著者
竜田 庸平 福本 礼 橋本 俊顕 岩本 浩二 宮内 良浩 小川 哲史 藤元 麻衣子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P3012-A4P3012, 2010

【目的】<BR> 広汎性発達障害の原因説にはミラーニューロン(以下MN)障害説があり,MNは模倣と運動学習に関連している.今回,MNの存在する44野付近の運動模倣中の賦活状態を計測することを目的に光トポグラフィー(以下NIRS)を用いて測定し,広汎性発達障害児と健常児との間に差があるか検証したので報告する.<BR>【方法】<BR> 広汎性発達障害児群は20名(11.7±3.53歳) 障害別内訳(高機能自閉症10名・アスペルガー症候群10名)男児19名,女児1名であった.健常児群は,健常児10名(12.3±2.95歳),男児8名,女児2名であった.なお,対象は全員右利きであった.NIRSの測定は近赤外光イメージング装置OMM-3000シリーズ;島津製作所を使用した.測定は,Czより11cm側方3cm前方の44野付近を測定した.NIRSのプローペパッドを2枚用意し両側に貼り付けた. 課題には田中の改訂版随意運動発達検査を用いた. 30秒×3を1セット,合計2セット行った.1番目,3番目の30秒は休憩,2つ目の30秒は課題を行った.課題は健常成人の右手のb-4,b-5,b-6を動画撮影し,PC画面に呈示した.対象には動画上の運動を模倣してもらった.分析方法として,ビデオによる行動分析と,ピーク振幅を求めU検定を行った.加えて, 44野付近の平均加算を2群それぞれグラフ化し,目視にて分析を行った. <BR>【説明と同意】<BR> 対象者には十分に説明を行い,同意を得た後測定した.なお,本研究は当校倫理委員会の承認を得た.<BR>【結果】<BR> 広汎性発達障害児群には何らかの異常な模倣行動が認められ,健常児群には認められなかった. 異常な模倣行動の内訳として,課題施行中の集中力低下8例・鏡像模倣1例・左右逆模倣4例・鏡像模倣だが鏡になっていない模倣5例・動画と非同調な模倣13例であった.U検定の結果,課題の1セット目では,24個中10個のチャンネル(以下CH)で,2セット目では24個中8個のCHで広汎性発達障害児群が健常児に比べ有意に低かった. 中でも,健常児群と比較して広汎性発達障害児群は44野付近の12CHと23CHが1セット目2セット目にわたり,有意に低下していた. 44野付近の平均加算の結果,健常児群と比較して広汎性発達障害児群は,平坦なグラフとなり,44野付近の活動が確認できなかった.健常児群では課題施行中にoxy-Hbが上昇するグラフとなり,44野付近の活動が確認できた.<BR>【考察】<BR> 模倣は6歳前半に完成するとされている.模倣には身体図式が関係しているため,広汎性発達障害児群も身体図式に障害があったのではと考える.人が身体図式を利用するにはMNが関係し,広汎性発達障害児の場合,MNに障害があるために身体図式を用いたdirect matchingがうまく機能していないことが考えられた.実際に広汎性発達障害児群は,44野付近のCHで有意差が見られ,平均加算データも,健常児群と比較して平坦になっていた.このことはdirect matchingの機能をうまくコントロールできていない状態をリアルタイムに採取できたと考える.運動学習は3段階に分けられ,このなかでも初期の認知段階では教示・示唆・運動見本の提示が重要となる.この初期の認知段階には模倣を必要とし,模倣を行うことによって運動学習の見本を自己にインプットする.Meltzoff(1989)によると模倣行動は新生児より出現するとの報告があり,新生児の時期からの模倣行動の重要性が伺える.しかし,これら模倣に関連した44野を含むMNシステムに障害があるとされる広汎性発達障害児において,運動学習には不利な状況であることが今回の研究により考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 模倣とコミュニケーション能力,模倣とMNの研究,模倣と身体図式等,いろいろな方面から模倣に対する研究が盛んに行われており,模倣を理解することは,運動学習を教示する立場である私たちにとって有益なものになると考える.
