著者
道田 泰司 Michita Yasushi
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.147-153, 2003-03
被引用文献数
1

本研究では,大学1年時に読んだ文章と同じ文章を大学4年生に読ませ,読み方や考え方の変化およびその変化の原因が何だと本人たちは考えているかについて,インタビューを通して知ることを目的とした。考え方の変化に影響した事柄に関しては,次のことが言えるようであった。(1)卒論の影響をあげる人は多かったが,どういう点で影響を受けるかは人によって異なっていた。ただ,教員の批判的な言動の影響は全体的に大きいようであった。(2)友人関係も比較的多く言及された。(3)それ以外に,挙げられたものは多岐に渡っていた。(4)挙げられたものは,友人関係などの「日常的」体験と,論理的・批判的要素を含んだ「学校的」体験があり,両者の影響が排他的である可能性を示唆する発言があった。(5)学生の思考は,批判的かどうかは別にして,変化しないということはなく,本人が重視する方向にそれぞれ変化しているようであった。
著者
道田 泰司 Michita Yasushi
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.169-181, 2012-03

本稿の目的は,大学教員として中学生に心理学の授業を計画し,実施したプロセスを報告することである。授業は90分,18名の中学3年生を対象に行われた。テーマは盲点の錯覚を中心とした知覚心理学としたが,テーマをどのように設定し,授業をどのように構想し,実施したのか。生徒の反応はどうであったか。このような点について報告することで,今後の中等教育における心理学教育について考える基礎資料とするのが本稿の狙いである。実践を実施した結果,盲点を中心に実験体験を通し,自分たちでも考えながら心理学に触れることの有効性が確認された。今後の課題としては,講義時間の長さや考える時間の確保,意見表出の方法などの方法論的な部分が挙げられた。
著者
道田 泰司 Michita Yasushi
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.161-170, 2002-03

批判的思考を行うためには,「共感」や「相手の尊重」のような,soft heartが必要になることが論じられた。それは第一に,批判を行う前提として「理解」が重要だからであり,相手のことをきちんと理解するためには「好意の原則」に支えられた共感的理解が必要だからである。このことは,-聴して容易に意味が取れると思われる場合でも,論理主義的な批判的思考を想定している場合でも同じである。共感的理解には,自分の理解の前提や枠組みをこそ批判的に検討する必要がある。そのことが,臨床心理学における共感のとらえられ方を元に考察された。また,批判を行うためには理解の足場が必要であること,それを自分と相手に繰り返し行うことによって理解が深まっていくことが論じられた。最後に,このような「批判」を伴うコミュニケーションにおいては,「相手の尊重」というもう1つのsoft heartも重要であることが,アサーティプネスの概念を引用しながら論じられた。
著者
大城 貞俊 OSHIRO SADATOSHI
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.57-70, 2012-06

沖縄県が生んだ近代・現代を代表する詩人に山之口貘がいる。山之口貘は、戦前期の日本社会に残っていた負の遺産としての沖縄差別や貧困を、平易な日常語で詩の言葉として紡ぎ、ユーモアとペーソス溢れる詩世界を構築した。山之口貘の詩は、文科省検定の小学校、中学校、及び高等学校の国語科教科書で採用され紹介されている。また、沖縄県で作成された国語科副読本の中でも、代表的な詩教材として定着している。本論では、「差別」「偏見」「推敲」「言葉」「地域」「詩教材」「書くこと」などをキーワードに、山之口貘の詩を通して、地域教材がひらく可能性を考えてみた。山之口貘の詩には、言葉との格闘があり、同時に伝統的な言語文化の視点がある。また、「書くこと」の意義が具体的に伝わってくる。山之口貘の詩を学び、国語科教材としての授業展開を検討することは、グローバル社会における詩教材の可能性を考えることに大いに役立つものと思われる。
著者
前村 佳幸 Maemura Yoshiyuki
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
18世紀の宮古島一地方役人の"履歴書" : 「染地氏六世勤書」の料紙と様式 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
no.93, pp.25-40, 2018-09

We investigated an original "Tsutomegaki" document and compared it with similar transcriptions and historical materials from Miyako and Yaeyama islands, which had a different administration system from that of Okinawa island in the early modern era. Although Tsutomegaki (translated as "curriculum vitae" in English) were maintained in each family, it is fundamentally not classified as a private document, because in preparing and appending the document, the administrative agency of the island was involved. The Tsutomegaki we analyzed consists of three parts: (1) a statement on the person's position in his own distinguished lineage (e.g. Someji-uji) on the island, (2) a list of his official business and his career in chronological order, and (3) Okugaki, a part that includes his administrative executives' signatures and seals. In addition, there is a part for appending his career after the preparation of the document. This part is certified by the Zaiban, a first-grade official dispatched from the Shuri government. Furthermore, this study showed that the paper material used in making the document is Kazinoki (Broussonetia papyrifera), or Kozo, which does not have loading material like rice glue. This was revealed by analysis using C dyeing solution based on JIS-P8120/8-2-2technique. The micrographs of the paper fiber and the photographs of a magazine for which the scrap papers of the original document were used as book covers are inserted in this article.
著者
道田 泰司 Michita Yasushi
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.333-346, 2004-02

