著者
篠原 由利子
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 = Journal of the Faculty of Social Welfare (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-22, 2017-03

平成26年4月に施行された精神保健福祉法は,その改正の柱がわが国の精神科医療の性格を特徴づけている医療保護入院の改正をめぐるものであり,注目されてきた。治療医学における精神病や精神疾患という従来の枠組みに,精神障害者という障害概念が重なってきた現在において,国際的な障害者をめぐる動きは無視できない。国連等の障害者権利条約や,障害者差別禁止法,といった障害者の人権課題を問う趨勢,あるいはICF(国際生活機能分類)といった社会モデルが導入されるようになったことなどの影響が,精神保健福祉法にも及ぶに至り,「医療保護入院・保護者制度」の大幅な改変が期待されたのである。筆者は前回,昭和25年の精神衛生法から,精神保健法,そして精神保健福祉法改正にかけて,非自発的・強制的入院という性格から脱することのできなかった医療保護入院・保護者制度の論議をまとめた(1)。今回は平成21年度から,障害者権利条約の批准を意識した国内法の整備の観点から,特に権利擁護(代弁者)に焦点を当てて,平成29年度法改正に影響を及ぼすであろう主要な論議を整理し,わが国における精神科医療と精神障害者の人権について考察を加える。精神保健福祉法改正医療保護入院権利擁護非自発的入院代弁者
著者
岡村 正幸
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 = Journal of the Faculty of Social Welfare (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.14, pp.75-95, 2018-03

本論文はわが国の精神保健医療福祉領域において1970年代以後,喫緊に求められる法制度改革について,国際的な脱施設化を軸とする精神科医療改革の進展を踏まえ,その基底となる目指す社会の構成について「多元的循環型社会」の視点から「暮しの場所とその質」を問う,まちなかケアについて明らかにしようとするものである。これらは筆者らがこの数年,取り組んできた「精神保健医療福祉領域におけるシステム要素の変更と軸の移動」という研究課題の次なる課題設定であり,いわゆる「脱施設化」から「脱制度化」論への進展を踏まえ制度,政策議論としては課題の緊急性の中,多様な参加者のもとなかな進まないわが国での議論の閉塞状態への新たな提案をもつものである。それは歴史的展開での諸外国における新たな精神保健医療福祉領域での「内」と「外」の議論と意味の解明であり,同時に後期近代における新たな価値,文化としての多様性や共生,包摂に関わる検討でもありその根底には近代社会の発展と共に常に内包される排除の論理をいかに克服するのかといった意図をもつものである。多元的循環型社会脱制度化排除の論理政治の時代まちなかケア
著者
佐藤 順子
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 = Journal of the Faculty of Social Welfare (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.13, pp.65-78, 2017-03

本稿は,2016年9月に筆者らが行った韓国におけるフードバンクシステムの調査結果の概要を報告することを目的としている。韓国では1998年から2年間のフードバンクモデル事業実施期間を経て,フードバンクに関連する法整備がなされた。その結果,全国フードバンク寄付食品中央物流センター,市・郡レベルの広域フードバンク,区レベルで施設,団体などや最終受益者(利用者)に提供を行う基礎フードバンクが設置されるという仕組みが構築され,フードバンクは住民にとって身近な存在となった。調査はソウル特別市内の広域フードバンク,社会福祉協議会の運営する基礎フードバンクおよび民間法人が運営するフードバンクについて行った。本稿では,その中でも基礎フードバンクを取り上げてその多様な活動を紹介し,利用者の選定基準,基礎フードバンク/フードマーケットにおける社会福祉士の役割などを中心に報告を行う。フードバンクフードマーケット社会福祉士利用資格国民基礎生活保障受給者
著者
村岡 潔
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 = Journal of the Faculty of Social Welfare (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.11, pp.101-108, 2015-03

