著者
小泉 透
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.174-177, 2013 (Released:2013-08-20)
被引用文献数
5
著者
永田 純子 明石 信廣 小泉 透
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.215-224, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
24
被引用文献数
2

シカの高密度化が植生や森林土壌などに重大な影響を与えることは,ヨーロッパ,北アメリカおよびアジアなど北半球温帯域に位置する多くの国に共通した現象である.このような国々では,シカによる採食と樹皮剥ぎなどで被害を受けた森林が多くみられ,植物の種構成の変化,森林更新の失敗などが報告されている.我が国においてもニホンジカ(Cervus nippon)による農林業被害や生態系への影響が深刻化しており,対策が求められている.しかし,すでに過密状態にあるニホンジカ個体群のコントロールは困難を極めており,新たなアプローチを模索しなければならない.国際的な議論の動向や諸外国の先進的な取り組みを把握し参考とすることは,今後のニホンジカ管理体制の充実にとって重要である.本シンポジウムでは,科学的シカ管理に着目し,シカの生息地に存在する森林の包括的管理,および比較的新しいシカ管理手法として注目されているローカライズドマネジメント(Localized management)に焦点をあてた.アメリカ,英国,日本において,シカ管理と森林管理をテーマに研究を進めている4名が講演を行い,日本のシカ管理および森林管理に対するこれらの手法の応用可能性について議論を行った.
著者
島村 咲衣 安藤 正規 鶴田 燃海 永田 純子 淺野 玄 大橋 正孝 鈴木 正嗣 小泉 透
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.55-65, 2020 (Released:2020-02-14)
参考文献数
47

近年,日本各地でニホンジカ(Cervus nippon)による林業被害や森林生態系への影響が報告されている.狩猟者の減少や高齢化によって捕獲努力量が伸び悩む中でも森林への被害を軽減させるために,例えば北米において考案されている,オジロジカ(Odocoileus virginianus)母系集団の強い定住性を利用したLocalized Management法のような,被害防除に効果的な個体数調整手法の適用を検討していく必要がある.しかし,ニホンジカ地域集団内の母系集団の規模がオジロジカと同様であるかは不明であり,本手法の適用の可否は不明である.さらに,既存のマイクロサテライトマーカーによってニホンジカの母系集団を検出できるか否かも明らかになっていない.そこで本研究では,ニホンジカ母系集団の検出を目指してマイクロサテライトマーカーの解析能力を検討し,空間的な遺伝構造の検出可能スケールについて検討した.国内4地域(北海道,静岡,岐阜,宮崎)で捕獲された計251個体(胎子63個体を含む)を解析に用い,マイクロサテライトマーカー17座の遺伝子型を決定した.遺伝子座ごとの対立遺伝子数(Na)は3~18となり,オジロジカの値と比較して少ない傾向にあった.個体識別能力の指標PID-siblingを算出した結果,本研究では多型性の高い上位4座を用いて個体識別が可能であった.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性を評価するため,全集団平均の遺伝子分化係数(G’ST),各集団のNa,対立遺伝子数の期待値およびヘテロ接合度の期待値を算出した.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性はどちらも低い傾向がみられた.地域集団間および地域集団内において,STRUCTUREを用いた遺伝構造解析では,北海道および宮崎の集団は明瞭にそれぞれ独立のクラスターが構成されるものの,中部(静岡・岐阜間)の遺伝構造は不明瞭になるケースが確認された.一方で,地域集団内の遺伝構造(母系集団)は検出されなかった.胎子63個体を使っておこなった母性解析では,胎子を妊娠していた真の母親を推定できた確率は約20%にとどまった.本研究では,北海道,中部および宮崎の地域集団間の遺伝構造を明瞭に検出できたが,地域集団内の母系集団は検出できなかった.そのため,サンプル数のもっとも多かった静岡集団においても,Localized Managementの適用が可能な個体群であるとは断定できなかった.それは,各マイクロサテライトマーカーの多型が少ないことが原因であり,日本国内のニホンジカが過去に経験した個体数の減少によるボトルネック効果を反映していると考えられた.
著者
山田 文雄 友澤 森彦 中下 留美子 島田 卓哉 川田 伸一郎 菊池 文一 小泉 透
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.90, 2013 (Released:2014-02-14)

