著者
大森 鑑能 細井 栄嗣
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.239-247, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
38

ブナ科堅果類は様々な野生動物の秋冬季の重要な食物資源であることが知られているが,被食防止物質としてタンニンを含んでいる.タンニンによる収斂性を測定し,その強さが異なるコナラ属のコナラ(Quercus serrata),クヌギ(Q. acutissima),アラカシ(Q. glauca)及びシイ属のツブラジイ(Castanopsis cuspidata)の4種を用いて,野生の哺乳類を対象にカフェテリア試験を行った.その結果,データ数が少なく断片的であるものの,タヌキ(Nyctereutes procyonoides)は収斂性の比較的強いコナラ属堅果よりも収斂性の弱いツブラジイの採食時間が有意に長かった.タンニンに対して唾液タンパク質などの生理学的な対応策を持つ堅果類消費者も報告されているため,タヌキをはじめとした中大型哺乳類に関しても,生理学的な研究を展開することが望まれる.
著者
大森 鑑能 阿部 奈月 細井 栄嗣
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.193-214, 2023 (Released:2023-08-03)
参考文献数
94

植物は消費者による摂食を回避するために様々な被食防御物質を含んでいる場合がある.そのひとつであるタンニンは渋みの成分であり,消費者に対してタンパク質の消化率を減少させたり,消化管に損傷を与えたりするなど有害な影響を及ぼす.しかしタンニンは植物界に広く分布しているとされながら,日本ではその分類学上の分布情報は限られていた.本研究は植物界におけるタンニンの分布をスクリーニングすることを目的として,117科349種の植物のタンニン含有率を調査した.その結果,哺乳類の採食記録のある植物を含む174種(49.9%)でタンニンが検出された.哺乳類のタンニンを含む植物資源に対する選択性や生理学的な応答については未だ不明な点が多く,今後哺乳類の詳細な食性研究と共に,植物と消費者間の相互作用に関する生理学的な研究の発展が期待される.
著者
松本 明子 井原 庸 油野木 公盛 細井 栄嗣
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.177, 2013 (Released:2014-02-14)

宮島には餌づけによって市街地周辺に約 500頭のニホンジカが生息する.島外との個体の移出入がない閉鎖個体群で,生息密度が高く餌資源制限の状態にあると考えられる.体格の小型化と成長の遅延がみられるほか,繁殖開始齢が上昇し多くのメスが 4歳以上で初産を迎える.ほかの地域のニホンジカと比べて成長に要する時間が長く,育児期間が長期化している.また,子ジカの体重はばらつきが大きく,同じ時期に約 3倍の差があることがわかっている.そのため,性成熟していない複数齢の子ジカが母ジカとともに行動している場合や,1歳への授乳が散見されるなど,育児様式が多様化している.また,繁殖コストのうち哺乳は妊娠に比べて多大なコストがかかることが知られ,金華山では栄養状態の悪化により隔年繁殖を招いている.同様に栄養状態が悪いといわれる宮島でも授乳中の母ジカの体重が 10%程度低下する場合もあり,幼獣にも母ジカの栄養状態の影響と考えられる成長の遅滞が観察された.そこで,翌年の繁殖への投資やタイミングに影響を与える子ジカの成長パターンや死亡率を明らかにし,出生時期や性による違いを検討した.さらに,子ジカに対する授乳行動の性差についても成長や死亡率との関連から考察した.また,ニホンジカのような体サイズに性的二型がある種では,体の大きいオスのほうが栄養の要求量が大きく成長速度が速い反面,脆弱性と結びついている可能性が指摘されている.金華山などでは初期のオスの死亡率が高いことが指摘されている.宮島においても 0歳から 1歳までと 1歳から 2歳までの子ジカの死亡率を推定し,性による違いがあるかを検討した.
著者
田戸 裕之 細井 栄嗣 岡本 智伸 小泉 透
出版者
山口県農業試験場
巻号頁・発行日
no.57, pp.15-21, 2009 (Released:2011-07-26)

1.作物ほ場へのシカの侵入を防ぎ、農作物被害を防止するための装置「改良型テキサスゲート」を開発し、現地での侵入防止効果を確認した。2.シカの侵入防止効果が高い資材は、グレーチング裏(桟)と鉄管ロープであり、効果がなかったものは波板トタンであった。3.シカが通行を忌避する理由は、グレーチング裏(桟)では蹄の間にグレーチングが挟まることを嫌うためであり、鉄管ロープでは鉄管の移動によって足が挟まることを嫌うためと考えられる。4.改良型テキサスゲートにおける鉄管の間隔は80mm程度、高さ300mm以上が必要である。5.現地試験の結果、改良型テキサスゲートのシカ侵入防止効果は高いと判断した。