- 著者
-
石原 淳子
津金 昌一郎
- 出版者
- 国立保健医療科学院
- 雑誌
- 保健医療科学 (ISSN:13476459)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, no.6, pp.590-602, 2017-12-01 (Released:2018-02-20)
- 参考文献数
- 36
がんの発生には栄養・食生活などの生活習慣が深くかかわっている.本稿では,国内外で明らかとなってきている,がんのリスク要因となる栄養・食生活習慣のエビデンスの現状について紹介し,ライフコースを見据えたがん予防・対策における課題と今後の方向性について考察した.国立がん研究センターが提示する「日本人のためのがん予防法」の推奨項目は,科学的根拠に基づく日本人のがんリスクを総合的に評価し,提言された指針をもとに作成されている.評価の時点で発表されている論文の系統的レビューを行い,科学的な根拠としての信頼性の強さと,要因とがんの関連の強さを判定基準に沿って総合評価する方法で行われている.評価された項目のうち,「飲酒」「塩分・塩蔵食品」「野菜・果物」「身体活動」「体形」などの食と栄養に関わる項目は,予防可能なリスク要因のうち,日本人におけるがんの人口寄与割合が喫煙,感染の項目に次いで高いことが明らかになっている.また,国際的な動向として,世界がん研究基金と米国がん研究協会の「食物・栄養・身体活動とがん予防・継続的評価(Continuous Updating Project)」による評価がある.全粒の穀類・食物繊維,乳製品・カルシウム,赤肉・加工肉,コーヒー,体格,体脂肪(ライフコースにおける変化含む),βカロテンサプリメント,グリセミック負荷など,日本人を対象とした評価では関連が弱い,またはデータが不十分な項目についても評価されている.がんのリスク要因に関する知見のまとめと公表を目指したこのようなトランスレーショナル・リサーチは,疾病予防のための課題解決に向けて,優先順位をつけるため国内外で行われている.ライフコースを見据えたがん予防においては,①栄養・食生活について科学的に明らかながんリスク要因の具体的効果的改善方法に関する研究推進および実践,そして②若い世代が将来,がんを発症する世代になるまでの間の,食生活変化を踏まえた動向の注視,特に国際的に課題とされている要因についてのモニタリング,の二点が重要である.がんは生活習慣が長い年月蓄積して発生する疾患であるため,ライフコースを見据えた対策は特に重要である.生活習慣が確立されるライフコース前半に,身に着けるべき望ましい栄養・食生活の習慣を国民に広く伝えていくと同時に,将来,リスク要因となりうる,ハザードに関して国際的な研究結果に注意を払い,先手の対策を考えることも重要である.