著者
福島 秀晃 森原 徹 三浦 雄一郎 甲斐 義浩 幸田 仁志 古川 龍平 竹島 稔 木田 圭重
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.776-780, 2019

腱板広範囲断裂(Massive Rotator Cuff Tears: MRCT)における上肢自動挙上可能例と不能例の三角筋・肩甲帯周囲筋群の筋活動を比較検討した.対象は健常者12名12肩(健常群),MRCT36名を上肢自動挙上可能な21名25肩(挙上可能群)と挙上不能な15名16肩(挙上不能群)とした.被験筋は三角筋前部・中部・後部線維,僧帽筋上部・中部・下部線維,前鋸筋とした.測定課題は肩関節屈曲0&deg;,30&deg;位を各5秒間保持し,分析は0-30&deg;間のR-muscle値を算出した.<BR> 三角筋各線維のR-muscle値は,挙上可能群と挙上不能群間において有意差を認めなかった.僧帽筋上部線維のR-muscle値は,健常群と比較して挙上不能群で有意に高値を示した(p < 0.05).また僧帽筋中部線維のR-muscle値は,挙上可能群と比較して挙上不能群で有意に高値を示した(p < 0.01).<BR> MRCTにおける三角筋各線維の筋活動は,上肢自動挙上の可否に影響しないことが示された.一方,僧帽筋中部線維の筋活動特性がMRCTにおける上肢自動挙上の可否に影響する可能性が示された.
著者
三浦 雄一郎 福島 秀晃 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0848, 2006 (Released:2006-04-29)

【はじめに】腹直筋は腹筋群の一つであり、体幹屈曲の主動作筋である。外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋が側壁にて層状の構造を呈しているのに対し腹直筋は単独で縦走している。しかし、その構造は第一に4~5つの腱画にて区分されていること、第2に腹直筋鞘の中に納まっていることなど特徴的である。そのため腹直筋の上部、下部の筋線維に機能の相違があると推察され、筋電図学的分析がなされてきた。しかし、その違いは未だに明確にされていない。そこで今回、胸郭と骨盤の連結が比較的少ない基本肢位での肩関節屈曲運動を運動課題とし、腹直筋の上部と下部の筋機能を筋電図学的に分析したので報告する。【対 象】対象はインフォームド・コンセントの得られた整形外科的、神経学的に問題のない健常者5名、両側10例とし、平均年齢は29.2歳であった。【方 法】測定筋は上部腹直筋、下部腹直筋、外腹斜筋とした。筋電計はmyosystem 1200(Noraxon社製)を用いて測定した。電極部位はNgらによる研究結果を参照とした。座位で体幹の前傾角度を30度に設定し、上肢を下垂させた肢位を基本肢位とした。基本肢位にて肩関節を30°、60°、90°、120°、150°位で保持させた。負荷は体重の3%の錘を肩関節内外旋中間位、前腕回内外中間位にて把持させた。測定時間は5秒間とし、3回施行した。基本肢位における筋積分値を基準値とし、各角度における筋積分値相対値を求めた。3回の平均値をもって個人のデータとした。統計処理は分散分析をおこない、事後検定にはTurkeyの多重比較検定を用い、有意水準を5%以下とした。【結果および考察】肩関節屈曲角度の増加に伴い、外腹斜筋と上部腹直筋は有意な筋活動の増加を認めた。下部腹直筋に関しては肩関節屈曲角度を増加させても筋活動の変動が少なかった。肩関節屈曲角度の増加により前鋸筋の作用で肩甲骨を上方回旋させるが、この時同側の外腹斜筋による胸郭安定化が必要になる。本研究において肩関節屈曲角度の増加に伴い外腹斜筋の筋活動は漸増的に増加した。更に外腹斜筋の強い筋収縮を発揮させるためには腹直筋の収縮によって腹直筋鞘の緊張を高めることが重要と考える。本研究結果は肩関節屈曲運動に必要な胸郭安定化に外腹斜筋と上部腹直筋が関与することを示唆している。Filhoらは体幹屈曲および背臥位での四肢の空間保持を含む7つの運動課題を健常者に実施させたが腹直筋の各部位の相違は明確にならなかったと報告している。これは胸郭と骨盤を連結させる要素が入った運動課題では上部と下部腹直筋が共に参加するため機能に相違が認められなかったと考えることができる。しかし、本研究結果では胸郭と骨盤を連結させる機能を求めない場合、肩関節屈曲に関連する胸郭安定化のために腹直筋の各部位に相違が生じることが確認された。
著者
幸田 仁志 甲斐 義浩 来田 宣幸 山田 悠司 三浦 雄一郎 福島 秀晃 竹島 稔 森原 徹
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.548-551, 2019 (Released:2019-09-18)
参考文献数
13