福島第一原発事故(2011年 3月)による放射性物質の生態系での動態や野生動物の影響を把握するため,地表や土壌中を生活空間とし短寿命のアカネズミなど小型哺乳類を対象に,1)原発から30kmの福島県川内村の国有林(高線量地,空間線量は平均 3.6 μSv/hr,2011年 10月測定)と,2)70kmの茨城県北茨城市の国有林(低線量地,空間線量 0.2 μSv/hr,2011年 12月測定)で継続調査を行った.放射性セシウム濃度(半減期約2年の Cs-134と約 30年のCs-137)は,1年目のアカネズミは高線量地(平均 4,415Bq/ kg生重,最大 18,034-最小 920Bq/kg, n=26)で低線量地(平均 1,124 Bq/kg,5,007-17Bq/kg,n=40)より 4倍,2年目は高線量地(平均 5,950Bq/ kg,最大 19,498-最小567Bq/kg, n=10)で低線量地(平均 370 Bq/kg,882-11Bq/kg,n=30)より 16倍高かった.ヒメネズミは高線量地(平均 5,360Bq/ kg,最大 26,218-最小 91Bq/kg, n=20)で低線量地(平均 221 Bq/kg,7,078-71Bq/kg,n=32)より約 24倍高かった.ヒミズは高線量地(平均10,664Bq/ kg,最大 29,061-最小 41Bq/kg, n=4)で低線量地(平均 650 Bq/kg,2,600-137Bq/kg,n=4)より 16倍高かった.高線量地のヤチネズミ(平均27,290Bq/kg,54,892-12,094, n=4)は高くアズマモグラ(1,017Bq/kg, n=1)は低かった.年変化(事故1年目と2年目)ではアカネズミは高線量地で変化は少ないが低線量地で70%減少し,アカネズミとヒメネズミの濃度は両地で類似し,アカネズミ,ヒメネズミ,ヤチネズミ及びヒミズが高濃度蓄積を示した.
著者
道上 和馬 中村 朋生 小泉 透 入江 英嗣 坂井 修一
雑誌
研究報告システム・アーキテクチャ(ARC) (ISSN:21888574)
巻号頁・発行日
vol.2020-ARC-240, no.31, pp.1-9, 2020-02-20

Approximate Computing は,計算精度と引きかえに実行時間と消費電力の双方を削減する技術である.この技術の適用範囲を広げる上での課題のひとつは,誤差を許容範囲内に収めることである.本論文では,この許容範囲がしばしばユーザの主観によって動的に変化することに着目し,計算精度を動的制御可能なアーキテクチャと計算精度の段階的制御が可能なループ近似手法「Loop Body Switching」を提案する.近似の積極度合いを指示する近似レベルを,Control and Status Register(CSR)に保持し,その値で Loop Body Switching の計算精度を制御する.提案するアーキテクチャをシミュレータ上に実装し,4 つのベンチマークを用いて評価をおこなう.近似レベルの増加に対して実行サイクル数は段階的に減少し,専用の分岐命令とハードウェア装置によりさらに実行サイクル数が減少した.
著者
田戸 裕之 細井 栄嗣 岡本 智伸 小泉 透
出版者
山口県農業試験場
巻号頁・発行日
no.57, pp.15-21, 2009 (Released:2011-07-26)

