- 著者
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福島 邦夫
- 出版者
- 長崎大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1996
本研究は九州北部離島(対馬、壱岐、五島)と南部離島(甑島、トカラ列島口の島)のシャーマニズムと神楽(巫女舞い)を比較し、その共通する伝統を指摘しようとしたものである。従来の研究が比較的地域を限定していたことに対し、対象とする範囲を広げることにより、九州全体に広がっていた巫女の伝統を明らかにすることができる。まず、神楽において、巫女舞いの動きに共通点が見られることである。九州西岸の五島、甑島では、巫女は神前で大きく回って舞うと言う動作をする。衣装に関して言えば、甑島、トカラ列島口の島では先輩ネーシの髪の毛を頭に着けている。また、すべての巫女が左手で袖をつかみ右手に鈴を持って舞っている。次に、組織に関してのべると、神楽においては巫女は対馬、壱岐、においては法者と口の島ではホンボーイ、ジホーイなどの男性神職とペアになって舞いを舞ったことである。男性神職が太鼓を叩き、命婦、市、内侍が舞うと言う形である。法者は神楽保佐職つまり、神官を補佐する陰陽師であった形跡が見られる。また、巫女も大きな神社に関しては惣の市(一の内侍)、二の市(二の内侍)、三の市(三の内侍)など神社の女官としての地位があたえられていたことがわかっている。最後に信仰に関して、神霊が風として生き霊、死霊、山ノモン、イソノモン、ガラッパなどが考えられ、それを祓ったり、託宣をさせて、その言葉を伝えるなどのシャーマン的な行為を行っていた。これらは巫女と同じに法者もそうした行為を行っていた。また、比較的古い形をのこしているとみられる対馬やトカラ列島口の島では巫女自身が神歌を歌ったり、祝詞をあげたりする神官としての役割も果たしていたことである。