著者
窪田 和巳 島津 明人 川上 憲人
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.69-76, 2014 (Released:2014-11-20)
参考文献数
37
被引用文献数
8

本研究では、仕事に関する積極的態度であるワーカホリズムとワーク・エンゲイジメントが、それぞれリカバリー経験(就業中のストレスフルな体験によって消費された心理社会的資源を元の水準に回復させるための活動)とどのような関連を有しているのか、 日本の労働者を対象として明らかにすることを目的とした。ワーカホリズム、ワーク・エンゲイジメント、リカバリー経験に関する各質問項目を含むインターネット調査を、調査会社である株式会社マクロミルの登録モニタを対象に行った(調査期間:2010年10月)。登録モニタから、性別、年代、居住地域が人口統計比率に合うように無作為抽出された13,564名の労働者に対して研究協力の案内が送付された。本研究では回答期間内に回答した先着2,520名を解析対象とした(男性1,257名、女性1,263名:平均年齢44.4歳、SD = 12.9)。分析は、各構成概念(ワーカホリズム、ワーク・エンゲイジメント、リカバリー経験)間の関連を明らかにするため、共分散構造分析を実施した。共分散構造分析の結果、ワーカホリズムとワーク・エンゲイジメントとは、弱い正の相関を有していた。また、ワーカホリズムは4つのリカバリー経験(心理的距離、リラックス、熟達、コントロール)と負の関連を有し、ワーク・エンゲイジメントは3つのリカバリー経験(リラックス、熟達、コントロール)と正の関連を有することが明らかになった。これらの結果は、ワーカホリズムはリカバリー経験を抑制するのに対して、ワーク・エンゲイジメントはリカバリー経験を促進することを示唆している。ワーカホリズムとワーク・エンゲイジメントは仕事に対して多くのエネルギーを費やす点では共通しているものの、リカバリー経験との関連については、それぞれ異なる影響を有することが考えられる。
著者
田川 晴菜 窪田 和巳 山口 さおり 深堀 浩樹
出版者
一般社団法人 日本看護管理学会
雑誌
日本看護管理学会誌 (ISSN:13470140)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.48-56, 2013 (Released:2018-12-28)
参考文献数
9

本研究は,看護政策に携わる看護職の現在の職業・立場につくまでの経験を明らかにし,彼らの意見から看護職の看護政策に関する興味・関心を高める方略についての示唆を得ることを目的とした.看護政策へ携わる看護職6名を対象に半構造的インタビューを実施し,質的に分析した.分析の結果,看護政策に携わる看護職の現在の職業・立場につくまでの経験として「看護政策に関心を持ったきっかけとなった経験」,「看護政策への理解を深めた体験」,「周囲の人々から対象者への反応」の3カテゴリーが,看護政策に関する興味・関心を高める方略についての意見や考えとして「看護政策への関心を高める上での障害」,「看護政策への関心を高めるために考えられる取り組み」の2カテゴリーが得られた.将来看護政策に携わりたいと考える看護職にとって,看護政策に直接携わる人との関わりが重要であるとともに,基礎教育の段階で医療・看護政策に関する内容を学び,看護以外の分野の知識や海外の医療制度・看護実践について知ることが有益であることが示唆された.また,今後より多くの看護職が看護政策に関心を持つようになるための体制を考える上で,多忙な臨床現場でも効率的に看護政策に関する情報が得られる環境整備や看護職の情報リテラシーを高める取り組み,若年層に対するアプローチが重要であることが示唆された.
著者
加賀田 聡子 井上 彰臣 窪田 和巳 島津 明人
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.83-90, 2015 (Released:2015-11-19)
参考文献数
39

看護師を対象に、感情労働による心理学的影響を調べた近年の先行研究では、感情労働がバーンアウト/抑うつの悪化や職務満足感の向上に影響を与えることが着目されている。しかし、日本の看護師を対象に感情労働の心理学的側面に着目した先行研究は少なく、感情労働を要素別に分類し、ワーク・エンゲイジメントやストレス反応との関連を検証した研究は、我々の知る限り見当たらない。そこで本研究では、日本の看護師を対象に「看護師の感情労働測定尺度:ELIN」を用いて感情労働の要素を詳細に測定し、これらの各要素とワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との関連を検討することを目的とした。関東圏内の1つの総合病院に勤務する女性病棟看護師306名を対象に、感情労働(ELIN:「探索的理解」、「ケアの表現」、「深層適応」、「表層適応」、「表出抑制」の5下位尺度からなる)、ワーク・エンゲイジメント(The Japanese Short Version of the Utrecht Work Engagement Scale:UWES-J短縮版による)、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応(職業性ストレス簡易調査票:BJSQによる)、個人属性(年齢、診療科、同居者の有無)に関する質問項目を含めた自記式質問紙を用いて調査を実施した(調査期間:2011年8~9月)。分析は、感情労働とワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との関連を検討するため、感情労働の各下位尺度を独立変数、ワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応を従属変数、個人属性を調整因子とした重回帰分析を実施した。重回帰分析の結果、感情労働の構成要素の一つである「探索的理解」とワーク・エンゲイジメントとの間に正の関連が、「表出抑制」とワーク・エンゲイジメントとの間に負の関連が認められた。また、感情労働の構成要素の一つである「深層適応」と心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との間に正の関連が認められた。これらの結果から、「探索的理解」を高め、「表出抑制」や「深層適応」を低減させるようなアプローチによって、看護師が自身の感情をコントロールしながらも、心身の健康を保持・増進するために有効な可能性が示唆された。
著者
沼倉 和美 窪田 和巳 徳永 瑞子
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.261-270, 2017-12-20 (Released:2018-01-10)
参考文献数
14

