著者
高橋 英章 本田 光 居林 基 斉藤 佳代子 秋野 憲一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.695-705, 2021-10-15 (Released:2021-10-06)
参考文献数
30

目的 札幌市における地域検診および個人・職域を含めたがん検診受診の実態を独自調査によって明らかにすること,がん検診受診率が低い集団を特定し,がん検診受診率を向上させるための施策の基礎資料とすることを目的とした。方法 札幌市在住の40~69歳の男性3,000人および20~69歳の女性4,000人を対象にした自記式質問票による調査を実施した(有効回収率:32.4%)。調査内容は,国民生活基礎調査の健康票のうちがん検診受診に関するものを引用したほか,基本属性,がん関連属性とした。χ2検定またはロジスティック回帰分析を用い,がん検診受診率と基本属性,がん関連属性との関連を解析した。結果 本研究の胃がん検診受診率は男性67.4%,女性48.7%,大腸がん検診受診率は男性59.2%,女性47.7%,肺がん検診受診率は男性66.1%,女性53.4%,子宮がん検診受診率は52.7%,乳がん検診受診率は56.1%だった。 男女ともにすべてのがん種において,就労していない者または国民健康保険に加入している者の受診率が有意に低かった。属性とがん検診受診に関して,就労なしに対する就労ありのオッズ比は,男性3.00~3.09 (肺がん3.00 95%信頼区間:2.09-4.32,大腸がん3.03 95%信頼区間:2.09-4.38,胃がん3.09 95%信頼区間:2.09-4.57),女性1.41~2.46だった。医療保険が国民健康保険の人に比べ,それ以外の保険の人の受診オッズ比は,男性3.47~4.26,女性1.47~2.52だった。また,男女ともに札幌市がん検診の認知度とがん検診受診に女性の胃がん検診を除いて有意な関連がみられ,認知度ありのオッズ比は,男性1.41~1.74,女性1.24~1.48だった。結論 がん検診受診率が50%を下回ったがん種は,女性の胃がんと大腸がんのみであり,とくに男性は胃・大腸・肺すべてのがん検診受診率が50%を超えていた。男女ともに就労していない者,国民健康保険に加入している者,札幌市がん検診(地域検診)を認知していない者のがん検診受診率が低い傾向にあり,国民生活基礎調査のみでは示されなかった札幌市における低受診者集団の特徴が明らかとなった。
著者
秋野 憲一
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.121-130, 2014-04

広大な面積を有する北海道においては,保健医療施策全般について地域格差,健康格差に対する対応が求められている.医療従事者にも恵まれ,経済的にも比較的良好な大都市から,医療従事者の確保もままならず人口流出が続き地域の存続すら危ぶまれている過疎地域まで含まれている.実際,北海道の歯科保健医療の状況については,北海道全体の12歳児一人平均う歯数が全国平均に比べ大きく劣っている他,道内の幼児及び学童のう蝕の地域格差も著しい状況となっている.歯科医療についても,心身障害者等に対する専門的な歯科医療においては,受診のため数時間の交通機関による移動を強いられる地域もあるなど,医療格差が著しい状況である.北海道では,このような幼児及び学童のう蝕の地域格差や障害者歯科医療の地域格差などの健康格差に対する施策として,従来の個人へのアプローチを重視した施策から公衆衛生的なアプローチを重視する施策へ転換を図った.幼児および学童のう蝕の地域格差対策として,先進県において確かな成果を挙げているフッ化物洗口事業の導入を図ることとし,平成21年6月に道議会において成立した「北海道歯・口の健康づくり推進条例」に明確に位置づけた.条例成立を機に,北海道保健福祉部に加え,北海道教育委員会においてもフッ化物洗口の普及を重要施策として取り組むこととなり,導入市町村数は,条例成立前の179市町村中27市町村から,平成25年10月末現在,159市町村まで急速に増加し,さらに今後5年以内に全市町村での導入を目指している.障害者歯科対策では,受診に数時間を要するなど多大な通院負担がある医療格差を踏まえて,北海道全域において心身障害者が身近な地域で一次歯科医療や定期的な歯科健診等を受けられることを目的に,協力医の知事指定を行う「北海道障がい者歯科医療協力医制度」を平成17年度に創設した.北海道内には21の二次医療圏があるが,全ての二次医療圏において協力医を1名以上指定することにより,地域の医療格差の縮小に寄与している.歯科保健における健康格差は,社会的要因の影響を受けやすいため,様々な健康課題の中でも顕著に出る傾向がある.このため保健政策を担う自治体の役割はとりわけ大きく,住民の健康格差縮小に向けてリーダーシップをとっていく必要がある.
著者
葭内 朗裕 兼平 孝 栗田 啓子 竹原 順次 高橋 大郎 本多 丘人 秋野 憲一 相田 潤 森田 学
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.12-24, 2011-09-15

本研究は,北海道国民健康保険団体連合会(以下,"北海道国保連合会"と略)から提供を受けた平成19年5月のレセプトデータに基づき,北海道内の国民健康保険被保険者のうち,満70歳以上で歯科医療機関を含む医療機関を受診した者を対象に,現在歯数,欠損補綴状況,歯周病罹患状況と被保険者1人あたりの医科診療費との関連およびレセプト1件あたりの医科診療費から現在歯数と生活習慣病の罹患状況との関連について調べたものである.その結果,平均医科診療費は,1)現在歯が20歯未満の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べ,1. 2~1. 3倍,中でも現在歯数が0~4歯の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べ,1.4~1.6倍と有意に高いこと,2)歯の欠損部の補綴処置を受けていない高齢者は,受けている高齢者に比べ,1.1倍程度と統計学的に有意ではないがやや高い傾向にあること,3)重度の歯周病を有する高齢者は,歯周病がない,あるいは軽度の高齢者に比べ,統計学的に有意ではないが,1.1~1.3倍程度とやや高い傾向にあること,などが明らかとなった.また,生活習慣病による平均医科診療費(レセプト1件あたり)は,1)現在歯が20歯未満の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べて1.1~1.3倍,中でも現在歯数がO~4歯の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べて1.2~1.7倍と有意に高かった. 2)悪性腫瘍,糖尿病,高血圧性疾患,虚血性心疾患,脳血管障害では,現在歯が20歯未満の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べるとそれぞれ1.1~1.4倍,中でも現在歯数が0~4歯の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べ,1.4~1.7倍といずれも有意に高かった.