著者
松下 征司 上田 喜敏 宮本 忠吉 中原 英博 橋詰 努 北川 博巳 土川 忠浩 永井 利沙 竜田 庸平 直江 貢 米津 金吾 佐々木 寛和 山上 敦子 藤澤 正一郎 末田 統
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2084-A3P2084, 2009

【はじめに】<BR> 車いすは歩行困難な高齢者や障害者にとって使用頻度の高い福祉用具の一つであり,使用者のシーティングや駆動特性等については多くの報告がある.しかし,車いす駆動が身体機能に及ぼす影響についての報告は,まだ散見される程度である.本研究では,基礎的実験として車いすのタイヤ空気圧の違いによる身体負荷を酸素摂取量と駆動トルクから算出した仕事率より評価したので報告する.<BR><BR>【対象と方法】<BR> 対象は,ヘルシンキ宣言に基づき本実験に同意の得られた健常男性3名(A:体重71kg・56歳,B:63kg・32歳,C:72Kg・27歳)である.実験装置として,トルク計(共和電業製)とロータリ・エンコーダ(小野測器製)を内蔵した計測用車いすを用い,酸素摂取量の計測には携帯型呼吸代謝測定装置VO2000(S&ME社製)を使用した.なお,事前にダグラスバッグ法(以下,DB法)によるVO2000の検証を行った.心拍計はS810i(ポラール社製)を使用し,主観的運動強度はボルグ指数を用いた.実験方法に関して1回の計測はVO2000により走行開始前5分間の安静時酸素摂取量を計測した後,10分間1周60mのコースを10周走行した(時速約3.6km/h).1周回毎(1分毎)に心拍数とボルグ指数を記録した.車いすの駆動ピッチは60ピッチ/分とし,計測開始前に10周練習走行を実施した.車いす走行中の身体負荷を比較するため,タイヤの空気圧(300kPa,200kPa)をパラメータとした.<BR><BR>【結果】<BR> 車いす駆動に使われた酸素摂取量は駆動時平均酸素摂取量-安静時平均酸素摂取量より求まる.酸素摂取量より仕事率の被験者平均値を求めると 200kPaは約206[W],300kPaは約151[W]となった.また,車いすを駆動するのに必要とされる仕事率は,計測用車いすから得られる駆動トルク[Nm]と車輪の回転角より算出した.駆動トルクより,10周走行中の平均仕事率を算出すると空気圧200kpaの被験者平均値は約22.2[W],300Kpaは約14.9[W]となった.心拍数とボルグ指数においては,200kPaでの心拍数の被験者平均値は115.3[bpm],300kPaは105.3[bpm]であった.200kPaのボルグ指数平均値は約12.9,300kPaで約10.9であった.すべての計測項目において各被験者ともタイヤ空気圧の低い場合が高い場合と比較して運動負荷が高くなる傾向を示した.<BR><BR>【考察】<BR> 酸素摂取量および駆動トルクより算出される仕事率は,タイヤ空気圧の違いに対し同じような傾向を示し,身体負荷の違いを明らかにできた.被験者間の仕事率を比較すると,全体の傾向は一致しているが個人差も観察された.原因として年齢や体格,運動能力などの個人因子の影響が考えられ,今後これらを含めたより詳細な検討を行う予定である.
