著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

神経堤細胞は末梢神経系をはじめとする多く種類の細胞する能力をもった細胞であり、初期発生過程で神経板(中枢神経系原基)と皮膚原基の中間から発生する。我々はこの発生過程で「神経堤という領域性を決定する因子」としての転写因子FoxD3の役割をアフリカツメガエルの系を用いて明らかにした。FoxD3はWinged-helix型の転写因子で、上述のChordinとFGFで誘導されるcDNAの系統的スクリーニングで単離された。神経堤発生の極めて初期から神経堤特異的に発現していることが明らかとなった。未分化外胚葉(アニマル・キャップ)細胞にFoxD3を強制発現することで神経堤細胞マーカーSlug, Twistなどが誘導された。ドミナント・ネガティブFoxD3による機能阻害実験では、神経堤細胞の分化が強く抑えられた。このことはFoxD3が神経堤細胞分化決定のマスター遺伝子の一つであることを示している。カエルで単離した神経堤細胞の決定因子FoxD3について、マウス・ニワトリ胚のホモローグの単離と発現分布解析を詳細に行った。結果、FoxD3は哺乳類、鳥類においても極めて早い段階から予定神経堤細胞領域に発現し、Slugの発現より早くから出てきていることが明らかとなった。FoxD3の発現調節を詳細に検討するため、マウスES細胞から神経堤細胞への試験管内分化系を確立を試み成功した。現在、これを用いた詳細な遺伝子相互作用を解析中である。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

代表研究者らはアフリカツメガエルの系を用いて、核内ZnフィンガータンパクTsh3が初期胚体軸極性を制御する必須因子であることを見いだした。Tsh3の機能阻害では、背側体軸の形成が著しく阻害され、腹側化した胚が発生する。機能亢進及び機能阻害実験からWntシグナルを細胞内で活性化することが明らかになった。Luciferaseアッセイから、Tsh3はs-cateninによる核内での標的遺伝子の発現活性化を促進することも判明した。タンパクレベルの解析から、Tsh3はs-cateninに結合し、直接あるいは間接的にその活性を正に制御することがその機序であることも示唆された。Tsh3はsperm entryによって誘導された背側での弱いWntシグナル活性をブーストして、明確な体軸形成につなげる増幅系に関与している可能性が高い。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

神経誘導因子Chordinを作用させた未分化外胚葉とさせていないものとを用いてデファレンシャル・スクリーニングを行い、Chordinで誘導される多数の神経特異的遺伝子を単離した。そのうち3つの転写因子(Zic-related 1,Sox-2,Sox-D)はこれらはごく初期の神経板全体に発現していた。アフリカツメガエルのアニマル・キャップを用いた微量注入法の解析の結果、Zic-related 1,Sox-Dは単独で外胚葉の神経分化を誘導することが明らかとなった。これらは神経分化のごく早い時期にChordinの下流で働くエフェクターとして働き、proneural genesの上流で働くことが示唆された。一方、Sox-2は単独では働かず、FGFと協同的に働いて神経分化を誘導し、コンピテンスを変化させる因子と考えられた。現在、これらの因子とともに、さらに他の多くの単離された因子の活性を詳しく検討中である。このように神経誘導の初期に働く転写因子が複数同定された。それらは必ずしも重複したものではなく、神経発生での役割に違いが認められた。さらに詳細な遺伝子間相互作用を検討するために野生型、ドミナント・ネガチィブ変異体のGR融合型の転写因子を作成することに成功したので今後これらを用いて解析を進める。さらに哺乳類培養細胞の系をもちいて試験管内での神経分化制御を可能にすべく、未分化胚細胞ES細胞などにこれらの因子を遺伝子導入し、その効果を判定中である。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

