著者
石川 慶一郎
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.31-54, 2021 (Released:2021-04-13)
参考文献数
42
被引用文献数
4

本稿は東京都中央区の民間賃貸住宅居住者の住民特性と移動歴を明らかにした。中央区の民間賃貸マンション居住の単身者を対象とした質問紙調査では,分析対象者の76.4%が未婚者,16.4%が有配偶者であり,両者の9割以上がホワイトカラー従事者であることが明らかとなった。分析対象者の半数以上を占める25~39歳の未婚者の移動歴をみると,出身地によって異なる傾向が示された。東京圏出身者は学卒後に東京圏郊外や都区部から中央区に転入する傾向があった。一方,非東京圏出身者は,就職を機に一度都区部や東京圏郊外に着地した後で中央区に住み替えるか,転勤や転職を機に非東京圏から中央区に転入する傾向があった。このように未婚者の住居移動の経路は複数に分岐しているが,いずれの場合であっても,彼らの中央区への来住は主として職住近接を志向した自発的移動の結果とみなせる。移動歴について1960~1980年代の郊外化時代の多産少死世代と現在の団塊ジュニア以降の世代を比較すると,後者の移動歴には,未婚者の都心3区への内向移動と未婚者が都心に転入する時の年齢の上昇が生じている。本稿は1990年代後半以降の東京都心3区における人口回復の背景として,団塊ジュニア以降の世代の住居移動に効果を及ぼす未婚期の長期化という家族形成規範の変化とバブル経済崩壊という時代背景を指摘した。
著者
石川 慶一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.4, pp.203-223, 2019 (Released:2022-09-28)
参考文献数
45
被引用文献数
6

本稿は,東京都区部のシェアハウスの立地特性および台東区を事例としたシングル女性のシェアハウス居住の実態を明らかにした.分析結果から,シェアハウスの多くは,都心周辺部の鉄道駅付近に立地し,単身者向け賃貸住宅と比較して居住性が高いことが示された.それらは,ファミリー世帯の需要が低い商業地区に立地する住宅が転用されたものである.台東区の女性シェアハウス居住者は,低所得層の者が多い.彼女たちにとってのシェアハウスの優位性は,家賃が低いにもかかわらず,交通利便性の高い場所に住むことができ,台所や浴室といった住宅設備を快適に利用できることだった.一方,シェアハウス運営事業者はその管理物件にシングル女性のニーズを反映させていた.近年のシェアハウスの増加の背景には,都心周辺部での余剰住宅ストックの増加と,職住近接や生活の質の向上を指向するシングル女性のライフスタイルの存在があると考えられる.