本稿では,批判的思考が良い思考であるのかどうかについて,意思決定と問題解決に焦点を当てて検討した。まず,すぐれた意思決定はきわめて批判的思考的であり,創造的な問題解決には,批判的思考的な技能が活かされていることが確認された。しかし,潜在的意思決定や暗黙の前提の存在を指摘することは,他者には受け入れられがたいことも多く,問題解決から離れる可能性のある,必ずしも良いとはいえないものであることが指摘された。これらは「解決・評価志向」と「探究志向」の批判的思考という枠組みで考察され,批判的思考の持つ「良さ」と「良くなさ」の2面性について論じられた。
著者
緒方 茂樹 相川 直幸 Ogata Shigeki Aikawa Naoyuki
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.361-379, 2004-02
被引用文献数
1

精神生理学的なアプローチの方法を、学校教育現場などのような実践場面すなわち、実験室以外のフィールド場面に応用していくことは、今後の教育分野の科学的な理論構築を考えていく中で新たな可能性をもつと考えられる。本報告では将来的にこのようなフィールドワークを行う際に必要な方法論的な工夫のひとつとして、特に子どもや発達障害児を対象にした場合を想定しながら、artifactsの除去という面から重点的に検討を加えた。その結果、従来的な各種フィルタリング(アナログフィルタと移動平均)の手法によるartifacts除去に関わる課題を指摘し、特に障害児を対象とした記録で混入が予想される「体動および筋活動電位によるartifacts」については、直線位相FIRデジタルフィルタを当てはめることで、視察的な面からみて十分に除去することが可能であることを明らかにした。さらにこのFIRデジタルフィルタについて、脳波波形認識法に関わる前処理としての有効性についても検証し、今後のアルゴリズム簡略化の可能性を示した。将来的なフィールドワーク、特に障害児教育への精神生理学的研究の応用に当たっては、この方法論はきわめて有効な手段のひとつとなりうると考えられる。
著者
砂川 力也 福地 修也 Sunakawa Rikiya Fukuchi Shuya
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.121-129, 2020-02

本研究は,長距離ランナーを対象に短期的なレジスタンストレーニングの介入が走パフォーマンスに与える影響を明らかにすることを目的とした.被験者は,長距離走を専門とする健常な男子大学生9名(Tr群:5名,Cnt群:4名)であった.測定は,5000m走(平均速度,平均ストライド長,平均ストライド頻度),最大挙上重量(スクワット,デッドリフト),最大無酸素パワー,CMJおよびRJとし,それぞれトレーニングの前後で計測し,その変化を比較した.レジスタンストレーニングは,スクワットおよびデットリフトを週2~3回の頻度で6週間実施した.トレーニング負荷は60%1RM×10レップ×3セットとし,トレーニング期間中に10レップ以上の挙上が可能になった場合は状況に応じて負荷を漸増させた.その結果,両群ともに5000m走のタイムに変化は見られなかったものの,Tr群においてトレーニング後に最大筋力,パワー,SSC能力の有意な向上が認められたことから,ランニングエコノミーの向上に寄与する可能性が考えられた.しかし,直接的な影響を与えられなかった要因として有酸素性能力の改善も同時に考慮したトレーニング計画の必要性が示された.
著者
平良 勉 金城 文雄 濱元 盛正 大城 喜一郎 伊野波 盛一 古堅 瑛子 Taira Tsutomu Kinjo Fumio Hamamoto Morimasa Oshiro Kiichiro Inoha Seiichi Furugen Eiko
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.169-175, 2001-03

健康の維持増進を目的とする中高年ジョガー8名を対象に、最大酸素摂取量とマラソン走行時の消費エネルギーと運動強度を測定、またアンケートによる日常のトレーニングの実態を調査、以下のような結果を得た。1.最大酸素摂取量は相対値で平均39.4ml/min・kg(±8.90)で、健康維持のための目標値を1例を除きほぼクリアしていた。2.日常のトレーニング処方は、強度、頻度、時間ともにアメリカ大学スポーツ医学協会が示す基準の範囲内であり、適切であった。3.マラソン走行時の消費エネルギーは、全被験者の平均,168.8kcal(±721.8)であり、競技を目的とするエリートランナーの消費エネルギーより高い値であった。このことは、マラソン走行時間は平均4hr41minでエリートランナーに比べ長時間であることによるものと推定された。4.最高心拍数を基準とする平均運動強度は90.2% of HRmax,85.6% of HRmaxRであり、また、最大酸素摂取量を基準とする平均強度は87.4% of Vo2maxで他の報告に比べやや高い強度であった。5.分時消費エネルギーは平均11.1kcal(±2.29)でVery heavyで、完走のみを目的とする市民マラソンであってもかなり高い強度であった。
著者
道田 泰司 Michita Yasushi
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.181-193, 2003-09
被引用文献数
2

