著者
福山 圭 大類 洋 桑原 重文
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2015

<p>【緒言】</p><p> 後天性免疫不全症候群 (AIDS) は世界的に問題となっているHIV(レトロウイルス)感染症である。現在,作用機序の異なる薬剤を併用する多剤併用療法(HAART) が行われており飛躍的な予後の改善が図られている。しかし生涯にわたる多剤併用療法は予期せぬ副作用の発現と多剤耐性ウイルスの出現という新たな問題に直面しており,新薬の創出と供給は創薬化学およびプロセス化学上,喫緊の研究課題である。</p><p> 近年4'-C-置換ヌクレオシドの特異な生物活性に注目が集まっている。4′-ethynyl-2-fluoro-2′-deoxyadeno- sine (EFdA, 1)は大類,満屋,ヤマサ醤油(株)の共同研究により創出された逆転写酵素阻害剤である (Figure 1)<sup>1)</sup>。近年,ヤマサ醤油(株)からメルク社(米国)へのライセンス供与が行われ,抗エイズ薬としての実用化研究が進められている。同様の作用機序を持つ代表的処方薬であるアジドチミジン(AZT, ジドブジン, EC<sub>50</sub> = 22 nM, HIV-1<sub>NL4-3</sub>)等に比べ数百倍から数万倍という桁違いに強力なHIV複製阻害作用(EC<sub>50</sub>= 50 pM)を有することに加え,急性毒性を示さない(LD<sub>50</sub><sub> </sub>>100 mg/kg,マウス,p.o.),様々な耐性ウイルスに対しても有効である,長い血中半減期 (t<sub>1/2</sub>= 17.2 h) を持つ等の優れた特性から,極めて有望な抗エイズ薬候補と考えられている<sup>2)</sup>(Proc. Jpn. Acad., Ser. B 2011, 87, 53)。</p><p> 一方,本化合物の臨床開発における最大のネックは1の供給体制が十分でない点にある。既存の2つの合成法(大類法<sup>1)</sup>,桑原法<sup>3)</sup>)が知られているものの(Figure 2),原料価格,収率,立体選択性の点で問題を残していた。この様な背景の下,我々は真に実用的なEFdA合成法の開発に着手した。</p><p>【フラノース4位の新規増炭法の開発】</p><p> フラノース誘導体の4位を増炭する方法としては,安価で大量に入手可能なdiacetone-D-glucose (2)から5工程で得られるアルデヒド3をaldol/ Cannizzaro反応により4-ヒドロキシメチル化して4を得るMoffattらの方法<sup>4)</sup>が唯一の報告例であるが,生成する2つの水酸基の選択的保護に問題があった(Scheme 1)。</p><p> 我々は,3-ケトフラノース誘導体6とホルムアルデヒドとのアルドール反応について検討した結果,K<sub>2</sub>CO<sub>3</sub>やEt<sub>3</sub>Nを塩基として用いると4位の立体化学の反転を伴って,アルドール反応生成物 7とそれがホルムアルデヒドと過剰反応を起こした8の混合物が定量的に得られることを見出した(Scheme 2, Table 1)。</p><p><sup></sup></p><p> 8は報告例の少ないアセタール/ヘミアセタール連続構造を持つ新規糖誘導体であり,還元処理により7とともにアルコール9へ立体選択的に変換できた(アルドール反応完結後,濾過により塩基を除去し,濾液に水とNaBH<sub>4</sub>を加えることで簡便に四置換の4位炭素を持つ9を得る手法を確立した;白色結晶,100 g スケール,2から3工程,通算収率93%)。9の3位,5位および5'/6'位は選択的な修飾が可能であり,自由度の高い新規な四置換炭素含有合成ユニットになり得るものと考えている。</p><p>【水酸基</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
福山 圭 大類 洋 桑原 重文
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP30, 2015 (Released:2018-10-01)