微細なパターン形成に関与するChordinの下流因子の機能解析として我々は昨年報告したChordinの下流因子の機能解析を行うためのドミナンlへ・ネガチィブ変異体を作成し、mRNA微量注入法により胚での神経発生における機能を検討した。SoxDのドミナント・.ネガチィブ変異体を強制発現させ機能阻害をすると、胚の大脳の発生が顕著に抑制され、OTXなどのマーカーも抑えられた。このことはSoxDが大脳原基の発生に必須であることを示した。また、脳及び頭部外胚葉の「微細なパターン形成」に関与する新しい因子の同定を目的として脳及び頭部外胚菓の形成期の細胞間や組織間の「ローカルなトーク」を媒介する因子を同定しようとした。中期神経胚の頭部神経板よりこうしたシグナルトラップcDNAライブラリーを作成し小スケール・スクリーニングを行った結果、十数個の新しい神経特異的分泌因子(または膜蛋白)を同定したがFloor Plate特異的に発現している新規の分泌因子はSonic Hedgehogと同じぐらい早期より発現していた。この因子KielinはChordinと弱い相同性を示したが生物学的活住は全く兄なっていた.KielinはChordinとShhで誘導され、正中部のパターン形成に関与するらしいことがわかってた。さらにCyclopsというTGF-beta系の因子でも誘導された。この因子を発現ベクターに組み込み、現在さらに詳しい検討を進めている。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1998

神経予定外胚葉はまず中枢神経系原基である神経板と末梢神経原基である神経堤細胞とに分画化される。中枢神経原基・神経板は発生のごく初期に吻尾方向と背腹方向の2軸に沿って大きく分画化され、いわゆる領域特異性を獲得する。吻尾方向には大脳・間脳、中脳、後脳、脊髄が大きく区分され、背腹軸では背側(翼板)、腹側(基板)、中間部に区分される。それぞれの領域には特異的な分子マーカー(ホメオボックス遺伝子など)が既に同定されており、それらを用いて神経細胞がどの領域特異性を獲得したかを判定することが原則的に可能である。しかし、この領域特異性の上流にあって、その個性付け獲得を制御している因子については多くが不明のままである。そこで、領域特異性の上流にある神経分化の個性付け因子を系統的に遺伝子スクリーニングすることを行った。まず初期神経板で働く領域特異的分泌タンパクを系統的にシグナル・シーケンス・トラップ法によって用いて、アフリカツメガエルの系で神経管の背側に位置する非神経外胚葉に早期から発現する新規の分泌因子Tiarinを単離に成功した。H15年度は単離したマウスおよびニワトリホモローグを用いて、これちの種での機能について強制発現を用いて解析し、神経提細胞の産生促進効果を観察した。また、現在2種類のマウス関連遺伝子に関して遺伝子破壊法で機能阻害研究を進めている。研究の促進のため、ES細胞から神経前駆細胞を分化させ、これを用いた試験管内神経パターン形成のアッセイ系を確立した。この系を用いて末梢神経系を含む神経提細胞のES細胞からの分化に世界で初めて成功した。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

脊椎動物の中枢神経系は領域特異的に背腹軸に沿った極性を有している。背側領域の中枢神経組織の発生制御解析は腹側領域に比して遅れている。中枢神経系背側領域の初期決定に関わる分泌性シグナルの分子実体と誘導源の解明のため、我々はこれらの観点からアフリカツメガエルの系を用いてスクリーニングを行い、前脳を含めた中枢神経系の背側領域の分化を誘導する新規分泌性シグナル因子Tiarinを同定した。本研究では、Tiarinによる中枢神経系の背側領域分化誘導の制御機序を胚・細胞レベルで明らかにするため、Tiarinタンパクがどのようなシグナル伝達系の活性化または抑制によって、細胞分化を制御しているかを明らかにした。まず、Tiarinは既存の背腹軸に関与するシグナル(Shh, Wnt, BMP)との強い相互作用によって働くのかを検討した。その結果、これらのシグナル因子と物理的な結合や受容体の競合などの直接的な相互作用は認められなかった。さらなる細胞内シグナルの検討から、Tiarinとこれらの因子のクロストークは下流シグナルのレベルのみに認められることが判明した。シグナル解析のためにはTiarinタンパクの大量作成が必須であり、293細胞を用いてmg単位の産生に成功した。このタンパクを用いての結合実験から、受容体の多く発現する細胞を複数同定した。プルダウン法により、結合膜タンパクを精製し、複数の候補タンパク質をプロテオミクス的手法によって選別した。さらにTiarinのファミリー遺伝子をニワトリ胚およびマウス胚より複数単離した。そのうちマウスのmONT3について発現解析をノックイン法で行い、神経系や中胚葉組織などの特異的な発現を検出した。ニワトリのcONT1はニワトリ胚での強制発現で神経堤細胞の産生が亢進することを見いだした。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