地域在住高齢者を対象に,腱板断裂,肩痛の自覚症状,他覚症状のそれぞれの有無により健康関連QOLを比較検討した.地域在住高齢者363名を対象とした.測定項目は,超音波診断による腱板断裂,アンケートによる肩痛の自覚症状,impingement signによる他覚症状の有無,SF-8の下位尺度およびサマリースコアとした.統計解析はMann-Whitney の U 検定を用い,それぞれの陽性群と陰性群で健康関連項目を比較した.肩痛の自覚症状の陽性群は,身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,全体的健康感,活力,身体的健康感が有意に低値を示した.他覚症状の陽性群は,身体機能,体の痛み,全体的健康感,活力,身体的健康感が有意に低値を示した.腱板断裂の有無では,いずれの項目にも有意差は認められなかった.地域在住高齢者の健康関連QOLには,腱板断裂の有無は直接的に関与せず,肩痛の自覚症状や他覚症状によって低下することが示唆された.
著者
甲斐 義浩 幸田 仁志 山田 悠司 三浦 雄一郎 福島 秀晃 竹島 稔 来田 宣幸 森原 徹
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.411-414, 2019 (Released:2019-09-18)
参考文献数
12

本研究では,肩関節の総合的な柔軟性を得点化できる肩複合柔軟性テストを考案し,そのテスト法の信頼性と妥当性について検討した.対象は,健常若年者43名,健常高齢者252名,肩病変を有する高齢者111名とした.肩複合柔軟性テストは,外転,内転,外旋,内旋,複合テストの5項目で構成される.各テストには,4段階(0, 1, 2, 3)の判定基準を設定し,5項目の合計得点を0~15点で算出した.分析の結果,本テストの判定一致度(k係数:0.81-1.00)および合計得点(ICC:0.91)ともに,優秀な検者間信頼性が確認された.また,合計得点と肩甲上腕関節可動域との間に有意な正相関が認められた.対象者の合計得点は,健常若年者:12.5 ± 1.7点,健常肩高齢者:10.4 ± 2.5点,病変肩高齢者:8.7 ± 2.8点であり,病変肩群の得点は他の2群と比べて有意に低かった(p < 0.01).これらの知見より,肩関節の総合的な柔軟性を得点化できる尺度として,本法の信頼性と妥当性が示された.
著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0850, 2006

【目的】体幹機能の評価および機能改善の方法に座位での側方移動がある。座位側方移動に関しては、骨盤・胸椎の傾斜角度や腹斜筋群、脊柱起立筋などの筋活動について研究がなされており、その研究成果は臨床で活用されてきている。臨床においては頭頚部筋や肩甲帯周囲筋の過剰努力を呈し、座位バランスを保持している症例を頻繁に経験する。しかし、座位での側方移動における頭頚部筋や肩甲帯周囲筋の機能に関しては明確にされていない。本研究目的は、肩甲帯周囲筋である僧帽筋に着目し、健常者の座位側方移動時の僧帽筋の筋活動について筋電図を用いて検証することである。<BR>【方法】対象は健常男性5名(平均年齢30.2±4.3歳)両側。対象者には事前に本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。測定筋は両側の僧帽筋上部、中部、下部線維とし筋電計myosystem1200(Noraxon社製)を用いて測定した。具体的な運動課題は両腕を組み、両下肢を浮かした座位姿勢を開始肢位とした。開始肢位より5cm、10cm、15cm、20cmと前額面での延長上に設置した目標物に対し三角筋外側最大膨隆部を接触させていくよう側方移動を行った。各移動距離における測定時間は5秒間とし、これを3回施行した。なお、被検者には頭部・体幹は前額面上に、両側の肩峰を結んだ線は水平位を保持するよう指示した。分析方法は開始肢位における僧帽筋各線維の筋積分値を基準として各移動距離の筋積分値相対値を算出し、各線維ごとに移動距離間での分散分析(Turkeyの多重比較)を行った。<BR>【結果】非移動側僧帽筋の筋積分値相対値は下部線維のみが移動距離20cmにおいて5cm、10cm、15cmと比較して有意に増加した。<BR>移動側僧帽筋の筋積分値相対値は中部線維のみが移動距離20cmにおいて5cm、10cm、15cmと比較して有意に増加した。<BR>【考察】座位側方移動での体幹機能の特徴には非移動側の腹斜筋群による抗重力的な求心活動によって胸郭と骨盤を連結させること、非移動側骨盤の水平面上での前方回旋に対し体幹上部では反対側の回旋が生じ、カウンタームーブメントによる体幹の安定化が図られるなどがある。本研究での非移動側僧帽筋下部線維の筋活動が有意に増加したことについては、胸郭上を浮遊する肩甲帯を積極的に下制、内転させることで肩甲帯と胸郭の連結を行い、かつ胸郭を垂直に保持することに関与したのではないかと考える。これにより肩甲帯-胸郭-骨盤といった体幹の安定化が図られると考える。一方、移動側僧帽筋中部線維の筋活動が有意に増加したことについては、カウンタームーブメントによる体幹の安定化とは異なり、本研究では前額面上の目標物に到達させる課題であることから、移動側肩甲帯を内転位に保持する必要がある。移動側中部線維の活動は肩甲帯を内転方向へと導いていく方向舵としての機能に関与したのではないかと考える。<BR><BR>
著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 布谷 美樹 近藤 克征 加古原 彩 鈴木 俊明 森原 徹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A1290, 2008

