著者
菱本 明豊
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.39-46, 2010 (Released:2017-02-15)
参考文献数
36

アルコール依存とアルコール関連問題は医学・医療上の課題と社会・経済的課題とが複雑に絡み合い,きわめて広範囲・多岐にわたる分野からの解明,解決が急がれている。この項ではアルコール依存の生物学について概説した。アルコール依存の生物学的基盤はドパミンが介在する報酬系システムとグルタミン酸神経伝達系が介在する脳の可塑性, 記憶,学習の機構との相互作用が重要であると考えられている。
著者
菱本 明豊 石黒 浩毅
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.97-104, 2010 (Released:2017-02-16)
参考文献数
22

最新の分子遺伝学的研究手法,特にゲノムワイド SNP アレイ(genome-wide human SNP array),アレイ CGH(comparative genomic hybridization),ハイスループットシークエンスなどの手法によって神経シナプスを構築する分子,神経細胞接着因子(neural cell adhesion molecule)の遺伝子変異が様々な精神疾患の病態生理に関わっていることがわかってきた。なかでもニューレキシン(NRXN)・ニューロリギン(NLGN)遺伝子は自閉症,統合失調症,薬物依存症の感受性遺伝子として同定されてきている。また薬物依存には NrCAM 遺伝子がかかわっていることがわかってきた。この項では最近の精神疾患における神経細胞接着因子研究と我々の研究を紹介する。
著者
大塚 郁夫 菱本 明豊
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.134-140, 2020 (Released:2020-09-25)
参考文献数
26

双生児研究などから,自殺には生来の遺伝負因が存在すると考えられている。自殺行動の致死性が高いほど遺伝負因も強くなることが示唆されており,自殺の生物学的機序の解明には自殺完遂者を対象とした研究が非常に重要である。しかしながらその試料は入手自体が困難なため,相応のサンプル数を要するゲノムワイド関連解析(genome‐wide association study:GWAS)などの報告は他の精神科領域に比して大きく遅れている。筆者らは遺族の深いご理解の下,世界最大規模の自殺完遂者DNA試料を保有し,日本人自殺完遂者を対象としたGWASを初めて遂行するなど,「日本人の自殺」に関する興味深い遺伝学的知見を得てきた。それらを中心に自殺の遺伝学的研究の現況を紹介する。
著者
菱本 明豊
出版者
横浜市立大学医学会
雑誌
横浜医学 = YOKOHAMA MEDICAL JOURNAL (ISSN:03727726)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.83-87, 2021-04-30

本邦における10~54歳の死因上位を自殺が占める.今般のCOVID19パンデミックの影響による経済状況の悪化・社会的孤立・心理的ストレス等が引き金となり,自殺率のさらなる悪化が強く懸念される.個人が自殺に至る背景は失業・貧困・病苦・いじめなど様々であるが,家族・双生児・養子研究から自殺には生来の遺伝負因が存在するといわれてきた.我々は遺族の深いご理解の下,世界最大規模 1 ,250例超の自殺者血液試料を保有し,精力的に自殺の遺伝学的研究に取り組んできた.最近,日本人自殺者746名(vs対照者としてバイオバンクジャパン14,049名)のゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い,これまで疫学レベルでしか示されてこなかった「自殺の遺伝負因」のエビデンスをGCTA解析やポリジェニックリスクスコア(PRS)解析等により世界で初めて実験科学的に証明した.同研究で日本人自殺について,遺伝負因が強い統合失調症や双極性障害に匹敵する約40%という一塩基多型由来遺伝率を検出した.さらにGWASデータから算出できる個人ごとの自殺PRSが,個人の自殺リスクを予測できる可能性を見出した.今後,自殺GWASのサンプルサイズが向上していくことで,強いストレス下の自殺リスクに寄与する遺伝子領域の同定や,PRS算出による確度の高い自殺リスク判定が可能となることが強く示唆される.
著者
菱本 明豊
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

現在、日本国内で社会問題となっている自殺行動の生物学的機序を解明し、自殺予防のための治療モデルを開発する為に、我々はストレス反応を主に制御するHPA axis(視床下部-下垂体-副腎皮質系)関連遺伝子に着目し自殺との関連解析を行った。我々はFKBP5遺伝子の特定のハプロタイプと自殺に有意な相関を認め、自殺行動には遺伝的脆弱性が関与していることを明らかにした。さらにALDH2、NOS1遺伝子と自殺、NOS1遺伝子と統合失調症との有意な相関を認めた。これらの知見より自殺行動のバイオマーカーとしていくつかの遺伝子変異が利用できる可能性があることを示した。