本稿では、論理学における論理(的)の意味の検討から出発し、日常的にも利用可能な論理(的)のイメージが検討された。論理を「一本道」「防衛力」と理解することが有用であることが示された。また、論理的思考が、論理性という目標をもった批判的思考であることが論じられた。最後に、論理の不自然さや、相手にする他者の問題が検討され、それらを念頭において、論理的になるための方策が示唆された。
著者
宮國 泰史 福本 晃造 佐藤 洋俊 大塩 愛子 杉尾 幸司 Miyaguni Yasushi Fukumoto Kozo Sato Hirotoshi Oshio Aiko Sugio Koji
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.179-187, 2018-02

現在の教育現場ではICT やデジタル教材の導入・活用が求められる一方で,導入検討の際に重要となるはずの,同一のテーマに対するアナログ教材とデジタル教材が学習者にどの程度の学習成果量の差を生むかに対する情報の蓄積は不足している.本研究では,論理的推論を育成する知育パズル玩具「Chocolate Fix」について,学習者が実物のパズルピースに触れて課題を解く従来型のアナログ玩具と,同じ課題をiPad のデジタルアプリケーションとして画面上で体験するデジタル玩具の二種類を用意し,この二種類のパズル玩具を用いた公開講座を小・中学生を対象に実施した.公開講座において受講生が規定時間内に解いた問題数を記録し,インターフェースの違いに対する受講者の学習成果量の差を比較した.また,受講生及びその保護者に対して実施したアンケートから,教材のインターフェースの違いに対する受講者の意識・感想の抽出にするとともに,教育現場におけるICT 機器の導入に対する保護者の意見を抽出した.調査の結果,受講生のiPad アプリ版の回答数と実物版の回答数と統計上有意な差は見られなかったものの,アナログ玩具での回答数がデジタル玩具での回答数を上回る傾向があった.一方で,「どちらをもう一度やりたいですか?」という設問に対しては,受講生の内9名はデジタル玩具を指向するなど,学習成果量と受講生の興味が必ずしも一致しない傾向がみられた.これらの結果をもとに,教育におけるICT 機器導入の有用性について議論する.
著者
戸崎 敬子 Tozaki Noriko
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.205-216, 2006-03

The purpose of the present study was to clarify the status of special classes in Okinawa Prefecture described in the reports of four national surveys of special classes, run by the Ministry of Education in Taisho Era. Those surveys were done by the School Health Department and the Social Education Department of the Ministry in the years 1923 to 1926. In the reports, we can find some information about special classes in Okinawa Prefecture in those days. The information includes not only the number of schools which had the special classes, the number of special classes and pupils in the classes, but also the details of the case of special classes in Asato Elementary School. This paper analyzed the description connected with Okinawa Prefecture in the four reports. The results were as follows: (1) There were some special classes in Okinawa Prefecture during the prescribed timet (2) the classes were organized based on the grades in main subjects of pupils, and (3) the average number of pupils per class was more than 50.
著者
戸崎 敬子 Tozaki Noriko
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.15-23, 2007-01

The purpose of this paper is to explore the first case of educational practice for children with disabilities in Okinawa Prefecture. It was a class specifically targeted at children with visual or hearing disabilities and was developed in Tokeshi elementary school by Ishun Yonamine, the principal of the school at the time. This paper attempts to clarify the actual status of the class, using mainly a report by Yonamine, which was found recently in an old issue of educational magazine. The report was based on his experiences with educational practice for children with visual or hearing disabilities. The results of this study were as follows; 1) It is likely that the practice of special class started in 1906, because the head of Nakagami County ordered Tokeshi elementary school to decrease the children who could not enter school and Yonamine had been much interested in educating these children with special needs. 2) The students of the class were those with visual or hearing disabilities in the school district, and 3) The class was closed down in 1908 when Yonamine went to Tokyo to study education for children with visual or hearing disabilities. While he was studying in Tokyo, he was forced to transfer from Tokeshi elementary school to a different school.Therefore, the class existed only for nearly two years.
著者
與儀 峰奈子 與儀 峰奈子
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.95-108, 2001-03

非言語情報伝達(nonverbal communication)は、顔の表情、頭の動き、視線、対人間距離、手の動き等を通じて表され、コミュニケーション活動において極めて重要な役割を担う。なかでもジェスチャー(身振り)は様々な角度からの研究がなされており、その意味や機能が解明されつつある。教室における教師と生徒間のコミュニケーションにおいても、多種多様なジェスチャーが観察される。本論文では、特に教師の用いるジェスチャーに焦点を当て、効果的で生徒の興味を引き付ける授業を行うためにはどのようなジェスチャーが有効であるかを考察する。分析対象は沖縄在留米軍基地内の小学校で行われた1年生対象の道徳の授業で、約1年間にわたりビデオ録画を行った。教師はスクールカウンセラーで、ジェスチャーを効果的に用いながら非常に魅力的な授業を展開した。本稿では、具体的にどのようなジェスチャーが用いられ、それがどのような意味を持ち、どのような機能を果たしているのかを分析・考察した。そして、授業内容を理解させるという目的だけでなく、低学年児童の興味と集中力を持続させ教室に規律を保たせるためにもジェスチャーが有効であることが観察された。