著者
竹村 明子 仲 真紀子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.211-226, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
55
被引用文献数
1

二次的コントロール(Secondary Control : SC)(Rothbaum, Weisz, & Snyder, 1982)とは, 状況に合わせて個人が変わる過程を表す概念であり, 集団主義的文化や高齢者心理の特徴を理解するために重要な概念として期待されている。しかし, SC概念は研究者ごとに捉え方が異なり, 研究結果の比較を妨げる障害となっている。本稿は, このようなSC概念に関する研究者間の一致・不一致を整理することを目的に, 関連研究のレビューを行った。その結果, 1) SCの概念構造に関して, 階層構造を想定する立場と単層構造を想定する立場があること, 2)一次的コントロール(Primary Control : PC)とSCの関係において, PCとSCと諦めの位置づけおよびPCとSCの区分基準, PCに対するSCの機能性に関する考え方に研究者間の違いがあること, などを見出した。さらに, 3)統制感の維持に焦点を当てる立場と状況との調和に焦点を当てる立場, 4)行動と結果の随伴性認知を必然と捉える立場と偶然と捉える立場, 5)SCの統制主体を自分以外と捉える立場と自分自身と捉える立場, などの考え方の違いにより想定されるSCの機能性が異なることを明らかにし, 今後の課題について考察した。
著者
竹村 明子 前原 武子 小林 稔
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-10, 2007-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
25
被引用文献数
6

本研究の目的は, スポーツ系部活参加の効果を, Nicholls (1992) の目標理論の枠組みにより, 明らかにすることであった。そのため, スポーツ系部活に参加する高校生 (部活群) 231名と, 部活に参加しない高校生 (非部活群) 200名とを対象に, 学業の目標志向性および適応 (無気力感・授業満足感) を測定し, 比較検討を行った。その結果, 部活群は非部活群に比べて, 課題志向性 (個人の能力の発達を目標とする志向性) および協同性 (仲間と協力することを目標とする志向性) が高いことがわかった。そして部活群は非部活群に比べて, 無気力感3因子のうちの自己不明瞭感が低く, 授業満足感が高いことから, 適応が良好であることがわかった。さらに, 部活群・非部活群ともに, 課題志向性が高いことは低い無気力感を説明することが, 一方授業満足感については説明できないことが明らかとなった。従って, スポーツ系部活は高校生の目標志向性および適応に対して概ね肯定的効果があることが明らかとなった。しかし, その効果は目標志向性の内容および適応の指標により異なるメカニズムをもつことが示唆された。
著者
竹村 明子 小林 稔
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.426-437, 2010-12-30
被引用文献数
1

本研究の主な目的は,親の家庭での関わりを規定する要因を明らかにすることであった。そのために,小学1・3・5年生の保護者525名を対象に,規定要因として親の動機づけ要因(効力感)および子育てに関して親が認知する家庭状況(時間や気力の心理的余裕,知識や技術の所有感,経済的余裕)を取り上げ,家庭での関わりの4側面(文化活動,勉強,しつけ,生活習慣)との関係について調べた。その結果,子と関わる時間や気力に心理的余裕がある,および子育ての知識や技術を持つと親が認知することが,親の家庭での関わりを説明することが明らかとなり,親が認知する家庭状況が親の関わりを規定する重要な要因であることがわかった。さらに,親として子に関わる効力感が高くても,時間や気力の心理的余裕または知識や技術の所有感が低いと親が認知する状況では,親の関わりが低下することが示唆された。また,子の放課後時に毎日不在と答える親は時間や気力の心理的余裕が低く,母子家庭の親は子育てに関する経済的余裕が低いことが明らかとなり,このような親の状況が間接的に親の家庭での関わりに影響していることが示唆された。
著者
竹村 明子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.176-185, 2010-06-30

本研究は,実践教育の効果を検討するため,自己決定理論(Deci&Ryan,1985)を基に,介護福祉士養成課程の学生の介護実習前後における自己決定性(内発調整・同一化調整・取入調整・外的調整)の変化と実習中の心理的欲求満足感(関係性欲求満足感・自律性欲求満足感・有能さ欲求満足感)との関係について,横断的研究方法(調査協力者117名)と縦断的研究方法(調査協力者110名)を用いて検討を行った。その結果,縦断的研究において,内発調整が実習後高くなることが見出され,介護実習は学生の介護への自己決定性を高めている可能性が示唆された。さらに,実習中の心理的欲求満足感が高いほど,特に利用者(高齢者)と良好な関係性を築けたという満足感が高いほど,内発調整および同一化調整が促進されることが見出された。介護のように人と関わることが重要となる分野では,実習中の利用者との関係が実習の効果に大きく影響することが示唆された。
著者
竹村 明子 仲 真紀子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.211-226, 2012

二次的コントロール(Secondary Control : SC)(Rothbaum, Weisz, & Snyder, 1982)とは, 状況に合わせて個人が変わる過程を表す概念であり, 集団主義的文化や高齢者心理の特徴を理解するために重要な概念として期待されている。しかし, SC概念は研究者ごとに捉え方が異なり, 研究結果の比較を妨げる障害となっている。本稿は, このようなSC概念に関する研究者間の一致・不一致を整理することを目的に, 関連研究のレビューを行った。その結果, 1) SCの概念構造に関して, 階層構造を想定する立場と単層構造を想定する立場があること, 2)一次的コントロール(Primary Control : PC)とSCの関係において, PCとSCと諦めの位置づけおよびPCとSCの区分基準, PCに対するSCの機能性に関する考え方に研究者間の違いがあること, などを見出した。さらに, 3)統制感の維持に焦点を当てる立場と状況との調和に焦点を当てる立場, 4)行動と結果の随伴性認知を必然と捉える立場と偶然と捉える立場, 5)SCの統制主体を自分以外と捉える立場と自分自身と捉える立場, などの考え方の違いにより想定されるSCの機能性が異なることを明らかにし, 今後の課題について考察した。
著者
竹村 明子 小林 稔 Takemura Akiko Kobayashi Minoru
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.215-224, 2008-08

本研究は,親子関係と児童の学習動機の関係について明らかにするために自己決定理論(Deci & Ryan, 1985)を基に,学習動機を4水準の自己決定性-内発調整(楽しいから勉強をする),同一化調整(大切なことだから勉強をする),取入調整(恥ずかしい思いをしないために勉強をする),外的調整(親や先生に言われるから勉強をする)-に分け,親子ペアを対象に児童の4水準の自己決定性と親との信頼関係および親の家庭での関わりについて調べた。先ず,小学3~6年生173名のデータを用いて,子が認知する親との信頼関係と4水準の自己決定性の間の相関分析を行った。その結果,親との信頼関係が良好と認知するほど児童の内発調整および同一化調整が高いことが明らかとなった。次に,親子ペア141組のデータを用いて,親の家庭での関わりと児童の4水準の自己決定性の間の相関分析を行った。その結果,①親が子への経済的支援を惜しまず,将来について会話するほど児童の自己決定性は高くなること,②親が子と伴に文化的活動に関わるほど児童の内発調整は高くなること,③親が子の生活習慣の形成に関わるほど児童の同一化調整は高くなること,などが見出された。