著者
田中 稔之 梅本 英司 宮坂 昌之
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.359-371, 2006 (Released:2006-12-31)
参考文献数
61
被引用文献数
3 3

獲得免疫の中枢をになうリンパ球は全身を巡回して病原体の侵入に速やかに対応する.ナイーブリンパ球はリンパ節やパイエル板などの二次リンパ組織を循環して病原微生物の侵入を監視している.リンパ球は二次リンパ組織で抗原感作をうけると,活性化とともにその遊走特性をリプログラムして末梢の標的組織に移住してエフェクター機能を発揮する.感作T細胞の組織トロピズムの誘導には,二次リンパ組織に分布する組織特異的な樹状細胞が重要な役割をもつ.リンパ球の生体内動態は,リンパ球と標的組織の血管内皮細胞との多段階接着反応によって制御されている.例えば,リンパ節やパイエル板に局在する高内皮細静脈は,固有の血管アドレシンとリンパ球に働くケモカインを構成的に発現し,ナイーブリンパ球を選択的に動員する.一方,末梢のエフェクター組織の血管内皮細胞は,刺激応答性に細胞接着分子やケモカインを発現し,組織特異的なエフェクター細胞やメモリー細胞を動員する.また,リンパ組織や末梢組織からのリンパ球の遊出もスフィンゴシン-1リン酸やケモカインによって制御されることが示されている.本総説では,免疫系を機能的に統合する生理的なリンパ球の再循環や感作リンパ球の組織特異的な遊走制御機構について最近の知見を概説する.
著者
亀好 良一 田中 稔彦 望月 満 高路 修 三原 祥嗣 平郡 隆明 田中 麻衣子 秀 道広
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.130-137, 2008-02-28 (Released:2017-02-10)
参考文献数
11
被引用文献数
10

【目的】アトピー性皮膚炎(AD)対策としての,学校でのシャワー浴の有効性について検討した.【方法】厚生労働科学研究AD治療ガイドラインにおける中等症以上の症例を対象とした.小学校1年生から中学校2年生までの患児58名を,シャワー浴非実施群(A群,15例),4週間実施群(B群,22例),前半または後半の2週間のみ実施群(C1群,11例およびC2群,10例)に割りつけ,9月上旬から学校でのシャワー浴を実施し,開始時,2週間後,4週間後の状態をSCORADにより評価した.【結果】いずれの群も4週間後にはSCORAD値の低下を認めたが,有意の改善はB群,C1群に限定された。重症度別に検討すると,シャワー浴の効果は重症以上の群で明らかであった.SCORADから自党症状を除いたスコアでも同様の結果が得られ,シャワー浴が皮膚炎の改善にも有効であることが示された。【結語】対象者,時期を適切に選ぶことにより,学校でのシャワー浴はADの改善に有用な対策となりうることが示された.
著者
田中 稔彦 亀好 良一 秀 道広
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.134-139, 2006-02-28 (Released:2017-02-10)
参考文献数
9
被引用文献数
9

【背景】蕁麻疹の病態・原因は多様であり,これまでに様々な分類法が用いられてきた.平成17年に日本皮膚科学会より「蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドライン」が作成され,必要となる検査の内容と意義,治療内容,予後の視点を重視した病型分類が示された.【方法】平成15年から17年に広島大学病院皮膚科外来を受診した260名の蕁麻疹患者をこの分類法に準拠して病型を診断し,その内訳を調査した.【結果】物理性蕁麻疹10.0%,コリン性蕁麻疹6.5%,外来物質による蕁麻疹は6.5%であり,残りの76.9%が明らかな誘因なく生じる特発性の蕁麻疹であった.また38.8%の患者で複数の病型が合併しており,特に慢性蕁麻疹と機械性蕁麻疹あるいは血管性浮腫との合併が多く見られた.【結語】多くの蕁麻疹は丁寧な病歴聴取と簡単な負荷試験により病型を診断することができ,それを踏まえて検査,治療内容の決定および予後の推定を行うべきであると考えられる.
著者
田中 稔彦 石井 香 鈴木 秀規 亀好 良一 秀 道広
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.54-57, 2007-01-30 (Released:2017-02-10)
参考文献数
6
被引用文献数
2