【緒言】 後天性免疫不全症候群 (AIDS) は世界的に問題となっているHIV(レトロウイルス)感染症である。現在,作用機序の異なる薬剤を併用する多剤併用療法(HAART) が行われており飛躍的な予後の改善が図られている。しかし生涯にわたる多剤併用療法は予期せぬ副作用の発現と多剤耐性ウイルスの出現という新たな問題に直面しており,新薬の創出と供給は創薬化学およびプロセス化学上,喫緊の研究課題である。 近年4’-C-置換ヌクレオシドの特異な生物活性に注目が集まっている。4′-ethynyl-2-fluoro-2′-deoxyadeno- sine (EFdA, 1)は大類,満屋,ヤマサ醤油(株)の共同研究により創出された逆転写酵素阻害剤である (Figure 1)1)。近年,ヤマサ醤油(株)からメルク社(米国)へのライセンス供与が行われ,抗エイズ薬としての実用化研究が進められている。同様の作用機序を持つ代表的処方薬であるアジドチミジン(AZT, ジドブジン, EC50 = 22 nM, HIV-1NL4-3)等に比べ数百倍から数万倍という桁違いに強力なHIV複製阻害作用(EC50= 50 pM)を有することに加え,急性毒性を示さない(LD50 >100 mg/kg,マウス,p.o.),様々な耐性ウイルスに対しても有効である,長い血中半減期 (t1/2= 17.2 h) を持つ等の優れた特性から,極めて有望な抗エイズ薬候補と考えられている2)(Proc. Jpn. Acad., Ser. B 2011, 87, 53)。 一方,本化合物の臨床開発における最大のネックは1の供給体制が十分でない点にある。既存の2つの合成法(大類法1),桑原法3))が知られているものの(Figure 2),原料価格,収率,立体選択性の点で問題を残していた。この様な背景の下,我々は真に実用的なEFdA合成法の開発に着手した。【フラノース4位の新規増炭法の開発】 フラノース誘導体の4位を増炭する方法としては,安価で大量に入手可能なdiacetone-D-glucose (2)から5工程で得られるアルデヒド3をaldol/ Cannizzaro反応により4-ヒドロキシメチル化して4を得るMoffattらの方法4)が唯一の報告例であるが,生成する2つの水酸基の選択的保護に問題があった(Scheme 1)。 我々は,3-ケトフラノース誘導体6とホルムアルデヒドとのアルドール反応について検討した結果,K2CO3やEt3Nを塩基として用いると4位の立体化学の反転を伴って,アルドール反応生成物 7とそれがホルムアルデヒドと過剰反応を起こした8の混合物が定量的に得られることを見出した(Scheme 2, Table 1)。 8は報告例の少ないアセタール/ヘミアセタール連続構造を持つ新規糖誘導体であり,還元処理により7とともにアルコール9へ立体選択的に変換できた(アルドール反応完結後,濾過により塩基を除去し,濾液に水とNaBH4を加えることで簡便に四置換の4位炭素を持つ9を得る手法を確立した;白色結晶,100 g スケール,2から3工程,通算収率93%)。9の3位,5位および5’/6’位は選択的な修飾が可能であり,自由度の高い新規な四置換炭素含有合成ユニットになり得るものと考えている。【水酸基(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
福山 圭一
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.5, pp.26-45, 2016

<p> EU職域年金基金指令の改正が欧州議会で可決された。ただし、まだ EU理事会での審議が残っており、成立はしていない。改正内容は固まっており、早い段階で成立すると見込まれる。</p><p> 予定される改正は、従来の指令を全面的に改める大幅なものである。わが国企業年金への影響という観点から、無視しえないと考えられる。</p><p> 中でも、ESG投資関連の事項が多く規定されることが特筆される。ESG 投資に対するこれまでの規制スタンスの変更を加盟各国に迫るものということができる。</p><p> 年金基金のガバナンスに関して新たに各種の規制が導入される。具体的には、有効なガバナンスシステムを有するようにすること、ガバナンス方針を文書化すること、リスク管理・内部監査・(DB 年金についての)アクチュアリーが「主要機能」(key function)と位置づけられること、年金基金の運営に当たる主な役職員の人的資質要件を明らかにし、主要機能保有者の適性を加盟国所管当局が評定(assess)すること、年金基金は自らリスクアセスメントを行い文書化すること、運用基本方針を公開することなど、様々な規定が新設される。</p><p> また、年金基金は、加入者・受給者に、積極的かつ幅広い内容の情報提供を行うことが義務付けられる。とりわけ、各加入者に対し、予想年金給付額(経済シナリオによる場合はベストと好ましくないシナリオによる)などを記載した年金給付ステートメントを年に1回提供することが義務付けられる。</p><p> その他、国境を超える年金資産等の移換、監督に関する諸規定など、実施に当たってかなり要求レベルの高いと思われる規定が数多く盛り込まれる。</p><p> 単一市場を企図する EUの意欲の表れと見ることができるが、一方で、Brexitなど今後の EUのあり方自体も不透明なところがある。今後の加盟各国での対応や実施状況などを注目していきたい。</p>