1.作物ほ場へのシカの侵入を防ぎ、農作物被害を防止するための装置「改良型テキサスゲート」を開発し、現地での侵入防止効果を確認した。2.シカの侵入防止効果が高い資材は、グレーチング裏(桟)と鉄管ロープであり、効果がなかったものは波板トタンであった。3.シカが通行を忌避する理由は、グレーチング裏(桟)では蹄の間にグレーチングが挟まることを嫌うためであり、鉄管ロープでは鉄管の移動によって足が挟まることを嫌うためと考えられる。4.改良型テキサスゲートにおける鉄管の間隔は80mm程度、高さ300mm以上が必要である。5.現地試験の結果、改良型テキサスゲートのシカ侵入防止効果は高いと判断した。
著者
八代田 千鶴 小泉 透
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>森林におけるシカによる被害は、林業への直接的な被害だけでなく森林生態系にも深刻な影響を及ぼしている。被害防止のために、個体数管理を目的とした様々な捕獲技術が開発されているが、これらの技術は給餌による誘引を利用したものが多い。そこで本研究では、給餌による誘引効果と下層植生との関連について検討した。静岡県伊豆半島中央部に位置する伊豆森林管理署管轄の国有林内において調査を行った。調査時期は、夏季(2014年9月)、秋季(2014年10-11月)、冬季(2015年1-2月)、春季(2015年5月)とした。調査開始前に、植生調査(階層毎の植被率)、植物現存量調査(下層植物の刈取)を行い、その後1カ月間誘引調査(給餌場へのシカ出没状況)を行った。草本層の植被率は、広葉樹林で低く人工林で高かった。同様に、植物現存量も人工林で多い傾向にあったが、シカの不嗜好性植物が優占していた。秋季から冬季にかけて全ての調査区で完食されており、不嗜好性植物の現存量は誘引効果に影響しないと考えられた。夏季および春季は調査区によって傾向が異なったことから、この時期は現存量だけでなく植物種構成など他の要因の影響も大きいと考えられた。</p>
著者
大泰司 紀之 呉 家炎 (W5 J) 余 王群 高 耀亭 揚 慶紅 (Y .′ Y .′ Y O) 彭 基泰 (T%.′ J) 鈴木 正嗣 武田 雅哉 小泉 透 梶 光一 常田 邦彦 高槻 成紀 三浦 慎悟 庄武 孝義 YANG Qing-hong PENG Ji-tai GAO Yao-ting WU Jia-yan YU Yu-qun
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

