著者
菱本 明豊 石黒 浩毅
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.97-104, 2010 (Released:2017-02-16)
参考文献数
22

最新の分子遺伝学的研究手法,特にゲノムワイド SNP アレイ(genome-wide human SNP array),アレイ CGH(comparative genomic hybridization),ハイスループットシークエンスなどの手法によって神経シナプスを構築する分子,神経細胞接着因子(neural cell adhesion molecule)の遺伝子変異が様々な精神疾患の病態生理に関わっていることがわかってきた。なかでもニューレキシン(NRXN)・ニューロリギン(NLGN)遺伝子は自閉症,統合失調症,薬物依存症の感受性遺伝子として同定されてきている。また薬物依存には NrCAM 遺伝子がかかわっていることがわかってきた。この項では最近の精神疾患における神経細胞接着因子研究と我々の研究を紹介する。
著者
石黒 浩毅
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.129-132, 2022 (Released:2022-09-25)
参考文献数
13

精神疾患のゲノム解明が進むことにより,疾患への偏見回避や治療・予防法の革新が期待できる。一方でゲノム情報は個人やその血縁者などに発症の不安を与える可能性もあり,その取り扱いには精神科医療ならびに精神保健や支援が望まれる。遺伝子・染色体疾患患者の精神症状に対する小児期医療から成人期医療へのトランジション問題とコモンディジーズである精神疾患の遺伝相談について,精神科医に求められるリテラシーを概説する。
著者
有波 忠雄 石黒 浩毅
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

統合失調症の発症には多くの遺伝子が関与しており、それらの遺伝子を同定するのに有用なゲノムワイド関連解析を実施し、検出された関連遺伝子の中からとくに治療面において重要な遺伝子を同定することを目的として、ヒトの脳、遺伝子改変マウス、細胞実験、パスウエイ解析を行った。その結果、SMARCA2遺伝子が統合失調症に関与し、かつ、多くの遺伝子に影響を与え、統合失調症の発症に関わっていることが証明された。そのなかでもHOMER1遺伝子は部分的なSMARCA2遺伝子の発現低下でも選択的スプライシングが変化してグルタミン酸神経伝達体の機能不全に関わることが示され、SMARCA2遺伝子型が個別化医療に有用な情報であることが示唆された。
著者
石黒 浩毅 有波 忠雄
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

神経細胞接着因子遺伝子NrCAMの低発現が依存形成阻害の表現型を示すこと、NrCAM遺伝子発現変化に伴いグルタミン代謝酵素GLS遺伝子の発現が変化することが申請者の先行研究から明らかとなっている。薬物依存症に関連が報告されている新奇求性(novelty seeking)および不安(harm avoidance)という性格行動にNrCAMならびにGLSがどのように関与しているかについて、前者は新奇オブジェクトや初見マウスに対する探索行動、後者はゼロ迷路における行動で評価を行った。Nrcamノックアウトマウスは新奇オブジェクトとマウスともに探索行動が野生型に比して少なかった。ノックアウトマウスはゼロ迷路における不安行動が野生型に比して少なかった。モデルマウスに認められた行動はヒト依存症患者に認められる性格傾向を説明できるものであり、NrCAMはおそらく依存獲得に密接に関係する性格行動特性を介して薬物依存症の易罹患性に関与することを示唆するものである。さらに、近交系C57B6マウスにGLS阻害剤を投与したところ上記の新奇求性および不安においてNrCAMマウスと同様の行動特性や、モルヒネ・コカイン・覚せい剤に対する報酬効果・活動性亢進効果の阻害が認められた。本研究にて神経接着因子に関わる神経ネットワークの一端ならびにこのネットワークが制御する依存症の表現型を解明することができた。
著者
石黒 浩毅
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は神経細胞接着因子NrCAM低発現が依存易形成性にnegativeに働くというヒト死後脳や遺伝子改変マウスの先行研究成果を発展させたものであり、依存形成の阻害に働く分子ネットの一部を明らかにすることにより病態解明と治療法の確立等に寄与することを目的とした。まずはNrCAM以外の神経i接着因子についても遣伝子多型と依存症との関連が示され、これら神経ネットワーキングに関わる分子が依存形成に重要な役割を果たすことがわかった。さらに、ニューロン由来およびグリア由来の培養細胞におけるNrCAM遺伝子に対してsiRNAを用いて発現抑制を行うこと、ならびにNrcamノックアウトマウスの脳の遺伝子発現解析を行うことにより、NrCAMが影響を与える分子群の遺伝子発現を網羅的に検討した。ヒト死後脳を用いたNrCAM遺伝子多型が及ぼす遺伝子発現変化の割合は約50%であると定量できたので、50%程度の遺伝子発現抑制効果を得たsiRNA実験系組織ならびにheterozygoteノックアウトマウス脳を解析した。それぞれの組織に対するイルミナビーズァレイ解析装置による網羅的遺伝子発現解析では、主にグルタミン酸系やGABA系、その他の神経系の分子をコードする遺伝子の発現変化が認められた。その内、培養細胞系およびノックアウトマウス脳において共に遺伝子発現変化が確認されたグルタミン酸系酵素分子は、その阻害剤がモルヒネをはじめとする依存性薬物への形成阻害を起こすことから、治療薬としての可能性を示唆するもめと考えられた。