習の位置づけを考察することを目的にした。その結果、(1)研究との関係、(2)探究の枠組み、(3)問いの設定段階、(4)問いの探究段階という4つの観点から探究学習の類型を整理することができた。また、探究学習を学士課程教育に体系化する方法として、直線型の位置づけとらせん型の位置づけという2種類の考え方を示した。今後の課題は、理論と実践を架橋しながら高等教育における探究学習の理論の精緻化を行っていくことである。
著者
田中 孝平 田中 稔 竹垣 淳也 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0361, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】心不全,慢性閉塞性肺疾患,腎臓病等の慢性疾患では,呼吸循環器系の機能低下に伴い身体活動量が減少し,骨格筋の代謝機能の低下が生じる。さらに,疾患の重症化により炎症性サイトカインの血中濃度が上昇し,代謝異常症候群である悪液質を呈する。悪液質では,身体活動量の低下だけでなく炎症性サイトカインの増加が骨格筋の代謝機能を低下させる主要な原因となる。炎症性サイトカインはミトコンドリア新生やTCA回路における酵素活性を抑制し,骨格筋の有酸素性代謝能力を低下させることが知られている。一方,治療的電気刺激(TES)は積極的な運動療法が困難な場合に筋活動を代償するための代替手段として注目されており,骨格筋の代謝機能を改善する効果が多く報告されている。骨格筋の有酸素性代謝能力の維持は,効率的なATP産生により運動耐容能を維持する効果が期待できるが,これまで悪液質状態の骨格筋に対するTESの効果は検討されていない。そこで,本研究では悪液質モデルマウスを用いて,炎症性サイトカインによるミトコンドリア機能障害に対するTESの効果を検討することを目的とした。【方法】5週齢の雄性ICRマウス(n=15)を使用し,対照群(Cont群),リポポリサッカリド(LPS)投与により悪液質を惹起した群(LPS群),LPS投与期間中にTESを行った群(LPS+TES群)の3群を設けた。LSPは1日あたり10μg/gを腹腔内に投与した。TESは前脛骨筋に対して超最大収縮の刺激強度にて実施した。刺激波形には2500Hzの中周波を100Hzに変調した変調波を使用し,1秒間の刺激を2秒毎に20回行い,5分間の休憩を設けて6セット行うセッションを1日2セッション行った(Kim, 2007)。介入期間は4日間とし,介入期間終了後に前脛骨筋を摘出し,体重,筋湿重量を計測した。悪液質の指標として血液サンプルを採取し,血清中の腫瘍壊死因子(TNF-α)産生量をELISA法にて測定した。また,ミトコンドリア機能の指標としてコハク酸脱水素酵素(SDH)活性をSDH染色より計測し,クエン酸合成酵素(CS)活性をSrere法にて測定した。ミトコンドリア新生因子であるPGC-1α発現量,炎症性サイトカインからのシグナルを受けるp38のリン酸化蛋白及び総蛋白発現量をWestern blot法にて測定した。得られた結果の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を使用し,有意水準は5%とした。【結果】LPS群及びLPS+TES群の体重はCont群と比較して低値を示した。また,LPS群及びLPS+TES群の筋湿重量はCont群と比較して低値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して高値を示した。TNF-αはCont群では検出されなかったが,LPS群及びLPS+TES群では発現が認められ,2群間で発現量に有意差は認められなかった。また,LPS群のSDH及びCS活性はCont群と比較して低値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して高値を示した。さらに,LPS群及びLPS+TES群のPGC-1α発現量はCont群と比較して低値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して高値を示した。また,LPS群のp38のリン酸化割合(リン酸化p38/総p38)はCont群と比較して高値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して低値を示した。【考察】LPS投与による悪液質では,TCA回路の律速酵素であるSDH活性やCS活性の低下が認められた。SDH活性やCS活性等のミトコンドリア酵素活性はミトコンドリア数と密接に関係すると報告されており,本研究ではLPS投与によりミトコンドリア新生に重要な蛋白であるPGC-1α発現量の減少が認められた。また,LPS投与によりTNF-α発現量やp38リン酸化割合が増加した。悪液質において産生が亢進するTNF-α等の炎症性サイトカインは,p38のリン酸化を促進し,PGC-1αの発現を抑制すると報告されている。本研究では,TNF-αによってリン酸化したp38がPGC-1αの発現を抑制し,ミトコンドリア新生が抑制され,ミトコンドリア数が減少し,TCA回路の機能低下が惹起されたと考えられる。一方,TESによる介入はp38のリン酸化を抑制すると報告されている。本研究では,TESによって炎症性サイトカインによるp38のリン酸化を介したPGC-1α発現量の減少を抑制した。PGC-1α発現量の維持によりミトコンドリア新生が促進され,一定のミトコンドリア数が保たれた為,ミトコンドリア酵素活性が維持されたと考えられる。本研究の結果より,TESは悪液質におけるTCA回路の機能低下を予防する介入方法として有効であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】活動量の低下をもたらす背景となる慢性疾患特有の病態である悪液質に対する治療的電気刺激の有効性を示した点で理学療法研究として意義を持つと考える。