24歳,男性.初診1年半前から運動や精神的緊張によって多発する小円形膨疹を主訴に来院した.皮疹は激しい痒みをともなっていた.コリン性蕁麻疹と診断し,種々の抗ヒスタミン薬を投与したが皮疹は改善しなかった.サウナ浴によって同様の皮疹が誘発され,回収した本人の汗による皮内テストで陽性を示した.また健常人および本人の汗から精製した汗抗原で末梢血好塩基球からの著明なヒスタミン遊離が生じ,汗の中の抗原にIgE感作されていることが明らかとなった.本人の汗から回収した抗原による減感作療法を行ったところ皮疹の程度が軽減し,本人のQOLも徐々に改善した.末梢血好塩基球の汗抗原に対するヒスタミン遊離の反応性も経時的に低下し,汗抗原による減感作療法が奏効したと考えられた.
著者
田中 稔
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.404-405, 2017-08-20 (Released:2018-02-01)
参考文献数
4

肝臓は体内最大の臓器であり,代謝をはじめとした生命を維持するうえで必須の機能を数多く担っている。その中でも,三大栄養素と呼ばれる炭水化物,脂質,タンパク質のエネルギー代謝は我々が活動するためになくてはならない重要な機能である。一方,人体に有毒な物質を解毒する薬物代謝も,生命を守るためには必要な機能である。このような肝機能を十分に理解することは,健康の維持だけでなく,新薬の開発においても重要な意味を持っている。
著者
岩谷 周一 福島 晴夫 大隅 雅夫 田中 稔 平沢 敏昭 西田 保二 長町 幸雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.2308-2312, 1989-11-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
11

1983年から1987年までの5年間に群馬大学第1外科に入院した消化管出血例243例についてHb, MCV, BUN, BUN/Cr,を疾患部位別に比較し,出血部位,出血量及び出血状況の推定の可能性を検討した.結果:貧血群のMCVの比較では大腸出血例で食道のそれに比べ有意に小さかった.BUNが20mg/dl以上の高値を示すものは大腸よりも上部消化管で有意に多く,貧血群のBUNは食道の場合が胃十二指腸及び大腸よりも有意に高値であった.BUN/Cr>30の症例は上部消化管の21%に対し,大腸で1.9%と少なかった.食道疾患ではHbとBUN/Crとの間で相関(相関係数r=-0.6)が認められた.まとめ:消化管出血時,BUN/Cr>30を呈する症例は出血が上部消化管由来である可能性が極めて高く,また,出血量の推定も可能であることが示唆された.
著者
鐘本 英輝 数井 裕光 鈴木 由希子 佐藤 俊介 吉山 顕次 田中 稔久
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.15-22, 2017-03-31 (Released:2018-04-01)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

漢字の純粋失書を伴う皮質基底核症候群 (CBS) を呈したアルツハイマー病 (AD) 症例を経験したので, 本例の漢字の純粋失書の発現機序について検討を行った。症例は右利き男性で, 58 歳頃から軽度の物忘れを自覚。64 歳の当科初診時には日常生活に支障はなく, 口頭言語や読字に障害は認めなかったが字形想起障害による漢字の失書が目立ち, 右優位の軽度のパーキンソニズム, 右上肢の肢節運動失行を認めた。頭部 MRI では両側性の前頭葉と頭頂葉の軽度萎縮を認め, IMP-SPECT では左側頭葉後下部を中心に左半球の血流低下を認めた。臨床的に CBS が疑われたが, 髄液バイオマーカーから AD が示唆された。本症例の失書はAD で報告されている特徴に合致する一方, 皮質基底核変性症における失行性などの運動性要因を含むものが多いという失書の報告とは異なっていた。CBS の背景病理は多彩であることが知られているが, CBS における失書の様式はその背景病理を推定する一助となるかもしれない。