《1.形態・系統学的研究》 年齢群別に標本の記載・検討を行う目的で年齢鑑定に関する研究を行い、第1切歯および第1大臼歯のセメント質組織標本により、正確な年齢鑑定ができること、および歯の萌出・交換・磨耗等によって、およその年齢鑑定ができることが判明した。体重は、2.5カ月〜3.5カ月の子鹿7例の平均の43kg、雄の場合1.5歳約70kg、2.5歳約180kg、7〜13歳の成獣は約205kg 、雌の6〜14歳では約124kgであった。胴長の平均は、成獣雄123.8cm、肩高はそれぞれ121.5、117.3cmであった。これまでに報告のない特微として、出生直後の子鹿にはニホンジカと同様の白班があり、生後2カ月、7月中旬頃には消失するることが挙げらでる。頭骨は他のCervus属の鹿に比べて鼻部顔面の幅が広く、眼下線窩が大きく深い。これは乾燥・寒冷地への適応、草原におけるcommunicationとの関係を推測させる。大臼歯のparasrastyle、mesostyleが発達していることは、固い草本を食べる食性に適応した結果と考え得る。角は車較伏の枝分かれをし、1歳で2〜3尖、2歳で3〜4尖、3歳以上で5〜7尖になるものと推定される。以上の結果などから、クチジロジカはアカシカに似るが、ルサジカより進化したものと考えられる。《2.地理的分布および生息環境》 チベット高原東部の海抜3000mから5000mにかけての高山荒漠・高山草甸草原・高山潅木草原に分布している。分布域は北緯29〜40度、東経92〜102度の範囲で、甘粛省中央部の南部、青海省東部、四川省西部、チベット自治区東北部および雲南省北部にまたがる。分布域の年降水量は200〜700mm、年平均気温は-5〜5℃、1月の平均気温は-20〜0℃、7月の平均気温は7〜20℃の間にある。森林限界は3500〜4000m、その上は高山草原であるが、4000〜4500m付近まではヤナギ類などの潅木がまばらに生えている。《3.生態と行動など》 主要な食物は草本類(カヤツリング科・禾本科・豆科)であり、冬期にはヤナギ類などの潅木の芽も食べる。胃内容や糞分析の結果では、クチジロジカはJarmanーBellの原理によると草食(Grazer)である。出産期は5月下旬から6月で、1産1子。初産は2歳または3歳で、毎年また隔年に通常12〜14歳まで出産する。最高寿命は、自然条件下では雄で12歳前後、雌はそれより長いものと推定される。群れは最大で200頭、平均35頭。雌と子および1歳の雄も加った雌群、雄群、および発情期にみられる雌雄の混群の3つの類型に分けられる。性比は2.2、100雌当りの子の数は29頭であった。夏期は標高い高山草原で過ごし、冬期は積雪の多い高山草原を避けて潅木林へ移動する。交尾期の最盛期は10月で、11月中旬に再び雄群・雌群に分かれる。妊娠期間は220〜230日と推定される。交尾期の社会組織はハレム型と交尾群型の2つがあり、ハレム型は雌が25頭以下の時にみられ、大きな角を持つ成獣雄が1頭だけ優位雄となって加わる。雌の個体数がそれより多くなると、複数の優位雄が参加する交尾群となる。音声行動には、うなり声と優位の雄が出す咆哮とがあり、特に咆哮は4〜5音節から構成される連続声で、クチジロジカ独特のものである。《4.保護管理について》 チベット高原のクチジロジカは、ヤク・ヒツジ牧業が同高原へもたらされた2000〜3000年前から、人類の影響を受け、「チベット解放」後は、家畜と人口が増えたこと、自動車道路が発達したこと、兵站が各地に出来て、銃が多数持ち込まれたことなどの直接・間接的な影響によって、分布域・生息数ともに大きく減少した。今後は、有蹄類の保護管理に従って、地域毎の適正頭数(密度)を算定したうえで、その頭数になるまでは哺護を禁止し、一定の密度に保つ必要がある。そのような体制の出来るまでの間は、各地に保護区を設定して減少傾向を止めることが最も現実的と考えられる。
著者
友澤 森彦 坂本 信介 佐藤 淳 山田 文雄 小泉 透
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.89, 2013 (Released:2014-02-14)

福島第一原発事故によって放出された放射性物質の野生動物への影響は住民および国際社会の大きな関心事であるが,その遺伝的な影響や生理状態に及ぼす影響,またそれらのモニタリングの手法などについての情報は少ない.放射線被曝によって遺伝的な影響が生じる経路の一つとして細胞内の他の物質に放射線があたって生じた活性酸素が二次的に DNAを酸化することによる間接的経路がある.そこで本研究では環境中の放射性物質が野生動物集団に与える遺伝的影響を捉えるために,尿中の 8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)の濃度を計る事で DNAの酸化ダメージを計る事を試みた.8-OHdGは酸化ダメージを受けた核酸が修復される際に生じる代謝産物で,放射線被曝によって増加する事が示唆されている.2011年より福島県飯舘村,川内村および茨城県の北茨城市の 3地点でアカネズミを捕獲し,尿中 8-OHdGの濃度を比較した.その結果,幾つかの採集地点間で有意な差が見られたものの,空間線量率に応じた尿中 8-OHdG濃度の増加は見られなかった.一方臼歯摩耗度から推定される個体の齢段階に応じて尿中 8-OHdG濃度は高い傾向を示した.また個体ごとの筋肉中の放射性セシウム濃度と尿中 8-OHdG濃度は同一地点で捕獲された個体の間で大きくばらついており,両者の間には相関関係は見られなかった.以上の結果から,採集地点におけるアカネズミの尿中 8-OHdG濃度に対する放射線被曝の影響は加齢などのその他の要因による影響よりも小さい事が示唆された.また実際の DNAの多型についてもミトコンドリアおよびマイクロサテライトを指標に現在解析中である.