著者
宮永 豊 向井 直樹 白木 仁 下條 仁士 石井 良昌
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

スポーツ選手に多発する軟部組織損傷の治癒促進を目的に高気圧酸素療法(HBO療法)の有用性を検討した。一連の実験的、臨床的研究により次の結果を得た。1.実験的筋断裂の修復:HBOの投与は筋線維の連続性の回復の促進とhydroxyprolineの代謝を亢進させたことから、コラーゲンの代謝の亢進が示唆される。2.実験的靭帯断裂の修復:HBOは組織学的に治癒の促進と線維芽細胞数の有意な増加(断裂3〜14日後)を招き、分子生物学的にはpro-α_1(I)mRNAの合成量の有意な増加が断裂7〜14日後に認められた。コラーゲン代謝に有利に作用していると思われる。3.設定条件の違いによる実験的靭帯断裂の修復:組織学的な治癒と線維芽細胞数の増加はHBO群の方が、また高気圧、長時間ほど有効であった。pro-α_1(I)mRNAの発現量は1.5〜2ATA(30〜60分間)のいずれの範囲でも増大していた。4.スポーツ選手の傷害やコンディショニングへの臨床的有用性:軟部組織損傷を生じたスポーツ選手22名に対し1.3〜2絶対気圧(ATA)、暴露時間30〜90分、平均3.6回投与したところ、17例、77%に改善がみられた。急性期における投与の方が軽快する傾向を認めた。軽度の耳痛5例以外は副作用はなかった。長野冬季オリンピックの代表選手7名のコンディショニング調整や試合後の筋肉疲労回復を目的とした。オリンピック期間中1.3ATA、30〜40分、平均2回の投与で全例に改善効果や良好なコンディショニング効果が得られた上に、高い競技能力を発揮させることができた。5.血清乳酸の除去:男子6名に疲労困憊にいたるまでの自転車駆動後の乳酸値の除去が1.3ATA、2ATA条件下で促進された。しかも1.3ATAの方がより有効であった。6.安全性の検討:自覚的には「体が楽になった」、「気分よく寝てしまった」、「投与後にリラックスした」など多くは肯定的な感想であったが、副作用として軽度な耳痛、頭痛がみられた。最近のフリーラジカル分析システムによる活性酸素の測定では投与前平均210.6、投与後201.2といずれも正常範囲であった。7.その他:トレーニング効果なども期待されるが、今後の検討課題とする。以上より高気圧酸素療法(2ATA以下)は傷害治癒促進に有用性が高いことが実証された。