2 0 0 0 IR 侍・凡下考

著者
田中 稔
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.p499-529, 1976-07

個人情報保護のため削除部分あり中世における社会身分として、侍・凡下の別が行われていた。現存する史料の上からは、この区別の実態がもっとも明瞭なのは検断沙汰・服装の面においてである。中でも犯罪の嫌疑をかけられた時、凡下は拷問されるが、侍は拷問されないのが当時の通例であった。この侍の拷問免除規定の法源は公家法の有官位者に対する免除規定にあるようで、侍身分は律令制的官位を帯することができる者と系譜的に密接な関連を有するといえる。鎌倉幕府法においても侍・凡下の区別は厳格になされており、この侍もまた有官位者と関連をもつようであるが、郎等は侍とは認めていない。しかし在地で侍・凡下の身分差をいう場合には郎等も侍に入っているようである。これらの侍・凡下の具体的な在り方を通じて、中世身分制度の解明の手懸りを探りたい。There was a status discrimination between the Samurai and the Bonge in the Middle Ages. According to the extant documents, it was in Kendansata (検断沙汰 the code of criminal procedure) and in the costume of those days that the discrimination was most evident. For example, as a rule, the Bonge was tortured when accused as a suspected criminal, but the Samurai was exempted from the torture. This privilege given to the Samurai seems to have originated in the privilege given to the person of official rank in the Kuge-law 公家法. So it may be said that the Samurai had a close connection genealogically with those who had been allowed the official ranks in Ritsuryō 律令 system. Then, when the status discrimination between the Samurai and the Bonge becomes an issue, it must be noticed that the Rōtō 郎等 was not included in the Samurai in the law of the Kamakura shogunale 鎌倉幕府, nevertheless, in reality in his residence it seems that the Rōtō was included in it. This article, by the consideration of the Samurai and the Bonge, aimes at finding a clue that should make clear the status system in the Middle Ages, especially in the days of the Kamakura shogunate.
著者
田中 稔 梅村 太 長岡 聡紀 岡 竜巳 高島 里奈 高橋 拓哉 平山 和哉
出版者
メジカルビュー社
巻号頁・発行日
pp.1020-1031, 2021-10-19

野球肩の効果的な運動療法を行うためには,投球動作で必要とされる運動機能の理解と機能的な問題点の把握が必須であり,それらの問題点の機能的な改善と投球動作を念頭に置いた運動連鎖と投球動作の再構築を行うことが最も有効な運動療法といえる。本稿では,痛みの出現する頻度が高いコッキング期とボールリリース・フォロースルー期での評価法と効果的な運動療法の詳細について解説する。
著者
坂井田 節 塩谷 栗夫 田中 稔治
出版者
Japan Poultry Science Association
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.44-49, 1987-01-25 (Released:2008-11-12)
参考文献数
16
被引用文献数
8 8

木酢液を主成分とする製剤が鶏の産卵成績や卵質におよぼす影響について検討した。本製剤は,広葉樹の樹皮や木片を乾留して得られる液体を精製したものに,コンフリーやセルラーゼ系酵素を添加し,この液体を4倍量の軟質炭素末に吸着させたものである。この製剤を1.5~2.0%飼料添加して産卵鶏に投与したところ,実験-1では産卵率が対照区より2.9%上回り,実験-2においては4.1~4.4%上回り,統計的にも1%水準で有意差を生じた。飼料要求率については,実験-1において対照区より0.06下回り,実験-2においては0.17~0.18下回り,統計的にも1%水準で有意な改善傾向が見られた。卵殼強度については,対照区2.84,投与区3.09となり,投与区が1%水準で有意に高い値を示した。卵白高,卵黄高,ハウユニットについては,当日卵では区間に差を生じなかったが,貯卵期間が長くなるのに伴って投与区のほうが高い値で推移する傾向を示した。このため区間および区×貯卵期間の相互作用項は1%水準で有意であった。これらの実験結果から本製剤の投与は,産卵成績や卵質について改善効果のあることが示唆された。
著者
馬越 芳子 秦 珠子 木原(山本) 眞実 永易 健一 田中 稔久 馬越 淳
出版者
一般社団法人 日本女性科学者の会
雑誌
日本女性科学者の会学術誌 (ISSN:13494449)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.29-43, 2010 (Released:2011-09-21)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

