著者
福井 敏樹 山内 一裕 松村 周治 丸山 美江 岡田 紀子 佐々木 良輔
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.578-585, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
21

目的:我々はこれまで種々の生活習慣病関連因子と大血管のスティフネス指標である上腕足首間脈波伝播速度(brachial-ankle pulse wave velocity: baPWV)の関連について報告を続けてきた.喫煙は動脈硬化の危険因子であるが,baPWVに対する喫煙の影響についての縦断解析的な報告はまだほとんどみられない.方法:これまでbaPWVを測定した男性7,251名,女性2,707名のなかで,10年間の喫煙状況の推移を把握し得た非喫煙継続者(非喫煙群)および10年間喫煙継続者(喫煙群)である男性419名,女性38名を抽出した.女性は抽出された喫煙者が非常に少なく,今回は男性のみを対象とした.そして,10年の経過中で禁煙を開始した者,禁煙と喫煙を繰り返していた者は除外し,さらにbaPWVに最も影響を与える血圧の影響を除外するために,10年間の経過のなかでの高血圧治療薬服用者を除外した男性274名を今回の解析対象者とした.結果:解析対象者男性274名のうち非喫煙群は181名,喫煙群93名であった.両群の初年度および10年後の年齢,BMI,血圧,生活習慣病関連因子のなかで,有意差を認めたものはHDLコレステロールと中性脂肪のみであった.10年間のbaPWVの変化量は,非喫煙群128cm/sec,非喫煙群200cm/secと喫煙群の方が有意に大きかった.また初年度,3年後,5年後,7年後,10年後のすべての測定結果がそろっている者による解析では,3年後以降の喫煙群においてbaPWV変化量が有意に大きかった.結論:喫煙による大血管の動脈硬化の進展への影響を,経年的なbaPWV変化量で把握できることが初めて示された.
著者
福井 敏樹 安部 陽一 安田 忠司 吉鷹 寿美江
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.70-76, 2008-06-30 (Released:2012-08-20)
参考文献数
11
被引用文献数
2

目的:血圧脈波検査装置による上腕足首間脈波伝播速度(brachial-anklepulse wave velocity:baPWV)は非侵襲的な動脈硬化検査として定着してきているが,測定の問題点のひとつである血圧の影響を少なくした装置が最近開発され,その有用性を示す結果が増えてきている.今回は2つの脈波伝播速度測定装置の測定結果を比較することを目的とした.方法:対象は当院の人間ドックを受診し,オムロンコーリン社製のform ABI/PWVとフクダ電子社製のVaSeraの両者で測定した471名で,各々の測定値baPWVと心臓足首血管指数(cardio-anklevascular index:CAVI)について比較検討した.結果:血圧の影響はCAVIではbaPWVより減弱したものであったが,統計的には有意であった.動脈硬化の危険因子重積における測定値の増加はbaPWVの方が強い相関を示した.ただし動脈硬化の危険因子である肥満や喫煙の影響については両者ともその相関を示すことはできなかった.メタボリックシンドロームの該当者と非該当者での測定値の比較ではbaPWVは該当者で有意に高値を示したが,CAVIでは有意な差を認めなかった.結論:これらの結果より,baPWVもCAVIも共に血管の動脈壁硬化度を反映すると考えられるが,やはりCAVIにもbaPWVで認められた問題点は存在し,それらを把握した上で使用することが重要である.また,baPWVやCAVI値を動脈硬化の危険因子との関連から考えることの意義についてはさらに検証を必要とすると思われる.
著者
福井 敏樹
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.809-821, 2016 (Released:2016-06-28)
参考文献数
92

我々日本人の死因の1位はがんであるが,動脈硬化性疾患である心および脳血管病変を合わせると,その割合はがんに匹敵する.そのため人間ドック健診や日常診療の最大の目的はがん対策と動脈硬化対策であるといえるが,どのような検査を動脈硬化対策の基本検査として実施するべきかについてはまだ明確になってはいない.2008年に出版された健診判定ガイドライン改訂版では,動脈硬化健診のあり方についての試案を作成した.その際に,最も意図したことは,人間ドック健診の標準検査として動脈硬化検査を定着させていくことであった.エビデンスがある程度確立されていることに加えて,施設間の機器や測定手技の精度の違い,検査にかかる時間や費用なども考慮に入れ,全国の施設で取り入れ可能な検査であることを重視した. 動脈硬化対策において実施するべき検査については,自由診療という枠組みが利用できることも考慮しながら,一方で,任意型健診といえどもその大多数が自治体等の補助や企業・会社等の福利厚生のもとで実施されている現実も含めて考える必要もある. 現在有用であると考えられる検査について,血管機能や形態的変化を調べる検査法を中心に,動脈硬化リスクを評価するバイオマーカー検査もあわせて,最近の動向と我々の施設でのこれまでの検討を含めながら概説する.
著者
福井 敏樹 山内 一裕 丸山 美江 佐藤 真美 高橋 英孝 山門 實
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.29-35, 2012 (Released:2012-10-03)
参考文献数
13

目的:人間ドック健診は,生活習慣病の発症予防と早期治療,がんの早期発見と早期治療を大きな目的としている.しかしながら人間ドック健診と一般健診受診者の医療費について比較検討した報告はこれまでほとんどない.したがって今回我々は,通常の健診を毎年受けている集団(一般健診群)と毎年人間ドックを受け続けている集団(ドック健診群)における医療費の経年変化を比較検討し,毎年人間ドック健診を受け続けていれば,本当に一般健診以上の医療費削減効果があるのかを検討した.方法:対象は四国エリアの40歳代および50歳代のNTTグループ社員.平成15年度から17年度までの3年間連続での一般健診群と3年間連続でのドック健診群における年間医療費を,平成18年度から22年度まで5年間前向きに追跡した.結果:男性については,40歳代および50歳代の一般健診群では経年的に年間医療費が増加する傾向が見られた.5年間の累積医療費の両群の差は,40歳代は,男性約14.3万円,女性約-6.9万円であった.50歳代は,男性約33.0万円,女性約4.0万円であった.男性においては40歳代,50歳代共に両群の差が年々大きくなっていった.結論:50歳代男性では,人間ドック健診と一般健診との費用差額を考慮しても,毎年人間ドック健診を受けることに医療費削減効果があることが示された.