哺乳類を含めた脊椎動物の神経系発生の開始スイッチを入れる分子は何か?という問いに答え、複雑な脳の構成原理に迫ることを目的として以下の研究を行った。神経誘導因子Chordinを用いてアフリカツメガエルの外胚葉を神経細胞に試験管内で分化させ、その際に誘導される遺伝子をデファレンシャル・スクリーニングによって単離し、3つの神経特異的転写因子(Zic-related 1,Sox2,SoxD)を同定した。mRNA微量注入による強制発現実験ではこれらの因子は神経分化を正に制御することが明らかになった。ドミナント・ネガティブ法による機能阻害実験ではSox2,SoxDは神経分化に必須の因子であることが証明された。さらに、スクリーニングを進めてさらに多くの神経誘導因子の下流遺伝子を単離した。初期発生制御因子として特に興味深いものとして、神経堤細胞特異的な転写因子FoxD3を同定した。FoxD3はWinged helix型の転写因子で、原腸胚期の半ばより予定神経堤領域に強く発現していた。mRNA強制発現により、FoxD3は未分化外胚葉細胞からSlug,twist,Ets-1などの神経堤細胞特異的マーカーの発現や色素細胞を誘導し、神経堤細胞を分化させることが判明した。現在、ドミナント・ネガティブ法による機能阻害実験で詳しくin vivoでの役割を検討している。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は初期の神経細胞に微細なパターンを与える分子的実体を明らかにし、神経系の発生分化制御の研究に寄与することを意図したものである。(1)脳及び頭部外胚葉の「微細なパターン形成」に関与する新しい因子の同定脳及び頭部外胚葉の形成期の細胞間や組織間の「ローカルなト-ク」を媒介する因子は主として分泌因子や細胞膜蛋白などであるため、最近米国の企業の研究所で開発されたシグナルペプチドを持つcDNAを酵母を用いて迅速に単離する方法でスクリーニングすることができる。中期神経胚の頭部神経板よりこうしたシグナルトラップcDNAライブラリーを作成し小スケール・スクリーニングをおこなった結果、すでに十数個の新しい神経特異的分泌因子(または膜蛋白)を同定した。現在、これらの因子の生物活性を詳しく調べるとともに、さらに大スケール・スクリーニングをおこなっている。(2)「微細なパターン形成」に関与するChordinの下流因子の同定神経誘導因子Chordinを作用させた未分化外胚葉を用いてデファレンシャル・スクリーニングを行い、多数の神経特異的遺伝子を単離した。そのうち3つの転写因子(Zic-related 1,Sox-2,Sox-D)はこれらはごく初期神経板全体に発現しており、それらの因子の活性を検討中である。
著者
河崎 洋志 笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

