著者
篠原 由利子
出版者
佛教大学
雑誌
福祉教育開発センター紀要 (ISSN:13496646)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.37-52, 2015-03-31

精神保健医療福祉領域にあって、当事者の心理・社会的支援を深めていく視点として不可欠なものが生活者の視点であり、障害特性(生活のしづらさ)であることは言うまでもない。疾患や障害が医学的記述やチェックシートによって計測され、計量化される時代にあって、福祉支援は「生きづらさ」「付き合いづらさ」等々、生活面、人生面に及ぼす影響がどのようなものかという当事者理解はことさらに必要である。しかし体験を理解するのはなかなか難しいものである。当事者の体験記や教育教材も出版されつつあるが、この稿では映像(映画)による共感的理解の深まりの可能性を論じた。
著者
篠原 由利子
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 = Journal of the Faculty of Social Welfare (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-22, 2017-03

平成26年4月に施行された精神保健福祉法は,その改正の柱がわが国の精神科医療の性格を特徴づけている医療保護入院の改正をめぐるものであり,注目されてきた。治療医学における精神病や精神疾患という従来の枠組みに,精神障害者という障害概念が重なってきた現在において,国際的な障害者をめぐる動きは無視できない。国連等の障害者権利条約や,障害者差別禁止法,といった障害者の人権課題を問う趨勢,あるいはICF(国際生活機能分類)といった社会モデルが導入されるようになったことなどの影響が,精神保健福祉法にも及ぶに至り,「医療保護入院・保護者制度」の大幅な改変が期待されたのである。筆者は前回,昭和25年の精神衛生法から,精神保健法,そして精神保健福祉法改正にかけて,非自発的・強制的入院という性格から脱することのできなかった医療保護入院・保護者制度の論議をまとめた(1)。今回は平成21年度から,障害者権利条約の批准を意識した国内法の整備の観点から,特に権利擁護(代弁者)に焦点を当てて,平成29年度法改正に影響を及ぼすであろう主要な論議を整理し,わが国における精神科医療と精神障害者の人権について考察を加える。精神保健福祉法改正医療保護入院権利擁護非自発的入院代弁者
著者
篠原 由利子
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.15, pp.45-59, 2019-03-01

日本での精神疾患の治療は非自発的入院である医療保護入院から開始されることが多い。入院を望まない大多数の患者が民間単科精神科病院の閉鎖的な空間で入院期間を過ごすことになる。これら民間精神科病院では、いまだに医療法の特例許可により一般科より少ない基準の職員配置でよいとされている。ICFの定着、障害者の自立や完全な社会参加、差別禁止法など障害者の人権に関する国際的な動きが活発化しているなか、わが国で特に際立つのが非自発的入院の多さと精神科医療機関の閉鎖性である。このような環境の中では人権侵害が起きやすく、また現に起こってきた負の歴史がある。密室性や閉鎖性をはらむ精神科医療の人権侵害を監視し、適正な医療の提供を審査する機関が都道府県に設置されている精神医療審査会である。昭和63年の設置以来、時々の精神科医療の傾向と施策、あるいは人権意識の変化の影響を受けつつ幾度かの改正がなされたが、最近では機能不全をきたしているとの批判も少なくない。ここでは、これまでの改正内容をふり返りつつ、直近の平成25年の法改正以降もなお解決されていない人権擁護上の問題を明確にし、精神医療審査会が本来果たすべき人権擁護機関としての機能について論じていく。精神障害者の人権精神医療審査会医療保護入院
著者
篠原 由利子
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.16, pp.39-63, 2020-03-01

1950年代-1960年代にかけて日本政府はWHOに精神衛生全般の専門顧問を招聘した。戦前からほぼ手つかずであった精神衛生施策、精神医療に対する助言、指導を請うためであった。戦前から家族依存、民間依存であった精神障害者対策は、戦後に新しい精神衛生施策や精神医療の導入をめざすが、結局日本特有の民間依存の大規模な隔離収容施設の建設を食い止めることができず、現在なお精神病床の削減を果たせないままである。戦後日本の精神医療を振り返るとき、最後のWHO顧問となったデビッド・クラーク博士の勧告(1968年のクラーク勧告)をどう取り上げるかが一つの基軸となる。熱心で緻密な調査報告は、ことに当時の精神病院の状況を正確に分析している。それらはその後の施策に反映させるべきであった。しかし当時の厚生省が自ら招聘したにもかかわらず、その勧告を全く無視したといわれている。本稿では4度にわたるWHO報告に関連させて、戦後日本の精神医療を方向づけた1950年代から1960年代の精神衛生施策、精神科治療、学会等専門職団体の動きをふりかえり、日本の精神医療に今なお横たわる課題の歴史的検証をする。クラーク勧告戦後精神医療地域精神衛生公衆衛生施策