生物が作る生体高分子は、多量の化石燃料を必要とせずに、太陽エネルギー、水、酸素、炭酸ガスや金属イオンを酵素の低いエネルギーの作用で作られる。地球温暖化を防ぐために、カイコが繊維を作る方法を学び、低エネルギーでの高分子合成と繊維形成を構築することが必要である。カイコは紡糸口から、数十種の紡糸方法が精密に制御された超ハイテク技術でスーパー繊維を作っている。乾式・複合・液晶・倦縮・多孔質・高速・ゲル-ゾル転移・イオン制御・自力・自動制御・傾斜紡糸、ゾーン延伸、二酸化炭素固定、低エネルギー紡糸などの幾つもの紡糸方法が巧みに組みあわさり、フィブロイン分子を精密に自動制御配向させながらシルクを作っている。これは合成繊維が数種の方法で、高いエネルギーを用いるのに反し、生物は非常に合理的な、巧妙な方法で、タンパク質をうまく制御しながらエネルギーの消費の少ない方法で糸を作っている。生物の紡糸工場の低エネルギー技術を工業的に取り入れた新たな超合成繊維を作る基礎資料となる。さらに、カイコが糸を形成する際、TCAサイクルを用い、大気中の二酸化炭素を糸の中のアミノ酸、グリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸に取り込むことを、世界で初めて明らかにした。
著者
黒木 泰則 都竹 亜紀子 田中 稔 大江 伸司 石井 真由子 菊池 匡芳
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.99-103, 2014-01-25 (Released:2015-02-26)
参考文献数
5

