著者
力武 正浩 小島 博己 山本 和央 田中 康広 森山 寛
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.125-130, 2013 (Released:2015-04-16)
参考文献数
9
被引用文献数
8

画像診断の進歩により高分解能側頭骨CTにおいて耳硬化症病変の有無や進展範囲を評価することが可能となりつつあるが、耳硬化症症例における術前CT所見と術後成績について検討した。側頭骨CTを施行し耳硬化症と診断され、初回アブミ骨手術を行った67人81耳を対象とした。術前CTにて卵円窓前方および蝸牛周囲の脱灰の有無を判断した。術後成績はAAO-HNSの基準案に準じ術後気骨導差が10dB以下に収まるものを成功とした。CTにてfenestral typeと診断されたものが59.3%、蝸牛にも脱灰像を認めたretrofenestral typeと診断されたものが9.9%、所見なし30.9%であった。卵円窓の狭小化例が9.9%あり、アブミ骨底板の肥厚例が22.2%であった。全症例における手術成績は79.0%であった。CT上、卵円窓の狭小化が認められた例の成功率は42.9%、アブミ骨底板の肥厚が認められた例では66.7%であった。病態が進行したと考えられる卵円窓狭小化、アブミ骨底板肥厚が認められた症例では手術成功率が低かった。
著者
海邊 昭子 穴澤 卯太郎 結束 寿 高石 慎也 蓮 琢也 増田 文子 吉村 剛 飯野 孝 田中 康広
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.10, pp.1220-1225, 2015-10-20 (Released:2015-11-07)
参考文献数
16
被引用文献数
7

2011年5月から2014年3月までの間に当科で入院加療となった扁桃周囲膿瘍患者115症例を対象に年齢, 性別, 患側, 入院期間, 排膿方法, 喫煙歴, 糖尿病の既往, 抗菌薬, 検出菌の9項目について検討を行った. 性別の内訳は男性98例 (再発症例5例含む), 女性17例と男性が85%を占め, 年齢平均は36歳であった. 最も多い世代は30歳代男性で, 全体の27.8%を占めた. 入院期間の中央値は7日であり, 患側は右が52%, 左が44%, 両側例が4%であった. 排膿方法は, 切開が63%, 穿刺のみが37%であった. 喫煙歴は51%で認められ, 糖尿病の既往歴は3.5%に認めた. 抗菌薬は主に ABPC/SBT 単剤を使用している例が多く, 75%を占めた. 検出菌では, 嫌気性菌が検出された症例が63%を占め, そのうち87%が好気性菌との混合感染であった. 好気性菌では α 溶連菌, 嫌気性菌では Prevotella 属が最も多かった. 年齢, 喫煙歴の有無, 切開排膿, 抗菌薬の違い (ABPC/SBT 単剤と複数薬使用) により入院期間を比較検討したところ, 年齢のみ有意差を認め, 65歳未満と65歳以上の群では65歳以上の方が有意に入院期間は長くなる結果を得た. よって高齢者は重症化予防のために慎重な治療介入が必要である. また, 抗菌薬選択には ABPC/SBT の使用により好気性菌と嫌気性菌, 耐性菌を幅広くカバーし, 単剤で十分な効果が期待できる.
著者
田中 康広
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-7, 2012 (Released:2012-03-29)
参考文献数
47

近年,樹状細胞を用いた悪性腫瘍に対する免疫療法は特に注目を集めており,腫瘍抗原特異的な抗腫瘍効果の誘導を目指した臨床試験が世界各国のさまざまな施設で行われてきた。樹状細胞は生体内において最も強力な抗原提示細胞であり,T細胞を中心とした免疫担当細胞を調節し,腫瘍特異的な免疫反応を誘導するうえで重要な存在だと言える。この樹状細胞を用いた免疫療法は1996年に悪性リンパ腫に対して初めて臨床試験が行われ,2010年4月にはホルモン療法抵抗性の転移性前立腺がんに対する樹状細胞療法(sipuleucel-T)の製造販売が初めてFDAにより認可された。これまでのところ樹状細胞を用いた抗腫瘍免疫療法は腫瘍抗原が明らかとなっているペプチドのパルス療法が主体となっており,その他腫瘍抗原自体やその溶解成分,またはRNAをトランスフェクトする方法なども行われてきた。これらの方法は腫瘍抗原の同定が必要であるが,腫瘍抗原が未だ同定されていないものも多く存在する。このような腫瘍に対しては腫瘍細胞と樹状細胞をポリエチレングリコールにて処理した融合細胞によるワクチンが有効と考えられる。本稿では現在までに筆者らが行ってきた樹状細胞と腫瘍細胞からなる融合細胞を用いた免疫療法とその抗腫瘍免疫の機序について概説し,頭頸部腫瘍に対する免疫療法の現状についても言及したい。
著者
山本 和央 小島 博己 田中 康広 常喜 達裕 池内 聡
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.294-299, 2009 (Released:2010-10-15)
参考文献数
10
被引用文献数
1

中耳真珠腫術後に発生し経乳突法と経中頭蓋窩法を併用した術式により部分切除, 摘出, 骨欠損部を整復し得た側頭骨内髄膜脳瘤の1例を経験した。症例は40歳の男性。弛緩部型中耳真珠腫の診断で, canal wall up tympanoplastyにてstaged operation (段階手術) を施行した。初回手術所見にて中頭蓋窩硬膜の広範囲な露出を認め, 真珠腫上皮と硬膜との癒着が著明であった。段階手術2回目の手術の際に硬膜を一部損傷したため, 筋膜で補修した。骨欠損部に対しては皮質骨で乳突腔側より補強し乳突腔は骨パテで充填した。1年後に外耳道後壁に拍動を伴う腫脹とdebrisを認めるようになり, CT, MRI所見より髄膜脳瘤及び真珠腫再発と診断した。まず経中頭蓋窩法により頭蓋底骨欠損部から逸脱した脳髄膜瘤を一部正常硬膜を含め切断した。硬膜の欠損部は筋膜にて形成し, 骨欠損部を骨片にて再建した。次に経乳突法により髄膜脳瘤と癒着した真珠腫上皮を摘出した。耳介軟骨にて外耳道後壁を再建し, 乳突腔側からも中頭蓋窩の骨欠損部を骨片で再建し, 乳突腔は骨パテで充填した。現在術後12ヵ月経過しているが, 再発を認めていない。本疾患は髄膜炎や脳膿瘍などの重大な合併症を引き起こすことがあり, 的確な診断と治療が必要である。