著者
白 迎玖
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.212, 2006 (Released:2006-05-18)

1.はじめに 近年、先進国のみならず、途上国においても、都市ヒートアイランド現象(以下 UHIと略記)が顕著になり、都市の熱環境が悪化している。特に、中国・上海をはじめとする途上国の大都市では、産業や人口等の一極集中化に伴い、人口密度が過度に高くなっているため、UHI現象が頻繁に発生し、さらに夏期の日中の最高気温が40℃を超える日も出現している。先進諸国が経験した経済成長と環境悪化の関係に照らせば、今後も急速な経済成長が見込まれている東アジア地域において、UHI現象による環境・社会問題は一層顕在化することが予想される。最近、上海においては改革開放経済のもとでの急激な開発に伴う高温域が都市中心部から黄浦江の東側に拡大していることが指摘された。しかし、自動気象ステーションの設置点数と観測範囲が限られているために、都市全体における高温域の分布を詳細に把握したとは言い難い。また、衛星データを用いた上海におけるUHIに関する研究も行われているが、地表面温度と気温との関連が明確にされておらず、UHIの分布とその変化を必ずしも十分に解明できなかった。そこで、発展の著しい上海におけるUHI実態を把握するために、UHIの時間的・空間的の変動を正確に捉えることが重要であり、特に測器の設置場所、設置点数および観測時刻を十分検討した上で、都市全体を高密度で覆う精度の高い観測網を設置する必要がある。本研究は、日本で蓄積された研究成果を有効利用し、途上国の実情に鑑み、観測およびシステム保守のコストを抑えながら、中国・上海において高密度自動観測システムを初めて構築し、長期間にわたって気象観測を実施して得られたデータに基づいて、上海におけるUHIの実態を解明することを目的としている。また、本研究で構築された観測システムおよび研究手法は、中国におけるUHIの研究だけなく、途上国における都市気候研究の発展にも貢献することが期待される。2.観測概要本研究では、2005年4月から上海市をカバーする39箇所で気温と湿度の自動観測が実施されている。図1に示すように、公園緑地・公用緑地で百葉箱(箱内の小型自動記録式温度・湿度ロガー)が設置され、直射日光を受けずに自然通風状態で測定を行うことができた。観測点の選定にあたっては、なるべく地点の配置に偏りがないように努力し、さらに、設置場所の環境が等しくなるように配慮した。また、UHIの中心部に相当する都市中心部には高密度に配置した。百葉箱はすべて公園緑地と住宅地内の公用緑地に設置されており、センサーの高さは地上約1.6mとした。10分間隔で記録したデータを約50日ごとに回収すると同時に、得られた観測記録のデータベース化を進めてきた。3.観測結果2005年の観測によると、月平均気温が上昇していることが確認された。2005年6月1日から8月31日までの真夏日日数(日最高気温>30℃)は、都市の中心部は73日、郊外は68日となった。また、熱帯夜日数(日最低気温>25℃)は、都市の中心部は45日、郊外は37日となった。また、2005年7月の最高気温は39.8℃(南園公園)となり、都市中心部には日最高気温35℃を超える日数は17日であった。日最低気温の最大値は31.0℃(南園公園)であり、熱帯夜日数は、都市中心部は26日、郊外は19日であった。風の弱い晴天夜間にUHIがはっきり存在し、春季の場合、UHIも発生している。2005年7月のUHI強度の最大値(月平均値)は4.3℃で(図2)、8月のUHI強度の最大値(月平均値)は3.4℃であった。また、図2に示すように、UHI強度は日没後急速に増加し、その後は同じような状態が日の出頃まで続くことが明らかになった。UHIのピーク値は、22時_から_午前1時までに現れた。特に、観測点の環境によって、UHIのピーク値とピーク値の出現時間が異なったことから、公園緑地の暑熱緩和効果が明確にされた。図2に見えるように、7月の場合、住宅地内の公用緑地より公園緑地のUHI強度の最大値が約1.3℃低かった。
著者
白 迎玖 三上 岳彦
出版者
東北公益文科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、日本で蓄積された研究成果を有効利用し、途上国の実情に鑑み、観測およびシステム保守のコストを抑えながら、中国・上海において高密度自動観測システムを初めて構築し、長期間にわたって37箇所で気象観測を実施して得られたデータに基づいて、上海におけるUHI(Urban Heat Island)の実態を解明することを目的としている。観測によると、上海の月平均気温が上昇し、特に2005年の最高気温38℃を超える日数が10日以上、最高気温の最大値は39.8℃であり、世界的に見ても異常な高温化が顕著化していることが確認された。また、季節別の気温上昇については、春季(3-5月)と夏季(6-8月)の気温の上昇率が大きかった。1985-2005年の20年間に上海の気温上昇は、春季の気温の上昇が約2.53℃/20年でもっとも大きく、冬季(12月〜3月)の気温上昇は1.43℃/20年でもっとも小さかった。上海では風の弱い晴天夜間にUHIが年間を通してはっきり存在している。7月のUHI強度の最大値(月平均値)は4.3℃で、8月の場合には3.4℃であった。UHI強度は日没後急速に増加し、その後は同じような状態が日の出頃まで続くことが明らかになった。また、UHI強度の時間変化と風向とは密接な関連があり、各地域のUHI強度のピーク値の出現は風速と関連があることも確認された。さらに、UHI強度のピーク値は、20-22時と0-3時に現れると同時に、公園緑地のUHI緩和効果も同一時間帯に最大になることが判明した。7月には、夜間は市中心部にある公園緑地のUHI強度の最大値は旧密集型住宅地よりも約1.3℃低かった。8月には、夜間は市中心部にある旧密集型住宅地のUHI強度の最大値の方が約1.4℃高かった。
著者
一ノ瀬 俊明 白 迎玖 泉 岳樹 三上 岳彦
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

2006年まで4年間の8月中旬に、復元河道近傍および河道より100m以内の5地点で、集中的な移動・定点観測による体感温熱指標SET^*の観測(温・湿度、風速、天空放射、地物表面温度)を行った。また、サーモカメラによる地物表面温度の観測、シンチロメーターによる上向き顕熱フラックスの観測、ソウル市政府が観測している大気汚染物質濃度の時系列解析などを行ってきた。CFDモデルによる数値シミュレーションからは、復元河道上を吹走する冷気が渦を巻きながら、河道に直交する街路へ南北同時に侵入する様子が計算された。2006年夏季に超音波風向・風速計などによる集中気象観測を行った結果では、河道上および河道南側80m付近で清渓川に沿った西風(海風)の強・弱に対応して、気温の下降・上昇が見られ、河川から周辺地域への冷却効果のプロセスが実証された。そこで2007年夏季の集中気象観測では、冷気の川面から周辺市街地へ輸送されるプロセスに関して、その発生源である河道内の気象学的なメカニズムを検証することを目的として、河川真中と南北川岸において、ポールを立て、鉛直(高さ別)に気温や湿度の測定を行った。清渓川の河川水による冷却効果については、川面に近い高度ほど気温が低く、水蒸気密度(絶対湿度)が大きい傾向が見られた。また、南側の鉛直分布に関しては、北側より相対的に気温が低い傾向が見られた。また地表面に近いほど気温が低くなっている傾向が見られた。一方、北側では日中地表面に近いほど気温が高くなっているのがしばしば観測されている。それらの要因としては南側沿道の地表面には植物が繁茂しているのに対し、北側の地表面はコンクリート面がむき出しになっていることが考えられる。以上の結果から南側河岸の方に冷気層が形成されている可能性が示唆された。