著者
立川 貴重 目黒 公郎 永田 茂 片山 恒雄
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.2, pp.21-30, 1992-05

近年、都市機能や日常生活は「電力」に大きく依存しているため,電力供給機能が失われた場合には、各方面で大きな影響を受ける.特に地震をはじめとする自然災害が都市を襲った場合,程度の差こそあれ,高い確率で停電が起こることが予想され,電力の途絶が都市生活へ及ぼす影響を検討しておくことが急務となっている.ところで,1991年9月27日から28日にかけて,日本を縦断した台風19号は,広い暴風圏を持った典型的な「風台風」として,日本列島の西南部と北東部を中心に大きな被害を及ぼした.青森県のりんご被害,九州の森林被害などが台風通過後に大きな問題となったが,特に西南日本では,過去の災害でも例を見ない大規模な停電が発生した.停電の影響は710万戸に及び,これは全国の需要家の13%に当たる.一部の地域ではライフライン施設そのものにも被害が発生したが,都市機能に大きな影響を与える主因は,電力供給の停止から波及したライフラインの機能的被害である.一般に自然災害に伴うライフラインの被害は,物的被害と機能的被害のカップリングの形で発生するが,台風19号の場合は,停電が他のライフラインに与える機能的被害波及を明確に示すものである.このような事例は非常に希であり,この機に被害の状況と関係機関の対応を調査しておくことは,今後の都市防災に多くの知見を与えるものと思われる.そこで我々は,広範囲かつ長時間の停電が発生し,他のライフラインへの被害波及が顕著であった広島市周辺を対象として,現地調査を行った.調査対象は,主として電力,上水道,下水道,電気通信,都市ガス,交通,マスメディアなど,いわゆる都市のライフラインとした.広い意味での都市機能の被害に関する情報収集に努め,台風による強風,高潮,飛来物などによる施設の直接被害よりも,電気の供給がストップしたことによる影響に重点を置いて調査を実施し,関連資料を集めた.本論分は,調査結果をなるべく網羅的にまとめたものであり,広域かつ長期の停電が都市施設に与えた影響の「全体像」を示すことを目的としたものである.