著者
福岡 達之 杉田 由美 川阪 尚子 吉川 直子 野﨑 園子 寺山 修史 福田 能啓 道免 和久
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.174-182, 2011-08-31 (Released:2020-06-25)
参考文献数
35

【目的】本研究の目的は,舌骨上筋群に対する筋力強化の方法として,呼気抵抗負荷トレーニング(expiratory muscle strength training: EMST)の有用性を検討することである.【対象と方法】対象は,健常成人15 名(男性10 名,女性5 名,平均年齢29.3±4.6 歳)とした.方法は,EMST とMendelsohn 手技,頭部挙上を行ったときの舌骨上筋群筋活動を表面筋電図で測定した.EMST は,最大呼気口腔内圧(PEmax)の25% と75% の負荷圧に設定し,最大吸気位から強制呼気を行う動作とした.各トレーニング動作で得られた筋電信号について,1 秒間のroot mean square(RMS)とWavelet 周波数解析を用いてmean power frequency(MPF)を算出し,それぞれトレーニング間で比較検討した.【結果】舌骨上筋群筋活動(% RMS)は,EMST の75% PEmax が最も高く(208.5±106.0%),25% PEmax(155.4±74.3%),Mendelsohn 手技(88.8±57.4%),頭部挙上(100% として正規化)と比較し有意差を認めた.また,Wavelet 周波数解析から,EMST 時には他のトレーニング動作と比較し,高周波帯領域に持続する高いパワー成分が観察された.MPF は,EMST の75% PEmax が最も高く(127.8±20.7 Hz),25% PEmax(107.6±20.1 Hz),頭部挙上(100.4±19.3 Hz)と比較して有意差を認めた.【結論】EMST は,舌骨上筋群の運動単位動員とtype Ⅱ線維の活動量を増加させる可能性があり,筋力強化として有効なトレーニング方法になることが示唆された.
著者
福岡 達之 杉田 由美 川阪 尚子 吉川 直子 新井 秀宜 巨島 文子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.155-161, 2010-08-31 (Released:2020-06-26)
参考文献数
17

症例は41 歳女性,Foix-Chavany-Marie 症候群(FCMS)の患者である.両側顔面下部,舌,咽頭,咀嚼筋に重度の随意運動障害を認め,構音不能と嚥下障害を呈した.罹患筋の随意運動はわずかな開口以外不可能であったが,笑いや欠伸などの情動・自動運動は保持されており,automatic voluntary dissociation がみられた.嚥下造影は30 度リクライニング位,奥舌に食物を挿入する条件下で実施したが,咽頭への有効な送り込み運動はみられず重度の口腔期障害を認めた.顔面,下顎,舌に対して他動的な運動療法を実施するも,罹患筋の随意運動は改善しなかった.本例では咀嚼の随意運動も不可能であったが,非意図的な場面では下顎と舌による咀嚼運動が生じ,唾液を嚥下するのが観察されていた.そこで,この保持された咀嚼の自動運動を咽頭への送り込み方法として利用できると考え,咀嚼の感覚入力と咀嚼運動を誘発する訓練を試みた.咀嚼運動を誘発させる方法としては,食物をのせたスプーンで下顎臼歯部を圧迫する機械刺激が有効であり,刺激直後に下顎と舌のリズミカルな上下運動が生じて咽頭への送り込みが可能であった.この刺激方法を用いて直接訓練を継続した結果,咀嚼運動による送り込みと45 度リクライニング位を組み合わせることで,ペースト食の経口摂取が可能となった.本例で嚥下機能が改善した機序として,咀嚼運動を誘発させる直接訓練の継続が,咀嚼運動の入力に対する閾値低下と咀嚼のCPG 活性化につながり,咀嚼運動による送り込みの改善に寄与したものと考えた.FCMS では,発声発語器官の諸筋群に生じる重度の随意運動障害により,準備・口腔期の嚥下障害を呈するが,訓練経過の報告は少なく,訓練方法を考えるうえで貴重な症例と思われ報告した.
著者
福岡 達之 道免 和久
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.105-109, 2019-02-18 (Released:2019-04-03)
参考文献数
15

小脳失調は,小脳あるいは小脳との連絡経路が障害される疾患によって生じ,発声発語,嚥下機能にも影響を及ぼす.失調性dysarthriaでは発話に関連する運動制御や協調運動の障害により,不明瞭な構音,断綴性発話,爆発性発話など特徴的な症状を呈する.小脳系の障害による嚥下障害の病態は明らかではないが,嚥下器官に生じる失調症状により咀嚼や食塊形成,送り込みの運動障害をきたすと考えられる.小脳失調を伴うdysarthriaと嚥下障害のリハビリテーション医療は,原因疾患や合併する症状によって異なり,脊髄小脳変性症のような進行性疾患では病期に応じたアプローチが重要である.
著者
福岡 達之 吉川 直子 川阪 尚子 野崎 園子 寺山 修史 福田 能啓 道免 和久
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.Suppl.2, pp.S207-S214, 2010 (Released:2011-12-01)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究の目的は、舌骨上筋群に対する筋力トレーニングの方法として、等尺性収縮による舌挙上運動の有用性を検討することである。対象は健常成人 10 名 (平均年齢 27.4 ± 3.8歳)、方法は各対象者の最大舌圧を測定した後、最大舌圧の 20%、40%、60%、80%の負荷強度で舌を挙上させた時の舌骨上筋群筋活動を表面筋電図で記録した。さらに、最大舌圧で舌を挙上させた時と頭部挙上、Mendelsohn 手技、挺舌について、各動作時の舌骨上筋群筋活動を記録した。舌骨上筋群筋活動は最大舌圧時の値を 100%として正規化し%RMS を用いて比較した。結果から、舌圧が上昇するに従い舌骨上筋群筋活動も増大を示し各強度で有意差を認めた。種々のトレーニング動作の比較では、最大舌圧による舌挙上時の舌骨上筋群筋活動が最も高く、頭部挙上 (34.8 ± 15.6%)、Mendelsohn 手技 (42.5 ± 14.8%)、挺舌 (43.0 ± 16.4%) と比べて有意差を認めた。以上より、等尺性収縮による舌挙上運動が、舌骨上筋群に対する筋力トレーニングの方法として有用となる可能性が示唆された。