著者
箭内 匡
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.180-199, 2008-09-30 (Released:2017-08-21)
被引用文献数
1

本稿は、人類学的実践を言葉のみならずイメージの実践として再考しつつ、そうした「イメージの人類学」の中で、民族誌映像(写真、映画、ビデオ)の役割を考えることを提案するものである。ここでイメージとは、我々の意識に現前するすべてを指し、例えば人類学者のフィールド経験のすべては、一つのイメージの総体と見ることができる。民族誌映像は、こうしたフィールド経験のイメージ(より正確には、それに近いもの)の一部を定着させ、言葉による人類学的実践が見えにくくしてしまうような経験の直接的部分を我々に垣間見せてくれる。そうした視角から本稿でまず考察するのは、マリノフスキー、ベイトソン、レヴィ=ストロースの民族誌写真であり、そのショットの検討を通じ、各々の理論的実践がその下部で独自の「イメージの人類学」によって支えられていることを示す。そのあと、フラハティ、ルーシュ、ガードナー、現代ブラジルの先住民ビデオ制作運動の作品を取り上げ、映像による表現が、言葉による人類学が見逃してきたような民族誌的現実の微妙な動きや質感、また調査者と被調査者の間の関係を直接的に示しうることを示す。このように「イメージの人類学」を構想し、その中で民族誌映像の役割を拡大することは、「科学」と「芸術」が未分化な場所に人類学を引き戻し、それによって言葉による人類学的実践をも豊かにするであろう。
著者
箭内 匡
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.223-247, 1993-12-30

この論文は,チリ南部に住む先住民マプーチェの一老人のある語りの分析を通じて,今日のマプーチェの信仰に対する疑い,そんな疑いを持っていた頃にみたきわめて印象的な夢(「ヘリコプターの夢」),そしてその夢の本当の意味を理解するに至った数年前の儀礼での出来事,を回想する。筆者はまず,この語りの部分部分が喚起するイメージの連鎖と,全体の中で反復されるイメージを追ってゆくことにより,この語りが目指しているマプーチェ的な「真実」の全的な反復を跡付けする。そのあと,そうした反復の試みの中に含まれている差異を引き出して,老人の思考の中の新しいものを表出させる。筆者は,彼の思考の中にみられる,こうした伝統との間の差異と反復の運動を,今日,マプーチェの人々が自らの伝統を生きている姿の一端を示すものとして提出したい。
著者
箭内 匡
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.180-199, 2008-09-30

本稿は、人類学的実践を言葉のみならずイメージの実践として再考しつつ、そうした「イメージの人類学」の中で、民族誌映像(写真、映画、ビデオ)の役割を考えることを提案するものである。ここでイメージとは、我々の意識に現前するすべてを指し、例えば人類学者のフィールド経験のすべては、一つのイメージの総体と見ることができる。民族誌映像は、こうしたフィールド経験のイメージ(より正確には、それに近いもの)の一部を定着させ、言葉による人類学的実践が見えにくくしてしまうような経験の直接的部分を我々に垣間見せてくれる。そうした視角から本稿でまず考察するのは、マリノフスキー、ベイトソン、レヴィ=ストロースの民族誌写真であり、そのショットの検討を通じ、各々の理論的実践がその下部で独自の「イメージの人類学」によって支えられていることを示す。そのあと、フラハティ、ルーシュ、ガードナー、現代ブラジルの先住民ビデオ制作運動の作品を取り上げ、映像による表現が、言葉による人類学が見逃してきたような民族誌的現実の微妙な動きや質感、また調査者と被調査者の間の関係を直接的に示しうることを示す。このように「イメージの人類学」を構想し、その中で民族誌映像の役割を拡大することは、「科学」と「芸術」が未分化な場所に人類学を引き戻し、それによって言葉による人類学的実践をも豊かにするであろう。
著者
箭内 匡
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第47回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.53, 2013 (Released:2013-05-27)

この発表では、ジャン・ルーシュの仕事の全体(民族誌映画のみならず、民族誌的・社会学的著作、劇映画、エスノフィクション映画、教育的活動など)、そしてその仕事の人類学内外への影響の全体を視野に入れつつ、近年多数公刊されてきたルーシュに関連する文献資料・映像資料を参照しながら、彼が「共有人類学」と呼んだものの根本的な特徴(友情、口頭伝承、メディア、生成、喜び)の描写を試みる。
著者
箭内 匡
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

原発被災とイメージの問題に関して、本発表では二つの作業を行う。第一の作業は、関連する様々なドキュメント(文字あるいは写真や動画映像によるもの)を検討しつつ、〈可視的なもの〉と〈不可視のもの〉の関係を、イメージ概念を軸にして考察することである。第二の作業は、本分科会の発表者の一人である武田直樹がつくば市で行ってきた、福島避難者支援のネットワークに関する映像記録資料について考察することである。