本稿は,前回,前々回の隠謀学入門を受けて,人間のミクロ社会における不殺生の問題と,それをマクロの社会に展開した形で起こる戦争の問題を取り上げた。第1 節では,不殺生と輪廻説の関係ついて述べ,不殺生が行われることの隠謀学的機転と考えた。第2 節では,ベジタリアンと不殺生との関係を取り上げ,両者は決してパラレルではないことを論じた。第3 節と第4 節では,正義の戦争あるいは人道的介入戦争は存在するのかという命題に対して,アヒンサーの思想と対比させながら,小田実が指摘するように,そうした戦争は存在しえないことと,戦争自体が敵なのだという結論を提示した。隠謀学戦争正義不殺生戒アヒンサー
著者
朴 光駿
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 = Journal of the Faculty of Social Welfare (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.11, pp.79-99, 2015-03

The Homenyiin System combined with the public assistance implemented by the Japanese Government-General of Korea had disappeared just after the Nation Independence of 1945, but the System of that of Japan has existed till now. The paper attempts to explainabout that from the three points of view. The first explanation concerns that the Homenyiin System was originated by the Japanese indigenous culture, the region initiative development and the paternalistic atmosphere of the society, and it was quite different from that of Korea. The second explanation is relating to the personnel of the system, and the Korean members of Homenyiin was tended to be defined by the people as the national traitor. And the third one concerns that how the system relevant to the relief of poverty, the original aim of the public assistance. As far as in colonial Korea is concerned, the Homenyiin system was less relevant to the essential function of the poverty relief in Korea.HomenyiinSystemHistory of KoreanSocial WelfarePublic AssistanceComparative Social Policy
著者
朴 光駿
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 = Journal of the Faculty of Social Welfare (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.14, pp.133-152, 2018-03

本研究の目的は,朝鮮王朝の防貧・救貧制度である倉制度(還穀制度)が大規模化したことの説明を思想的観点から試みることである。倉制度は中国の産物であり法家的制度であったが,それを輸入した朝鮮王朝ではそれを全くの儒家的制度として解釈しており,それがその大規模化の一因をなしたことを明確にしたい。法家思想においても倉制度の目的の1つは飢饉の際に貯蔵穀をもって貧民を救済することにあったが,米価格の変動から農民の生活を安定化すること,勤勉で自立した農民を養成することがより重要な目的であった。ところが,儒家の影響がほぼ絶対的であった朝鮮王朝では,還穀はもっぱら国王の仁政を実現する手段として捉え,ほぼ全人民への穀物提供が日常化された。また,本研究は,還穀制度が大規模に実施されたことが,朝鮮社会の貧困観,民衆の貧困に対する態度,そして全体としての社会経済システムにどのような影響を与えたのかについても検討する。本研究は基本的には文献研究であるが,韓国で倉制度を専門的に研究してきた歴史学者からのヒアリング,そして韓国歴史研究会での研究報告と意見聴取などの研究方法を併用した。朝鮮王朝救貧政策倉制度環穀制度法家思想
著者
加美 嘉史
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 = Journal of the Faculty of Social Welfare (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.12, pp.27-50, 2016-03

本稿は戦前期の京都市に焦点をあて,「浮浪者」(ルンペン)対策の歴史的展開から戦前期日本の貧困の一側面を明らかにすることを目的としている。本稿では特に失業者の激増に伴って浮浪者問題が社会問題となった昭和初頭から日中戦争開戦前後を中心に京都市における浮浪者の実態とその対策について検討した。昭和恐慌期,失業問題が深刻化するなかで京都市では日雇労働者や浮浪者が増大した。市の浮浪者概況調査によると市内出身地はわずかで,その多くは若年失業者であった。失業問題の激化は日雇労働者などを浮浪化させ,市内流入を促進させていた。浮浪者の増加はその類型化に基づく対策の必要性を提起された。京都市では「準浮浪者」層に対する無料宿泊所が設置され,さらに「労働者更生訓練道場」での,精神的な訓練教化によって戦時体制へと移行する国家の人的資源提供の一端を担った。ルンペン救護法失業者準浮浪者惰民養成