- 著者
-
永和 良之助
- 出版者
- 佛教大学
- 雑誌
- 社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.19-36, 2008-03-01
介護保険の実施により高齢者介護事業は激変したが,本稿は,措置の時代から高齢者介護をほぼ一手に担ってきた社会福祉法人経営が,この介護保険の実施によりどのように変化したのかを明らかにする目的の下に著したものである。研究方法としては,公文書公開制度を活用し,社会福祉法人が経営する高齢者介護事業の内部資料を入手・分析する方法を採った。資料分析の結果,高齢者介護事業を営む社会福祉法人の多くが,介護保険実施以降,事業収入を大きく伸ばし,高利益を得,事業拡大していることが明らかとなった。だが,それは,人件費抑制,利用者のサービス経費の抑制によるものであり,これまでの「労働集約型産業」である社会福祉事業の姿を大きく歪めるものである。のみならず,かかる法人経営の高齢者施設(特別養護老人ホーム)では,利用者の生活は一層貧しくなり,介護職員の労働環境も荒廃していることを具体的に論証した。無論,すべての社会福祉法人が営利主義的傾向を強めているわけでも,利用者の生活が貧しくなり,介護労働が荒廃しているわけでもなL、。むしろ,介護保険になり,営利主義的社会福祉法人と非営利社会福祉法人の二極分化は,一層顕著になった。介護保険で「経営の自由」を得た社会福祉法人は,「自由」を得たがゆえに自己の本当の姿を露わにせざるを得なかったからである。本稿では,「経営の自由」を得た社会福祉法人(経営者)がその「自由」をどのように行使したかも論述した。本稿は,介護保険制度それ自体を論じるものではないが,社会福祉法人の経営変化,利用者の生活変化,介護労働の変化を通して,介護保険制度の持つ問題点にも言及している。