The prothrombin time (PT) is used for detecting abnormalities in the extrinsic pathway of blood coagulation and monitoring the effects of warfarin administration. A new PT dry reagent has been developed in Japan with an International Sensitivity Index (ISI) of approximately 1.0 by the COAG 2 N System (supplied by Wako Pure Chemical Industries Ltd). In this study, we investigated the basic performance of the new reagent using the COAG 2 N System. The new reagent showed good reproducibility, especially when citrated plasma or whole blood was used as a sample, yielding interference results similar to those of bilirubin-F, bilirubin-C, hemolytic hemoglobin, and intralipid. It provided a level of performance that would satisfy the needs of users. Using specimens of patients who were prescribed a warfarin agent, good correlations were obtained in comparison to current reagents with an ISI of approximately 1.0. These findings suggest that this new PT dry reagent may be useful in testing routine coagulation and monitoring the effects of warfarin administration.
著者
田中 孝平 田中 稔 竹垣 淳也 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0361, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】心不全,慢性閉塞性肺疾患,腎臓病等の慢性疾患では,呼吸循環器系の機能低下に伴い身体活動量が減少し,骨格筋の代謝機能の低下が生じる。さらに,疾患の重症化により炎症性サイトカインの血中濃度が上昇し,代謝異常症候群である悪液質を呈する。悪液質では,身体活動量の低下だけでなく炎症性サイトカインの増加が骨格筋の代謝機能を低下させる主要な原因となる。炎症性サイトカインはミトコンドリア新生やTCA回路における酵素活性を抑制し,骨格筋の有酸素性代謝能力を低下させることが知られている。一方,治療的電気刺激(TES)は積極的な運動療法が困難な場合に筋活動を代償するための代替手段として注目されており,骨格筋の代謝機能を改善する効果が多く報告されている。骨格筋の有酸素性代謝能力の維持は,効率的なATP産生により運動耐容能を維持する効果が期待できるが,これまで悪液質状態の骨格筋に対するTESの効果は検討されていない。そこで,本研究では悪液質モデルマウスを用いて,炎症性サイトカインによるミトコンドリア機能障害に対するTESの効果を検討することを目的とした。【方法】5週齢の雄性ICRマウス(n=15)を使用し,対照群(Cont群),リポポリサッカリド(LPS)投与により悪液質を惹起した群(LPS群),LPS投与期間中にTESを行った群(LPS+TES群)の3群を設けた。LSPは1日あたり10μg/gを腹腔内に投与した。TESは前脛骨筋に対して超最大収縮の刺激強度にて実施した。刺激波形には2500Hzの中周波を100Hzに変調した変調波を使用し,1秒間の刺激を2秒毎に20回行い,5分間の休憩を設けて6セット行うセッションを1日2セッション行った(Kim, 2007)。介入期間は4日間とし,介入期間終了後に前脛骨筋を摘出し,体重,筋湿重量を計測した。悪液質の指標として血液サンプルを採取し,血清中の腫瘍壊死因子(TNF-α)産生量をELISA法にて測定した。また,ミトコンドリア機能の指標としてコハク酸脱水素酵素(SDH)活性をSDH染色より計測し,クエン酸合成酵素(CS)活性をSrere法にて測定した。ミトコンドリア新生因子であるPGC-1α発現量,炎症性サイトカインからのシグナルを受けるp38のリン酸化蛋白及び総蛋白発現量をWestern blot法にて測定した。得られた結果の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を使用し,有意水準は5%とした。【結果】LPS群及びLPS+TES群の体重はCont群と比較して低値を示した。また,LPS群及びLPS+TES群の筋湿重量はCont群と比較して低値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して高値を示した。TNF-αはCont群では検出されなかったが,LPS群及びLPS+TES群では発現が認められ,2群間で発現量に有意差は認められなかった。また,LPS群のSDH及びCS活性はCont群と比較して低値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して高値を示した。さらに,LPS群及びLPS+TES群のPGC-1α発現量はCont群と比較して低値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して高値を示した。また,LPS群のp38のリン酸化割合(リン酸化p38/総p38)はCont群と比較して高値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して低値を示した。【考察】LPS投与による悪液質では,TCA回路の律速酵素であるSDH活性やCS活性の低下が認められた。SDH活性やCS活性等のミトコンドリア酵素活性はミトコンドリア数と密接に関係すると報告されており,本研究ではLPS投与によりミトコンドリア新生に重要な蛋白であるPGC-1α発現量の減少が認められた。また,LPS投与によりTNF-α発現量やp38リン酸化割合が増加した。悪液質において産生が亢進するTNF-α等の炎症性サイトカインは,p38のリン酸化を促進し,PGC-1αの発現を抑制すると報告されている。本研究では,TNF-αによってリン酸化したp38がPGC-1αの発現を抑制し,ミトコンドリア新生が抑制され,ミトコンドリア数が減少し,TCA回路の機能低下が惹起されたと考えられる。一方,TESによる介入はp38のリン酸化を抑制すると報告されている。本研究では,TESによって炎症性サイトカインによるp38のリン酸化を介したPGC-1α発現量の減少を抑制した。PGC-1α発現量の維持によりミトコンドリア新生が促進され,一定のミトコンドリア数が保たれた為,ミトコンドリア酵素活性が維持されたと考えられる。本研究の結果より,TESは悪液質におけるTCA回路の機能低下を予防する介入方法として有効であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】活動量の低下をもたらす背景となる慢性疾患特有の病態である悪液質に対する治療的電気刺激の有効性を示した点で理学療法研究として意義を持つと考える。