著者
篠崎 彰彦
出版者
九州大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:0022975X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1-25, 2005-08-27

本稿では、生産性の歴史と国際比較をもとに、人口減少下の日本経済を展望するための論点整理と実態把握を試みた。一般には、人口の減少を所与とすれば、経済成長は鈍化すると考えられるが、生産性の上昇率次第で「経済の縮小」は避けられる。また、高齢化を所与とすれば、生産性の停滞はやむをえないとみられがちだが、さまざまな創意工夫(全要素生産性)と新技術の導入(技術装備率)によって、それも克服可能である。2030年までの日本を射程した場合、人口減少と少子・高齢化は避けられそうにないが、基礎力を充分に発揮すれば、経済縮小と生産性停滞の悲観シナリオは回避できる。問題は、人口が増加し、平均寿命が短く、生産性上昇率がはるかに高かった高度成長期に形成された強固な再分配の構造にある。時代の変化に対応して分配の構造をうまく再設計しなければ、富を創造する力が削がれて悲観シナリオが現実のものとなり得る。
著者
篠崎 彰彦
出版者
内閣府経済社会総合研究所
雑誌
経済分析 (ISSN:04534727)
巻号頁・発行日
no.179, pp.36-54, 2007-08
被引用文献数
1

本研究は、全国9500社を対象に実施された平成15年度情報処理実態調査をもとに、どのような企業改革が具体的な情報化の効果に結びついているかを実証分析したものである。共通に回答が得られた3141社のデータをもとに、業務・組織体制面と人材面の企業改革が情報化の効果にどう関係しているかをロジット・モデル分析した結果、次の3点が明らかとなった。第一に、業務・組織体制面の社内見直しでは、内容によって集中化が効果的な場合と分散化が効果的な場合に分かれること、また、社内事務のペーパーレス化や重複業務見直しが効果をもたらしている一方で、組織上層部の権限や職務見直しは充分な効果が確認されないこと、第二に、社外と関連した業務や組織体制の見直しでは、商取引のペーパーレス化など一部の取組みで効果が確認されるものの、企業分割(取引の外部化)を伴うような事業の見直しや取引の打切りを伴うような企業間関係の見直しなど、ドラスティックな改革では情報化の効果との関係性があまり確認できないこと、第三に、人材面の対応では、社内研修、社外自己啓発の奨励など既存の従業員の教育やこれまでも取り組まれてきたアウトソーシングなどでは情報化の効果が確認できるが、中途採用や派遣社員など外部から組織内への人材移動は必ずしも効果に結びついていないことである。 これらを総合すると、情報化に際して、日本企業では、業務・組織面でも人材面でも、既存の仕組みの「恒常性」に大きな変化を及ぼすような企業改革の取組みは、必ずしも充分な効果に結びついておらず、情報化のメリットを充分に享受できない要因に「国本型」と形容される企業システムの特質が影響していることを示唆している。
著者
安浦 寛人 村上 和彰 黒木 幸令 櫻井 幸一 佐藤 寿倫 篠崎 彰彦 VASILY Moshnyaga 金谷 晴一 松永 裕介 井上 創造 中西 恒夫 井上 弘士 宮崎 明雄
出版者
九州大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2002

本研究では,システムLSI設計技術を今後の高度情報化社会を支える基盤情報技術ととらえ,システムLSIに十分な機能・性能・品質・安全性・信頼性を与えるための統合的な設計技術の確立を目指す.1.高機能・高性能なシステムLSIを短期間に設計する技術では,無線通信機能を有するシステムLSI設計技術の研究を行い,シリコンチップ上にコンパクトで安定なRFフロントエンドを実現するためにコプレナー線路を通常のCMOSプロセスで形成する技術を確立した.また,新しい可変構造アーキテクチャとしてSysteMorphやRedifisプロセッサを提案し,それに対する自動設計ツールとしてRedifisツール群を開発した.2.必要最小限のエネルギー消費を実現する技術としては,データのビット幅の制御,アーキテクチャの工夫,回路およびプロセスレベルでのエネルギー削減技術,通信システム全体の低消費エネルギー化設計手法などを構築した.3.社会基盤に求められる信頼性・安全性を実現する技術としては,安全性・信頼性を向上させるための技術として,ハッシュ関数や暗号用の回路の設計や評価を行った.また,電子投票システムや競売システムなどの社会システムの安全性を保証する新しい仕組みや,セキュリティと消費電力および性能のトレードオフに関する提案も行った.4.社会システムの実例として,個人ID管理の仕組みとしてMIID(Media Independent ID)を提案し,権利・権限の管理なども行えるシステムへと発展させた.九州大学の全学共通ICカードへの本格的な採用に向けて,伊都キャンパスの4000名の職員、学生にICカードを配布して実証実験を行った.本研究を通じて,社会情報基盤のあり方とそこで用いられるシステムLSIの研究課題を明示した.RFIDや電子マネーへの利用についても利用者や運用者の視点からの可能性と問題点をまとめることができた.