- 著者
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笠原 政治
- 出版者
- 横浜国立大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2000
森丑之助は1890年代の後半以降,20年間近く台湾山地先住民族(現在の正式名称は「台湾原住民」)の実地調査を行った人物である。台湾研究の開拓者であり,日本における文化人類学の先駆者であるが,今日の学界ではその名前はほとんど知られていない。単行本として出版された写真集『台湾蕃族図譜』(1915年),タイヤルの民族誌『台湾蕃族志第一巻』(1917年)を含めて,その著作を日本で入手することが甚だ困難になっている。本研究では,森丑之助の著作の収集とデータベース化,森研究に関する現地(台湾)研究者との意見・資料の交換を進めるとともに,『森丑之助著作集』(仮称)の編集・刊行に向けて一連の準備作業を行った。森の著作については,単行本,学術雑誌や旧台湾総督府関係の雑誌への掲載稿などのほかに,当時の地元紙『台湾日日新報』にもかなりの点数を寄稿していたことが同紙のマイクロフィルム版から判明したので,それらを含めて目力作りと入力に努力した。また,いま台湾では,森の著作の一部が中国語訳され出版されたため,森丑之助とその研究業績が広く注目を集め始めている。本研究では,森の研究の全体像と把握と併せて,中国語への翻訳者及び地元の研究者たちとも十分な意見交換を行い,森の研究に関する国際的評価を高めるための方向も摸索してみた。現在予定中の『著作集』が上梓されれば,森の業績は改めて正当な認知を受けるであろう。そして,森という人物を通して,日本文化人類学の黎明期に新たな光が当てられるものと考えられる。