近年、ショウジョウバエを用いた分子遺伝学的研究やアフリカツメガエルを用いた分子発生生物学的研究により、未分化外胚葉から未成熟神経組織にいたる初期神経発生の分子機構が急速に明らかになってきた。次の主要な問題点は、1)哺乳類の初期神経分化の分子機構と2)様々な成熟神経細胞への分化決定機構の解明である。我々はこれらの問題点を、哺乳類未分化胚性幹細胞であるマウスES細胞を用いて解析を進めてきた。まず、試験管内でES細胞を神経細胞へと分化誘導する活性をスクリーニングした。その結果、ES細胞をマウスPA6ストローマ細胞と共培養することにより、ES細胞を効率よく神経細胞へと分化誘導できることを見出し、このPA6細胞の神経分化誘導活性をSDIA(stromal cell-derived inducing activity)と名付けた。SDIA法を用いると、90%以上の細胞が、nestin陽性神経前駆細胞もしくはclass IIIβ-tubulin陽性成熟神経細胞へと分化した。また、BMPは神経細胞への分化をほぼ完全に阻害し、逆に表皮組織への分化の促進したことから、哺乳類においてもBMPは未分化外胚葉から神経・表皮への分化制御を行っていることが示唆された。SDIA法により、いかなる種類の成熟神経細胞が分化誘導されるか検討したところ、約30%がチロシン水酸化酵素陽性であった。これらの神経細胞はドーパミン-β-水酸化酵素を発現せず、また、培養液中にドーパミンが検出されたことから、機能的なドーパミン産生神経細胞であることが明らかとなった。SDIA法により分化誘導した神経細胞を、パーキンソン病モデルマウスの線条体へ移植したところ、2週間にわたり生着していることが明らかとなった。以上のように、SDIA法を用いた試験管内分化誘導は、1)ES細胞から成熟神経細胞へといたる分化過程の解析、および2)細胞移植治療への臨床応用を視野に入れた有用神経細胞の産生に有効な手法である。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では初期胚、特に神経系のパターン形成の分子機構を解明するため、Znフィンガー型転写因子およびそれらの関連遺伝子ネットワークの前脳・中脳発生における役割について、アフリカツメガエルを用いて研究を行った。XSa1Fは中枢神経系の吻側領域の決定因子であることを以前に証明したが、本研究ではさらにXSa1Fに拮抗するZnフィンガー型転写因子としてXTsh3を同定し、カエル胚(尾芽胚)の尾側中枢神経系に特異的に発現し、同部位の発生を促進することを見いだした。微量注入法により、XTsh3を外胚葉に強制発現すると神経系を尾側化し、前脳の発生を抑制した。逆にXTsh3-MOによる外胚葉での機能阻害では、前脳の拡大を誘導した。細胞内シグナル解析により、XTsh3はWnt/beta-catenin系を促進することが明らかとなった。XTsh3はbeta-cateninおよびTcf3と結合し、Wntシグナルによる核内転写の強化因子として働くことを証明した。そのことと一致して、中内胚葉でのXTsh3-MOによる機能阻害では、原腸胚での背側軸形成が強く抑制され、胚全体の腹側化が観察された。既に報告していたXSa1FによるWntシグナルに対する反応性の低下に加え、今回の研究ではTsh3が反対の活性を持ち、機能的な拮抗因子として働くことが判明し、XSa1F-Tsh3という2つのZnフィンガー型転写因子によって、細胞のWntシグナルへの反応性が正負に制御される機構が初期胚の軸形成に決定的な役割を果たすことが明らかとなった。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、哺乳類初期胚における神経外胚葉への分化の制御機序を明らかにするため、多能性幹細胞の試験管内分化系を用いて、この過程を制御する2つのZnフィンガータンパクの機能を解析した。まず、XFDL156のマウスのホモローグであるmZfp12を単離し、mZfp12の強制発現が、ES細胞からの中胚葉分化を抑制し、神経分化を促進することを明らかにした。さらに、新規のスクリーングでZfp521を単離し、これが未分化外胚葉から神経前駆細胞への分化に必須の遺伝子であることを証明した。
著者
椙村 益久 大磯 ユタカ 笹井 芳樹 長崎 弘
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

申請者は最近、プロテオミクス解析などの手法を用いて病態の詳細が未だ不詳であるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎(LINH)の新規病因自己抗原候補76kD蛋白を同定した。本研究では、LINH における76kD蛋白の自己免疫機序への関与、及び76kD蛋白のバゾプレシン(AVP)分泌機構障害への関与を検討した。76kD蛋白をマウスに免疫し、下垂体の炎症を示唆する所見が得られた。また、マウスES細胞よりAVP産生細胞(ES-AVP細胞)を選択的に分化誘導し、ES-AVP細胞で76kD蛋白を発現が認められ、76kD蛋白のAVP分泌への関与が考えられた。