著者
小川 哲史 竜田 庸平 宮内 良浩 藤元 麻衣子 速見 弥央 本田 隆広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Gb1454, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 当校では,3学年の臨床実習報告会を理学療法セミナーという形で1学年が参加し,単位としている.今回,1学年前期におけるセミナーの感想を自由記述してもらい,臨床実習に対するイメージや想いなどのキーワードを分析し,臨床実習に対する心構えの指導や助言に繋げることを目的とする.【方法】 理学療法セミナーに初めて参加した当校1学年42名に自由記述方式にて感想や勉強になったことを記入してもらった.そして,テキストデータに変換後khcoderにて分析した.分析方法としては,頻出度の高い順に単語を抽出した後,似通った語をカテゴライズし,2次元対応分析と階層的クラスター分類にて分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言を遵守し,学生に十分説明し同意を得た.また,テキストデータに関しては,匿名にて採取したうえで分析後破棄した.【結果】 42名の学生全員から回答が得られた.高頻度抽出語は約70種類あった.その語をクラスター分類し10のカテゴリーに分類した.カテゴリーは「先輩」「セミナー」「自分」「先生」「評価」「知識不足」「実習」「発表」「病態」「治療」というものであった. 2次元対応分析の結果,「自分」と「知識不足」の関わりが1番強い結果となった.また,関連カテゴリーは「自分」と「先輩」,「自分」と「発表」,「評価」と「治療」でった.「病態」に関しては「発表」「実習」と関連があったが,弱く遠い存在であった.加えて,「先生」は他のカテゴリーに満遍なく関わりがあるが遠い結果となった. 階層的クラスター分類のデンドログラムの結果では,3つのグループに分かれた.「自分」「知識不足」「発表」群と「評価」「治療」「実習」「先輩」「セミナー」群,「病態」「先生」群に別れた.【考察】 「自分」と「知識不足」との関係性は,自分は知識不足であるという内部表象であると考える.「自分」と「発表」との関係性は,発表が上手く出来るのかという未来像の内部表象ではないかと考える.階層的クラスター分類の結果からも同様に示唆できた.知識がつけば自分も3学年になれる.また当然その時期がくれば発表もできる.そういう短絡的な発想ではあるが不安と願望,また将来像が交錯している時期だともいえるのではないかと考える. 「評価」と「治療」のカテゴリーは言葉の意味から考えると動的な表象である.これが「実習」という言葉に関連していたため,実習では評価と治療の課題を実施しなければならないという認識が強かったのではないかと考える.1学年の授業に評価実技を多くし,教員の治療アプローチ指導や見学をすることも不安を解消する有効な手段ではないかと考える.当校の理学療法概論の一環として病院見学実習があるが,1学年でも評価の場面や治療を経験できるように,これらの情報を現場へ提供していく必要性も感じた. 加えて,「先輩」を意識する傾向が強かったため,先輩からの発表を吸収しようとする意思を前提に学ぶという姿勢になっているのではないかと考える.また,今回の分析では「先生」というカテゴリーが遠かった.つまり,1学年では先生よりも先輩によって実習の青写真を形成しているのではないかと考える.これらの結果から,今回のセミナーは学生自身が自ら学び,先輩から感じ取る学習スタイルだということも分かった. 新設校が増え,卒業生も多い中,先輩が後輩をどう育てていくのか,今実践され始めたクリニカルクラークシップも1学年時より導入すべきではないか.また理学療法の臨床実習のスタイルも変革の時期ではないかと考える. 理学療法士を目指して少しずつ学び始めた学生が2年先の「先輩」を意識し,「知識不足」を心配している.「知識不足」は勉強を積み上げると解消されるが,「先輩」との対比から生まれる自身の未熟さをどう扱い,どう指導するのかという観点も忘れてはならないと考える.また教育方法の一つに先輩からの体験談などを学ぶ機会づくりやカリキュラムの構成を考慮することでより良い理学療法士の輩出を期待したいと思う.【理学療法学研究としての意義】 理学療法教育においてテキストデータから,学生の内部表象を探る試みは学生の教育方針の転換にも有用であり,今後の教育の発展に寄与するのではないかと考える.今回,1学年から先輩に意識しているという傾向を捉えた.今後の教育に生かし,指導の変革をしていくことに繋がる例だと感じる.