目的  本研究では、カメルーン共和国において、母親のマラリアに関する知識の実態を把握した上で、母親のマラリアに関する知識と子どもへの予防対策との関連を明らかにした。方法  2014年8月から9月に、カメルーン共和国ヤウンデ市のA保健センターへ予防接種に来ていた5歳未満児の実子を養育している母親50名を対象とし、筆者らが作成した質問紙をもとに聞き取り調査を行なった(回収率:100%)。質問紙は、母親のマラリアに関する知識、母親が子どもに実施している予防対策、マラリアの情報源、および対象者の属性により構成された。母親のマラリアに関する知識の項目(全4項目)を独立変数、子どもに実施している予防対策(全1項目)を従属変数として共分散分析を行った。分析の際には、対象者の属性を共変量として投入した。母親の年齢とマラリアの原因に関する知識について、それぞれ子どもへのマラリア罹患予防対策としての蚊帳の使用状況との関連においてX2検定を行った。結果  対象のうち、マラリアの原因について「蚊の刺咬」を知っている人は40人(80.0%)、知らない人は10人(20.0%)、マラリアの情報源として「病院や診療所の医療関係者(医師、看護師、助産師)」は39人(78.0%)、「テレビ」は26人(52.0%)であった。  マラリアに関する知識の項目(全4項目)と子どもに実施している予防対策の項目(全1項目)との関連において実施した共分散分析では、すべての組み合わせにおいて有意差が認められた。  マラリアの原因に関する知識と子どもへのマラリア罹患予防対策としての蚊帳の使用状況との関連において、X2検定では有意傾向が認められた。結論  本研究から、マラリアの原因、症状、予防対策、経済的負担に関して知識のある母親は、マラリアの予防対策を実施していることが明らかになった。  これらのことから、適切な予防対策によりマラリア罹患率や5歳未満児死亡率を減少させるために、マラリアの原因や蚊の習性を含めた正しい知識の普及が重要である。
著者
津野 香奈美 大島 一輝 窪田 和巳 川上 憲人
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.245-258, 2014 (Released:2014-12-20)
参考文献数
46
被引用文献数
2 15

目的:東日本大震災は東北から関東にかけて甚大な被害をもたらしたが,津波の被害がなかった関東地方の労働者の心理的ストレスについてはあまり注目されていない.自身の被災に加え,震災によって仮庁舎への移動が必要となり,通常業務に加え震災対応に追われた関東地方の自治体職員における困難に立ち向かう力(レジリエンス)と心的外傷後ストレス症状との関連を検討した.対象と方法:関東地方のある自治体において,震災から半年後にあたる2011年9月に全職員2,069名を対象に質問紙調査を実施し,そのうち991名から回答を得た(回収率47.9%).分析対象者は,欠損値のなかった825名(男性607名,女性218名)とした.心的外傷後ストレス症状は出来事インパクト尺度改定版(Impact Event Scale-Revised),レジリエンスはConnor-Davidson Resilience Scaleを用いて測定し高中低の3群に区分した.震災による怪我の有無(家族を含む)と自宅被害の有無をそれぞれ1項目で調査し,いずれかに「はい」と回答した者を「被災あり群」,それ以外を「被災なし群」とした.多重ロジスティック回帰分析を用いて,被災あり群における心的外傷後ストレス症状の有無(IES-R得点25点以上)のオッズ比を,レジリエンス得点の高中低群別に算出した.結果:東日本大震災によって自分ないし家族が怪我をした者は回答者のうち4.6%,自宅に被害があった者は82.3%であり,いずれかの被害があった者は全体の83.3%であった.被災あり群,慢性疾患あり群で有意に心的外傷後ストレス症状を持つ割合が高かった.基本的属性および被災の有無を調整してもレジリエンスと心的外傷後ストレス症状との間に有意な負の関連が見られた(高群に対する低群のオッズ比2.00 [95%信頼区間 1.25–3.18],基本属性,職業特性で調整後).特に被災あり群で,レジリエンスと心的外傷後ストレス症状との間に有意な関係が見られた.結論:東日本大震災で自宅等への被災を受けた自治体職員の中で,レジリエンスが低いほど心的外傷後ストレス症状を持つリスクが高いことが明らかになった.このことから,震災などの自然災害という困難の際にも,レジリエンスが心的外傷後ストレス症状発症を抑える働きをすると考えられる.