【はじめに】<BR>肩関節疾患症例において肩甲上腕リズムが破綻している症例を頻繁に経験する。Ludewigらは僧帽筋上部線維の過剰収縮が肩甲骨の異常な運動を引き起こすとしており、理学療法では僧帽筋上部線維の過剰収縮を抑制することが重要である。一方、我々は上肢挙上に伴う肩甲骨の安定化と上方回旋機能の役割として僧帽筋下部線維が重要であることを報告してきた。よって上肢挙上時の僧帽筋各線維の協調した肩甲骨の上方回旋機能を改善させていくには過剰収縮している僧帽筋上部線維の抑制と僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す方法を考慮していく必要性がある。 <BR>そこで、我々は肩甲胸郭関節の安定化に対するアプローチとして運動肢位に着目している。今回、側臥位という運動肢位で肩関節外転保持を行った時の僧帽筋各線維の筋活動を筋電図学的に分析し、肩甲胸郭関節の安定化に対する理学療法アプローチを検討したので報告する。<BR>【対象と方法】<BR>対象は健常男性5名両側10肢(平均年齢29.0±4.2歳、平均身長177±9.3cm、平均体重68.8±7.2kg)である。対象者には事前に本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。測定筋は僧帽筋上部線維、中部線維、下部線維とし、筋電計myosystem1200(Noraxon社製)を用いて測定した。電極貼付位置は、Richard(2003、2004)、下野らの方法を参考にした。具体的な運動課題は側臥位において肩関節を30°、60°、90°、120°、150°外転位を5秒間保持させ、それを3回施行した。3回の平均値を個人データとした。分析方法は座位での上肢下垂位の筋電図積分値を求め、これを基準に各角度での筋電図積分値相対値(以下、相対値)を算出した。統計処理には角度間での分散分析(tukey多重比較)を行った。<BR>【結果と考察】<BR>外転角度の増大に伴い僧帽筋上部、中部線維の相対値は漸減傾向を、下部線維の相対値は漸増傾向を示した。上部、中部線維は30°と比較して120°以降有意に減少し、下部線維は30°~90°と比較して150°で有意に増加した。側臥位での肩関節外転保持は90°を境に抗重力下から従重力下へと変化する。このことから90°以降では上肢自重に伴い肩甲骨には挙上方向に対する制動が必要になると考えられる。90°以降では肩甲骨は上方回旋位を呈していることから、鎖骨、肩峰、肩甲棘上縁に停止する上部、中部線維の筋活動は減少し、拮抗作用を有する下部線維が肩甲骨の制動に関与したのではないかと考える。 <BR>臨床上、上肢挙上角度の増大に伴う、僧帽筋上部線維の過剰収縮と僧帽筋下部線維の収縮不全によって肩甲骨の上方回旋不良が生じている症例に対し側臥位での外転120°以降では僧帽筋上部線維の抑制が、外転150°保持では僧帽筋上部線維の抑制及び僧帽筋下部線維の筋活動促通が可能であることが示唆された。<BR><BR><BR>
著者
上村 拓矢 長崎 進 三浦 雄一郎 福島 秀晃 森原 徹
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.127-134, 2015 (Released:2016-01-06)
参考文献数
11

The serratus anterior muscle is an important muscle for scapular joint function. It is innervated by the long thoracic nerve, and its function is to stabilize the medial border and inferior angle of the scapula. Generally, exercises that emphasize the protraction and upward rotation of the scapula (wall push-up plus, dynamic hag, push-up plus) have been recommended for strengthening the serratus anterior. However, because greater activation of the pectoral muscles is likely to occur during these exercises, there is a possibility that efficient serratus anterior muscle activity will not be obtained. In this study, a patient was subjected to physical therapy after right long thoracic nerve paralysis resulted in fatigue during shoulder flexion at 120° or higher. General strengthening exercises for the serratus anterior muscle were incorporated, but sufficient effects were not achieved. Therefore, our training focused on improving serratus anterior contraction patterns through facilitation, while reducing the activation of the pectoralis major. These exercises improved shoulder joint motor function and reduced fatigue during flexion better than general strengthening exercises. We consider that it is necessary to focus on facilitation and contraction patterns to improve serratus anterior activation after long thoracic nerve injury.