- 著者
-
眞溪 歩
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1999
近年,脳機能を解明するための研究が盛んになってきており,その一例に脳神経活動の副産物として発生する磁界を多点で計測する脳磁界計測(以下,MEG,Magnetoencephalography)がある.MEGの目的のひとつは,逆問題を解き,脳神経活動を時間空間的に同定することである.この逆問題は不良設定問題であり,従来から行われている最適化による解法や,近年登場した統計的処理による解法では,それぞれ局所解に陥る,部分解能が悪いなどの問題を抱える.このような状況下で,本研究では2種類の手法を提案し,評価を行った.主な実績は,それぞれ下記のとおりである.1)ビームフォーミングによって,できるだけ高分解能に,空間的に離散化した脳内の各点の電気的活動を推定する.この段階での分解能は高くないが,各点の活動は時系列データとして得られるため,時系列間の相関をもとにクラスタリングを行い,同期して活動を行った部位ごとに表示することにする.聴覚野と運動野が時間帯をオーバーラップさせ活動するMEGデータに対し本手法を適用し,従来法では不可能であったそれぞれの活動の分離に成功した.2)必ずしも脳内の活動源推定に還元することなく,データどおしを比較し,その類似性を評価する手法としてバーチャルビームフォーミングを提案する.これは,脳内の具体的部位ではなく,特定のMEG活動のような抽象的なものをターゲットするビームフォーミングである.バーチャルビームフォーミングは,心理評価などの意識の介在する評価と異なり,MEGデータのみから脳内処理の類似性などを定量評価できる.音像定位関連MEGに対し,本手法を適用し,音源の移動幅が大きくなるにつれ,音源の出現・消失の反応と近くなることが確認された.